「珍しいことにAXIOM80ユニット(以下「80」)がオークションに出品されてます。写真で見る限りどうも希少品のオリジナル・ユニットのようですが、確認していただけませんか?」と、同じ「80」愛好者のKさん(福岡)に連絡をとったのが10月31日(木)のことだった。
すると「ちょっと(電話を)切らないで待ってください。パソコンを開いてみますね~。ああ、これは間違いなくオリジナルです。それにとても貴重な初期のものです。きちんと音が出ると書いてありますからコーン紙には異常がないみたいですね。」
そこで、「現在の入札価格は22万円となってますが、どのくらいまでなら引合いますかね。場合によっては手持ちの復刻版の2セットのうち、1セットを処分して入れ替えてもいいと思っているのですが。」と、追加の質問。
Kさんからは「オリジナルの程度のいいものなら軽く30万円を越えますが、このユニットは全体的にサビもありますし、手入れも行き届いていないみたいです。せいぜい25万円までといったところでしょう。ただし、オリジナル版と復刻版の音の差については私の立場からはなんとも言えませんので、わざわざ買い直されるのがいいのかどうかはどうかご自身でご判断を・・・・」
オークションに出品されていた「80」の写真である。赤の塗装の色などが明らかに手持ちの復刻版と違うので確認してみたわけだがやはりオリジナル版だった。
「ウ~ン、入札しようか、しまいか」迷うなあ。落札期日は11月1日(金)の22時51分なので、残された時間は丸1日。
「80」はなにせ極めて繊細なツクリなので、非常に故障が起きやすい。そこで常時安心して試聴するためにスペアを確保しておかねばと、随分苦労して数年前にようやく「80」をもう1セット手に入れたわけだが、残念なことに手持ちの2セットはいずれも復刻版。
それにひきかえ、同じ「80」愛好者のKさんやSさん(福岡)のものは「オリジナル版」(笑)。
ここで問題になるのは「いったい両者のどこが違うか」だが、Kさんによると主にコーン紙の材質が違っていてオリジナル版の方が比較的軽目に作ってあるそうで、これは(コーン紙の)振幅運動(=音声信号に対する追従性)にとって、より有利であることは間違いない。
たとえば、あの口径38センチのSPユニットが持つ音の重量感とは裏腹の「反応の鈍さ」はコーン紙の重たさによるところが大きい。
したがってコーン紙の材質は当然の如く音質の差にも関わってくるわけだが、巷の噂、ことにオリジナルの所有者の間では「復刻版に比べてオリジナルの方が断然音がいい」と、されている(笑)。
実は以前にも、管球プリアンプの名器とされる「マランツ7」の復刻版を手に入れたことがあり、(今では友人の元に嫁いでいるが)、オリジナル版とどこがどう違うんだろうと気になったことがある。そういえばマッキンの真空管アンプC22や275も復刻版が闊歩しているので、この世界ではそれほど珍しいことではない。
一般的に家庭用の電化製品などでは、テレビなどを嚆矢(こうし)として技術革新によって新しいものほど性能が良くなっていくが、オーディオの世界はまったく逆の事例が多い。
真空管の性能だって古いものほどいいし、さらに言わせてもらうならクラシック音楽だって名指揮者や名演奏家が綺羅星のごとく並んでいた1940~1950年代の演奏が黄金時代とされているのだから”むべなるかな”である。
SP → LP → CD → PC(ハイレゾ)と変遷してきている音源の再生も、ほんとうに良く出来たSPやLPを聴かせてもらうと、「周波数レンジの拡大とはいったい何ぞや?」という疑問が自ずと湧きあがってくるはず。
オーディオに限っては過去を辿ることがけっして単なる懐古趣味とは言えないのである。
さて、オークションの方だが結論から言えば散々迷った挙句、キッパリ諦めることにした。せっかく手に入れた復刻版なので「縁」というものを大切にしたい気がしてきた。もちろん、お金も惜しいし~(笑)。
第一、程度の方も極めて良好だしこれから鳴らし込めば込むほど、もっと音もよくこなれてくるに違いない。
それに大なり小なり、常に何らかの負い目と不満を抱えながら趣味を楽しむのもこれまた“よき哉”である。
ほら、人生だって100%満足とはいかないことばかりでしょうが(笑)。
最後に申し添えておくと結局、この「80」の落札価格は231,114円、入札件数は79件だった。Kさんに、その旨連絡すると一言、「手を出さなくて正解ですよ」。
ちなみに出品者は「80」の本来の値打ちを知らない雑貨屋さんのようで開始価格は何と1000円だった。したがって、今回の場合は超安値での落札もありえたわけで、こういう事例をみると今後オークションからは片時も目を離せない気になってくる!