14.キーストーン(頂点捕食者)と生態系のバランス
14.1 ラッコとジャイアントケンプの海中林とウニ
『ラッコがいるアムチトカ島と条件が同じで毛皮ハンターのせいでラッコがいない島に行って、違いを調べればいいのだ。エステスは考えた。─海に潜ってウニを数え、ケンプの大きさを測り、ラッコがいないために生じた違いをすべて記録していこう。(アムチトカ島、シェミア島もアラスカから、ベーリング海に伸びたアリューシャン列島の島々です)
最初に選んだのはシェミア島だった。アムチトカの320キロ以上西に浮かぶ15.5平方キロほどの岩の島で、ラッコは皆殺しにされ、アムチトカとは好対照になっていた。飛行機をチャーターしてアムトチカから、シュミアへ飛んだ。
翌日彼らはボートで礁へ向かった。エステスはウエットスーツを着て海に潜った。「海底はどこもかしこも緑の絨毯を敷いたようにウニで埋め尽くされていた。ケンプはなかった。ウニが急に増えたせいだ。瞬時に、ケンプの森のシステムに於いてラッコがどんな役割を担っているかがわかった。そしてそれがいかに大切だあるかということも」
シェミアにはとことん刈り取られた海の景色が広がっていた。そして唯一の明確な違いは、ラッコがいるかいないかだ。北大西洋の最も豊かな生態系は、ラッコがいなければ丸裸になってしまう。
もしエステスが見たものが全体にあてはまるなら、海洋の食物連鎖のピラミットは、最終的に上から支配されていることになる。
その夜、宿舎に戻ると、エステスはとりつかれたように日誌を書き続け、一睡もせずに朝を迎えた。ラッコからウニへ、そしてケンプへと生物の生態がもたらす衝撃と反撃が海中の世界を変える。』(捕食者なき世界(Where The Wild Things Were) ウィリアム・ソウル・ゼンバーク)
北太平洋のジャイアントケンプの海中林に於いて、ラッコは何の役にも立ってなさそうに見えるが、ラッコがキーストーンとして、ケンプとウニとラッコ自身のバランスを保っていた。ケンプの森のコンブをウニが食べ、そのウニをラッコが食べ、その排出物がケンプの養分となる。
このジャイアントケンプの海中林は、多くの魚類や貝類の住処でもあり、ラッコがケンプの海中林の代謝を高め、ジャイアントケンプの海中林は、全体としてエントロピーに逆走している。(第18回)