ご存知のように、この国において、ブルーグラスを愛する人はごく少数だ。ほとんどの人が
「なに、それ、お洋服?」
てなもんだろう。当然、メディアに登場する機会もほとんどなくなっている。ぼくが知る限り、FM放送で毎週日曜日に30分ほどの番組が流れていたのは、80年代の半ばごろではなかったろうか。それ以後、情報においてぼくは長い鎖国状態にいた。が、細々とぼくなりに努力してきた。もちろんコアなファンのために定期的にニュースレターを届けてくれる専門店が二、三あったらしいが、片田舎にいてはその存在すら知る由もない。
インターネットはまさに文明開化だった。ブルーグラスというコンテンツが自分にあり、それを高めたいという意欲があるからかなえられたのだと思う。が、その速度、密度、質量はけた外れだった。
ミズリー州のブランソンという小さな町がある。音楽をテーマパークにしたような町で、全米からバスで日に何万人もが訪れるのだが、ショージ・タブチという日本人フィドラー(バイオリン弾き)がいて、自分の名前を付けた二千人収容のシアターを持ち、日に二回公演を、年間200日、しかもそのすべてを満員にしているらしい。
最初にインターネットを通して知ったことだ。
この人の大学時代の演奏が、ぼくをブルーグラスの虜にしてくれたのだ。「全国大学対抗バンド合戦」というラジオ番組でだった。アンプラグドで、たった五人で、早稲田大学のビッグバンドジャズ、ハイソサイティに勝利した演奏は、鳥肌が立った。
「mp3.com」というサイトがあった。今はない。あらゆるジャンルの音楽が無料でダウンロードできて実にありがたかった。そのコンテンツにブルーグラス専門の、「into the blue」というラジオ番組があった。1時間の番組を4つのファイルに分けてゲットできるのだ。オープニングからエンディングまで、さながらアメリカにいて暖炉の前で寝そべりながら聞くといった気分にさせてくれたものだ。まだ回線はISDNで一本のファイルを1時間もかけて落したものだ。ロンダ・ヴィンセントやマイケル・クリーブランドを知ることができたのも、この番組のおかげだ。
とにかくインターネットにしろ、パソコンにしろ、コンテンツ次第だ。とりわけ自分の好きなことから調べ始めるよう。与えられると待つのではなく、自分から取りにいくのだ。