昔の今戸焼の土人形の再現を目指したいとかねがね思っていますが、実際にやってみてはじめて昔の人の手間がいろいろわかるような気がします。
今戸の人形の古いものを観ると時代によって使われている色の素材の変遷がありますが、一般的には最後の今戸人形師であった尾張屋・金澤春吉翁(明治元年~昭和19年)のお作りになった人形の配色や感触からのイメージが強いのではないでしょうか。
春吉翁の描彩は翁が実際に明治時代に父上の兼吉翁から教わったやり方だったことでしょうし、それは天保年間あたりからの今戸での描彩の伝統を引き継いだものだったかと思われます。
実際に春吉翁が絵付けしている現場を観たわけではないのですが、遺された人形から同じような効果をを出そうとして自分なりに試行錯誤しています。
一例として春吉翁のお作りになられた「月見兎」を手本として作ったものの描彩の手順をお伝えしたいと思います。(どの色も膠をつなぎとして混ぜます。)
①木地に胡粉の下地を施す。
②耳と目の部分にスカーレット染料を薄く溶いて膠を混ぜたものを置く。(スカーレット染料だけでは青みが強いのでサルホンオレンジ(樺粉)染料とピンク染料を混ぜる。)
③眼に墨で目玉を入れる。
④朱色で口を入れる。
⑤胡粉+群青で襟元と袖を置く。
⑥朱色で着物に色を置く。
⑦白緑(緑青+胡粉+黄色)で帯に色を置く。
⑧朱色の上から膠を冷ましたものをひいて照りをつける。
⑨群青で羽織部分に色を置く。
⑩帯部分に膠を上塗りし、真鍮粉を散らす。
⑪羽織部分の群青の上から極薄くした膠を置き、乾かない内に真鍮粉を散らす。
⑫目玉に膠を上塗りする。
以上の12工程で終わりです。
春吉翁の場合、眼耳と口は同じ赤系統の色でもスカーレット染料と朱色とで色を使い分けることが多いです。(例外もあるかもしれませんが、、。)また春吉翁は朱色の着物部分に胡粉の白で袷の線を入れるのですが、これだけは私はやっていません。(ちょっと説明的なような気がするので。)
春吉翁以前の今戸人形でも朱色(洋紅の場合もある)やベンガラ、墨の部分には上から膠で照りをつけ、緑や群青の上から真鍮粉を振ることが多くの作者がやっていることが多いです。
色数からすれば、地色の胡粉の白を含めて7色なのですが、照りをつけたり、真鍮粉を散らすための手間が重複している訳です。
私の場合「月見兎」には上記の12の工程で塗っていますが、春吉翁だったらもっと手際よくすすめていらっしゃったのかもしれません。
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