チェロ弾きの哲学ノート

徒然に日々想い浮かんだ断片を書きます。

コヨーテとチャパラル固有の鳥

2012-07-11 14:17:51 | 哲学

14.2 コヨーテとチャパラル固有の鳥

 『スーレたちは、ロマ岬の林を訪れた。一万平方メートルほどの小さな林で幼い頃のようにチャパラル(低木からなる林)特有の鳥の声を聞き、姿を見ようとした。しかし声は聞こえず姿も見えなかった。「衝撃だった。これほど深刻だとは気づいていなかったのだ」

 彼らは、本格的な調査に取りかかった。サンディゴ郊外に散在する2千平方メートル~0.4平方キロの37の林を選んだ。ここの鳥たちは島嶼生物地理学に従うはずだと予測していた。すなわち、鳥の数は時と共に減少し、それも林が小さく、他のチャパラルから遠く離れているほど急速に減ってゆくだろうと。

 調査開始の間際になって、スーレはもう一つの変数を加えることにした。「捕食を無視すれば、キツネやネコやコヨーテが鳥を殺したのではないとなぜ分かるのかと問われるだろう。そこで少なくとも捕食者の有無を調べておくことにした」

 彼はそれから2年に渡って調査し、結果を集計した。予想通り、林にいるチャパラル固有の鳥の種の数は、林が狭くなるにつれて減っていった。しかし、分析を進めるうちに予想もしなかった第三の要因がデータから飛び出し、スーレを驚かせた。

 コヨーテが生息する林の方が多くの種類のチャパラルの鳥を保っていたのだ。スーレには、すぐにその理由がわかった。子供のころスーレは、自宅のネコ用のドアが不意に大きな音を立てた。「ダダダッと音を立てて、ネコが悪魔にでも追われているかのように駆け込んできた」とスーレは語る。

 スーレらはこう概説するこの結果から察するに、コヨーテは峡谷に於ける小型捕食者(ネコを含む)の数の調整に役立っており、おそらくチャパラル固有の鳥類相の維持にも貢献しているものと思われる」

 これは上位捕食者が消えた場所では、それより下位の捕食者(中間捕食者)の一団が勢力をのばし、10倍にも数を増やして好き勝手をするようになるのだ。中間捕食者には、キツネ、アライグマを上回ってネコが甚大な影響をおよぼしていた。すなわちコヨーテがうろつく場所ではネコが怯えて逃走し、チャパラルの鳥は元気にさえずるのだった。』(捕食者なき世界) 

 北海道のオオカミは、エゾシカを狩りして、生きてきたが、明治になって和人が北海道に入植し、開墾して家畜を飼い始めた。オオカミが家畜を襲ったため、北海道庁は毒エサと報奨金によって、オオカミを絶滅させた。

 そのため、今日では広葉樹の若木を食べ尽くした。知床では、この二,三十年のあいだ広葉樹の若木が育ってない。オオカミがいる時のエゾシカは、オオカミを警戒して、一本の木に長く留まることがなかったので、1本の木の皮や芽を食べ尽くすことはなかった。

 オオカミは、頂点捕食者として、エゾシカの頭数と警戒心をコントロールすることによって、広葉樹の森を豊かにしてきた。

 チャパラルの林や北海道の広葉樹の森は、それぞれにエントロピーに逆走した生態系であるが、頂点捕食者のコヨーテ、オオカミもエントロピー逆走の駆動力の一翼をになって、豊かな森林が形成される。(第19回)