チェロ弾きの哲学ノート

徒然に日々想い浮かんだ断片を書きます。

芸術作品

2012-09-01 16:38:17 | 哲学

16.5 芸術作品

 エントロピー増大の法則に正しく逆走したものが、人類が残した文化遺産であり、芸術作品であると考えます。単にエネルギーをいくら投入しても、芸術作品は生まれない。そこで、芸術作品は、どのように生まれるのかを私なりに考察します。

 芸術作品は、これまでの芸術分野の技術を一つ習得し、現実の世界を観察し、そこにある美的な何か、哲学、人間性などを抽出し、そこに自分の芸術観と工夫した技法を集積、集中させ、試行錯誤の後、いくらかの幸運を伴って完成され、後世にのこされ、多くの人々に感動を与えたものが、芸術作品である。

 一般に一部の天才によって、芸術作品は、生み出されたと考えられるが、いくら天才でも、一人では芸術作品を生み出すことは出来ない。むしろ、その時代のその都市の空気(活気、豊かさ、文化的土壌)の中から、優れた芸術家は、生み出される。すなわち、天才を育てる、文化的土壌、ある種の豊かさ、ある種の活気が、その都市、その時代が持っている必要がある。

 その前提のもとで天才が、何かに非常に高い価値を感じ、それを自分の持っているありたけの技術、英知、努力によって、ある作品を創造することが、可能となる。しかしながら、多くの作品のほんの少数が芸術作品として残ることが出来る。

 芸術とは、自然の風景、植物、動物、人(女性)、思想、音(音楽)、機能、生きる美しさの中から、何かで統一された概念で価値を抽出し、それをある技法と哲学によって形あるものに表現することである。さらに芸術作品は、斬新なアイデアを精緻な技法によって、重層的に積み上げて行かなくてはならない。

 どこかに矛盾が存在した時、そのために多くの作品は破綻する。それを克服して、その芸術作品に生命の輝きを吹き込み、見るもの、それを使用したものにある感動を与えたものが、ある幸運をによって芸術作品となる。人間には、何か芸術性を感じうる能力が存在しているが、これらは、過去の芸術文化の中から、自分が芸術性を感じるものを、選び出し、自分らしさを加えて、自分の芸術的感覚が備わる。

 芸術作品を生み出すには、材料、道具、技法を修得しなければならない。ある場合には、何代かの又はその地域の技術と英知の集積がなければならない。さらには、それが芸術作品となるためには、その芸術を高く評価して、対価を支払う(活力ある都市)文化人の存在が必要である。

 人類は、自然の中に美しいものを発見したり、より美しいものを創造しようとする欲求が存在し、これがエントロピー逆走エンジンである。そのためには、その欲求を修練によって、静的作品に、ある動的生気を見る(聞く)人々に感じさせる。(第42回)