プッチーニ:歌劇「トスカ」
指揮:アントニオ・パッパーノ、演出:ジョナサン・ケント
アンジェラ・ゲオルギュウ(トスカ)、ヨナス・カウフマン(カヴァラドッシ)、ブリン・ターフェル(スカルピア)
2011年7月14日、17日 ロンドン・コヴェント・ガーデン王立歌劇場、2012年4月 NHK BS放送録画
有名なトスカだが、実演を見たことはなく、映像で見たのも多分2回目、1回目がなんだったか覚えていない。こうしてみるとストーリー展開は思いのほかはやく、前半で歌姫トスカと反政府活動にもかかわりがある画家カヴァラドッシ、そしてトスカが持つ疑惑と嫉妬、トスカをなんとかものにしようとしている警視総監スカルピア、役者はそろってさてフィナーレまでどうやって、というところまでいく。そのあとはもうカヴァラドッシはつかまっており、また策略でうまそうな話を持ちかけたスカルピアをトスカが刺殺してしまうのも案外はやい。あとはカヴァラドッシを助けられると思っているトスカと、それを見ているこっち(観客)の微妙なずれを、プッチーニがどう料理するか、である。
最後にカヴァラドッシの、例の「星は光りぬ」で決めるところはさすがプッチーニである。ただこのオペラが有名なわりに、他にこれといって動かされるメロディーはない。トスカの「歌に生き恋に生き」も、あのカラスが歌って彼女の人生とかさねてみるせいで有名なのかもしれないが、トスカというキャラクターにこっちがあまり感情移入できないせいもあってか、今回も特に印象はなかった。
そこへ行くと、憎いことは憎いが、こういう役があるのかというほど強烈な悪さをまき散らすスカルピア、これはもうけ役で、しかも歌うのがブリン・ターフェルだから、劇場にいた観客はたまらなかっただろう。
ゲオルギュウのトスカは、風貌・表情もぴったりといえばぴったりで、歌唱もミミ(ラ・ボエーム)よりはこっちがあうだろう。かのミレルラ・フレーニと反対(フレーニがトスカを歌ったことがあるかどうかは知らない)。
カヴァラドッシを歌うヨナス・カウフマン、今売り出しの人で、ローエングリンやジークムントなどワーグナーで聴いたことはあったが、それらでもどちらかといえばリリックな方だったから、今回のような役がむしろ現在の本領なのかもしれない。今のようにきれいな映像で見る人がふえてくると、この人といい、このところよく見ているフローレス(この人はコメディが多いが)といい、主役テノールには見目がいいこともより要求されるのだろう。