yama room

山コンビ大好き。

ブログではなくて妄想の世界です。

きらり

17   vol 3

2012-11-20 19:33:00 | 日記

借りた傘をみつめながら考える。

その人は傘は捨てていいと言ったけどやっぱり返すことにした。



その人はいつも困っている時に助けてくれる存在ではあったけど、
それだけで用がない限りは話したりすることもなく
単なるクラスメートの一人、という感じだった。

また助けてもらったお礼に、と話しかけても
そっけない態度を取られる事が多かったので
どう接していいのか戸惑うところもあった。


またその人の視線も気になっていた。
なぜか視線を感じてそちらを見るとその人がいる。
でも振り向いた瞬間にはその人は別の方を見ているので
確証はなかったが何となく見られているという実感があった。


それが何の意味をしめすのか分からなくて戸惑いばかりがおそう。
助けてくれたり優しくしてくれるけど、そっけない態度をとられる。
気づくと視線を感じる。
どうその人と接していいのか分からなかった。



でも借りた傘は返さなくちゃいけないと思い
一人になったところを
見はからって勇気を出してその人に話しかける。


「あの、櫻井くん」
急に後ろから話しかけたせいかビクッと背中が動く。
「あ、何?」
その人は振り向いたかと思うとぶっきらぼうにそう答えた。


この人のこういうところにいつも戸惑う。
優しくしてくれるけど言葉使いは決して優しいとは言えない。
だからどう話しかけていいのか分からなくてついおどおどし
ながら話してしまう。
「あの…傘、ありがとう」
そう言って傘を差し出した。


その人はびっくりしたような戸惑ったような表情で
見つめる。
そして傘の方に視線を移したかと思ったら手が伸びてきた。
そして傘を当然掴むのかと思ったらなぜか傘ではなく
傘を差し出したその手首を掴んだ。


「…?」
あまりの出来事に何も言えずただその握られた自分の手首を
見つめる。
その手は何故か手首を強く掴んだままだった。

暫くその握られた自分の手首をボーゼンと眺めていたが
「あのう…?」
そう言って自分より少し背の高い彼の顔を見上げた。
視線が合う。


その目は何故か切ないような愛おしいような目をしていた。
この人の自分を見るこういう表情にいつも戸惑う。
どうしていいのかわからなくなって
何も言えなくなって手首を握られた状態のまま見つめ合う。


でもその手は手首を掴んだまま離してくれそうもない。
誰かに見られても変に思われてしまうだけだろう、
そう思ってもう一度勇気を出して話しかける。
「櫻井くん、手…」
その言葉に急に我に返ったようで慌てて手首にあった手を離した。


そして慌てて傘に持ち替えたかと思うと
「ごめん。間違えた。
傘捨ててよかったのに」
そう言ったかと思うと傘を掴んで走って行ってしまった。


何が起こったのか訳が分からずボーゼンとして
ただその人が走っていくその姿を見送った。
そしてふと自分のその握られていた手首を見ると
少し赤くなっていた。

なぜその人がそんな事をしたのか分からなかったけど
それからもその人が助けてくれる事には変わらず
また特別親しくなることもなく日々は過ぎていったので
ただ単に考え事をしていて間違えたんだなと思うようにした。


ただ相変わらずその人の視線を感じる日々は続いていた。

それは自分でも不思議と嫌なものではなかった。
















走りながら胸がドキドキして止まらなかった。
自分でもどうしてそんなことをしてしまったのか分からない。

ただ話しかけられたその顔があまりにも美しくて見とれてたら
男の手とは思えない細い綺麗な手が差し伸べられてきた。


無意識にその手首を握っていた。


櫻井くん、と名前を言われてその時初めて我に返った。
そして自分のしていることに気づいて
慌てて手を離し間違えたとごまかしたが
絶対に変だと思われただろう。

そう思うと穴を掘ってその中に自分を入れてしまいたい気分だった。


どうしてあんなにその人が気になるのか

どうして何とかしてあげたくなるのか

どうして訳もなく見つめてしまうのか


自分の気持ちに気付いてしまった。





いや、とっくのとうに気がついてはいたが

気づかないふりをしていただけだ。


初めてその人を見たその瞬間から


好きだった。



だから気づかれないように必死になってわざとそっけない態度をとったり
ぶっきらぼうに接したりした。


でも気持ちを伝えることは、
辛い状況にあるその人には酷すぎるような気がしたし
困らせるだけだと思いしまっておく事にした。

















そして僕たちは3年になった。

クラスも変わり学校にも慣れてきたその人を
助けるという事はその頃にはなくなっていた。

ただ、その人を見かけると胸がきゅっと締め付けられる感じが
ずっと続いていた。


でもそんな気持ちもだんだん受験という波が

自分自身を巻き込んでいっていつしか忘れさせていった。









そして風の噂でその人は東京に戻るという事を聞いた。

自分は地元の大学に行くのが決まっていたので

もう会うこともないのかなと漠然と思いながら

その時は過ごしていた。





























大学を卒業し東京に就職したオレは忙しいながらも
充実した日々を送っていた。

そしてその頃にはすっかりその人を好きだった事を忘れていた。



でもある日この大都会の真ん中で出会ってしまった。



一瞬すれ違っただけだったけどすぐにその人だと分かった。

その人は小柄な人だったけど一際美しくて人目を引いた。


そして気が付いたら話しかけていた。

「あの失礼ですが…。
高校の時一緒だった大野くんですか?」
その人は振り返ると、びっくりした表情で見つめる。

「あ…っ」
少しの間の後、どうやら思い出したみたいだった。

「突然話しかけてごめんなさい。
高校の時一緒だった櫻井です。
覚えてないかもしれないけど。。」
あの時の君はきっとそれどころじゃなかっただろう。
それに仲のいい友達って訳でもなかったし。


そう思いながらも、そう話しかけると思いがけず
「覚えてるよ。サクライ ショウくんでしょ?」
そう言ったかと思うとふにゃんと笑った。
そのあまりの可愛さにクラクラとしながらも
「そう。覚えていてくれたんだあ、嬉しいなあ。」
そう言って何とか冷静になろうと努力しつつ、そう話しかける。


苗字だけでなくフルネームで覚えていてくれたなんて
それだけで嬉しくて舞い踊りたい気持ちを抑えながら
「あ、ごめんね。急に話しかけてしまって。
今、大丈夫だった?
もしよかったらだけどどこか入らない?」
このままで終わってしまうのがどうしても
嫌で慌ててそう提案した。


店に入るとその美しい顔で見つめられる。
「あの俺の顔になんかついてる?あ、老けたか?」
あまりに見つめられるから恥ずかしくなってそうおどけると
「ううん、顔は変わらないけど雰囲気が随分変わったなあ
って思って」
そう言って、んふふっと笑う。


「え?」
その言葉に少し動揺した。
「だってあの頃…。
ちょっと怖かったし。
話しかけづらい雰囲気を醸し出していたし
だからこうやって普通に話しているのが何だか凄く変な感じ」
こちらの動揺とは関係なくそう話を続ける。


「ああ、あの頃は…」
好きだったから。それをごまかすために必死だったから…
という言葉を飲み込む。
「あの頃は?」
その人は不思議そうな顔で聞く。


「いや、
いやなんでもない、多分いきがってただけ。訳わかんないけど」
本当は好きだったけど
ごまかすためのひそかな戦いだったんだけどね
と言う言葉は心の中にしまっておいた。


「それにしても懐かしいよねえ
これからも逢えるかな?」
これからも逢いたい。そう思ってそう話しかけると
少し怪訝そうな顔になった。


「いや、ごめん、調子に乗りすぎちゃったかな?
おれ地元から離れてきたばかりで寂しくって
だから知ってる人がいると嬉しくって。」
黙っているその人に慌ててそう言ってごまかすと
納得したようにいいよ、とふにゃんと笑った。







それから。
その日からあの頃の気もちがまたふつふつと吹き出してきて
止まらなくなってきている自分に気がついた。

いや、あれからまた一段と綺麗になっている姿を見て
あの時以上に気持ちが強くなってきている自分に気がついてしまった。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。