11. 動物のミトコンドリア内でのATP生成
ミッチェルは、エディンバラにいた1961年に、画期的な新説を提示した。細胞呼吸のメカニズムとして「化学浸透共役(chemiosmotic coupling)」を発案したのである。「OSMOSIS(浸透)」という言葉をギリシャ語の意味「押す」で使っていた。ミッチェルにとって、化学浸透とは、濃度勾配に逆らって、膜を通過するように分子を押すことだったのである。
呼吸鎖の目的は、プロトン(H+)を押して膜を通し、向こう側にプロトンの貯えを作ることであり、膜の向こうに貯めたプロトンの力が、一度に少しずつ放出されて、ATPの生成を促すのだ。4つの呼吸鎖複合体のうち、3つはこのエネルギーを使って膜の向こうへプロトンを汲み出す。
プロトンは、正電荷をもつため、プロトン勾配には、電気の成分が電位差を生み、膜の外側の方が、酸性度が高くなる。膜をはさんだこのPH差と電位差の組み合せが、ミッチェルの言う、「プロトン駆動」を形成する。この力こそが、ATPの合成をうながす。
ATPを合成するのは、ATPアーゼの役目なので、つまりATPアーゼの動力源がプロトン駆動力でなければならない。とミッチェルは、予言した。
ミトコンドリア「共生説」はラン藻類が登場してから、酸素濃度が上昇を続け、酸素からエネルギーを生産できる好気性細菌が誕生し、酸素のほとんどない大気に適応し、有機物をエサにしてきた嫌気性古細菌は、好気性細菌を取り込み、そのATPを利用して、酸素濃度の上昇に適用しようとしました。これがミトコンドリアであり、細菌にエネルギーを供給している。
マーギュリス(margulis)説によると、真核生物の中にミトコンドリアを取り込んだものは、動物に、葉緑素を取り込んだものが植物になった。このミトコンドリアのプロトン駆動が、糖類のエネルギーを酸素によって、ATPを作ることによって、エントロピーに逆走している。
ATP:アデノシン三リン酸 (C10H16N5O13P3)はエネルギーを要する生物体の反応素過程には、必ず使用され、(解糖系:グルコースのリン酸化など、筋収縮:アクチン・ミオシンの収縮、能動輸送:イオンポンプなど、生合成:糖新生、還元的クエン酸回路など、発熱:反応の余剰エネルギーなど)「ATPは生体のエネルギー通貨」であると言われている。
(ミトコンドリアが進化を決めた ニック.レーン)(第14回)