「音楽&オーディオ」の小部屋

クラシック・オーディオ歴40年以上・・身の回りの出来事を織り交ぜて書き記したブログです。

音楽談義~バッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ~

2007年12月07日 | 音楽談義

11月13日付のブログ”オーディオ訪問記”で湯布院のAさん宅のクリプッシュホーン(スピーカー)を紹介したところ、オーデイオ仲間のMさんがこのヴィンテージ・スピーカーを是非一度聴いてみたいとのご希望だったので、Aさんにご都合を伺い4日の午後に日程をセットして一緒に訪問した。

昔の職人肌の熟練者による手作りのスピーカーは現代の技術では及ばない未知の音の領域を持っているので、電気技術=オーデイオ=音楽のバランスがとれたMさんがどういう感想を洩らされるのか大いに興味があるところ。

この日からいきなり寒波に襲われた日本列島だが、九州といえども由布山系に囲まれた盆地・湯布院の冷え込みは半端ではなかったものの、試聴結果は実に熱いものだった。

AさんとMさんとはまったくの初対面だが、二人とも超がつくオーディオ愛好家なのですぐに話が通じてまったく初顔合わせとは思えない溶け込みぶり。

早速、待ち合わせた「山のホテル夢想園」からAさんのご自宅に移動。一階のオーディオルームはウェスタンの伝説の15Aホーン、二階にはお目当てのクリプッシュホーンが置いてある。

まず、一階から攻略。入室するなり巨大な15Aホーンが大きな口をパックリ開けてリスナーを圧倒する。
最初に、Mさんが持参したヴィヴァルディ作曲の”ヴィオラ・ダ・モーレ”(エラート原盤)をかけてもらった。このCD盤の聴きどころは、バロック音楽特有のきらびやかな高域、特にヴィオラの高音が耳当たりがいいかどうかといったところ。直前の我が家の試聴では、ややうるさく聴こえてしまってガッカリさせた厳しいテスト盤だ。

しかし、このウェスタンの巨大ホーンでは鳴りはじめから自家薬籠中のものとなってイヤ味な音をおくびにも出さず、深々とした音質で聴きやすく、古い録音にはぴったりで気宇壮大な癒される音質とでも言うべきか。まずは滅多に聴けない音。

次の試聴盤はAさんご推奨のスメタナ作曲
「売られた花嫁」。不世出のテノール歌手ヴンダーリヒとローレンガー、フリックの組合わせ。こういうところ(選曲)にAさんの音楽的教養がさりげなく伺える。日頃聴き慣れない名曲を楽しませてもらった。

一段落していよいよ本命のクリプッシュ・ホーンが設置してある二階に上がった。この部屋ではJBLの375をメインとしたシステムとの二組が設置してある。

クリプッシュ・ホーンではまず
マリア・ジョアオ・ピリスのピアノから。Aさんは最近集中的にこのピリスを聴いておられるそうで、たしかにピリスの洗練された美意識は素晴らしい。演奏に音楽心(ごころ)がある。先日のNHKBSハイで夜遅く再放送によりピリスのベルガイシュ(スペイン)の生活振りが放映されていたのを憶い出した。(11月22日23:40~0:56「ベルガイシュからの風」

DVDに収録のうえ貴重な映像を観たわけだが、ピリスはたいへんなコンサート嫌いで「芸術(家)は気取るべきではない、日常の生活の中にあるべきだ」の発言の趣旨にまったく同感!いまの時代には得がたいタイプの芸術家だ。

さて本題に戻って、ピアノもよかったがヴァイオリンもなかなかよく聴かせてくれた。
バッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタを聴くに及んでとうとうオーディオを忘れて音楽鑑賞に没入した。次の9人の一流のヴァイオリニストの聴き比べである。

エネスコ、ズスケ、ヘンデル、クレーメル、シェリング、ハイフェッツ、シゲティ、ハーン、ミルシテインによるバッハの競演。まず、これだけの盤を収集されたAさんの熱心さには頭が下がるところ。9人それぞれに個性があって、同じ曲目とはいえ千差万別だった。

試聴結果は次のとおり。

Aさんのお好みは
ハイフェッツ、シェリング、、クレーメルの3人。昔のタンノイⅢLZの時代はシゲティだったが、このクリプッシュ・ホーンになって、ハイフェッツのテクニックに驚嘆し、さらにシェリング、クレーメルの音楽性にも心惹かれるとのこと。

Mさんの一押しは
クレーメル。演奏と音質が高いレベルで両立しているとの感想で、”バッハの曲こそ音楽の中の音楽”と、帰りの車中の会話でも力説され、その造詣の深さには感心した。

さて、最後に自分だがバッハにはいまだに馴染めないというのが本音。したがって正直言って誰の演奏を一押しするか断定するのはいささか心もとない。

極端な言い方をすればメロディの森に満ち溢れたモーツァルトという山は制覇したつもりだが、純粋な音の組み合わせによる作曲家バッハの孤高の山の頂には未だはるか道遠しの感がしている。

話がややそれるが、
バッハとモーツァルトの音楽の違い”これはなかなか興味深い比較で、音楽のあり方、聴き方の本質に関係してくる結構面白いテーマ


これについては「モーツァルト二つの顔」(礒山 雅著 講談社刊)第9章「モーツァルトとバッハ」に両者の音楽の違いを明確に指摘した非常に鋭い考察がある。神の観念の有無にまで踏み込んだ卓見だと思うのでいずれ取り上げてみたい。

さて、試聴に熱心なあまり、時間が過ぎるのも忘れてしまい最後のハーンの演奏が済んだときは夕暮れの気配が漂う17時過ぎだった。いろいろとご迷惑をかけてはとそそくさとAさん宅を後にして夢想園に戻った。

一段と冷え込んだ外気の中で音楽脳の方はいまだ興奮冷めやらないままに、駐車場で丁重にAさんにお礼を言ってMさんとともに帰途についた。

いい音、いい音楽に包まれていい時間を過ごさせてもらい音楽・オーディオ冥利に尽きる半日だった。

 


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする