「隣の芝生は青い」という言葉がある。「何でも他人のものは良さそうに見える。」という意味だが、これを敷衍(ふえん)すると「ないものねだり」という言葉もある。「自分にも折角いいものがあるのに、それに気付かずやたらに他人のものを欲しがる」という意味だが、一昨日の22日(日)の試聴会の結果を簡単に括れば、この両者を合せたようなことになってしまった。
経緯を説明しよう。
「AXIOM80」愛好家三人組(Kさん、Sさん、自分)の集いも早いもので第7回目を迎えた。5月に開始して月1回のペースによる持ち回りだが、今回はKさん宅(福岡)での開催となった。
システムから出てくる音の評価は人それぞれなのであえて言及しないが、少なくとも音楽とオーディオにかける情熱にかけては人後に落ちない三人組、しかもそれぞれに異なる持ち味があって個性豊かときているので「今回はどういう音に巡り会えるんだろうか」といつも胸がワクワクする。
ちょっと気になるのが睡眠不足。ご存知のとおり音楽鑑賞には大敵の存在だが、今回は前夜の就寝前に入念にストレッチをしたところ、珍しくぶっ続けに7時間眠れてハッピー。これで万全の態勢で臨めると大張り切り(笑)。
お天気の方も晩秋にふさわしく暑すぎず、寒すぎず、遠出にはもってこいの日だった。
「スピードを出さないようにね。危ないからあまり暗くならないうちに帰るのよ!」と誰かさんの言葉をウン、ウンと軽く受け流して、丁度9時に出発。
3連休の真ん中にもかかわらず閑散とした高速道をひた走り、順調に10時20分ごろにKさん宅に到着。距離にして120km、かかった時間は80分、一般道に費やした時間を差し引くとおよそ時速〇〇〇kmで高速道を走破した計算になる。年甲斐もなくかなりの飛ばし屋である(笑)。
この3人組の共通点となると、オーディオ歴が40年前後、SPユニット「AXIOM80」の愛好者であり、使っているアンプはすべて真空管アンプということになるが、ここで改めて今回のホスト役に当たるKさんのシステムを紹介しておこう。
使用中のレコードプレイヤーは3台。こだわりは「ワンポイント・オイルダンプ・アーム」と「アイドラードライブ」にあり、カートリッジはデンオンの「DL102」(モノラル用)と「DL103」(ステレオ用)。昇圧トランスはタムラでLCRイコライザーアンプは真空管式。
特筆すべきはパワーアンプの方で真空管アンプを10台以上と数えきれないくらい沢山お持ち!
71A真空管のシングルとプッシュプル各1台、45シングル、50シングル、2A3シングル、KT77シングル、VT25Aシングル、VT52シングル、WE349Aシングルとプッシュプルなど枚挙にいとまがない。
加えて名管の宝庫と言っていいくらい稀少管を多数所有しておられる。マニアなら涎が滴るレイセオンのエンボス・マーク入り真空管、2A3の一枚プレートもの(3ペア)などはほんの序の口だ(笑)。
スピーカーは前述したように「AXIOM80」とラウザーの「PM6」(角形フレーム)の2系統。
このほどCDからレコードへ方向転換されたが、これまで集めたクラシックレコードが1500枚、ジャズが500枚とあってソースに不自由はない。
本日はこの中からKさん一押しの「2A3シングル」アンプを聴かせてもらった。
今のところ「AXIOM80」との相性が一番いいとのことでもちろん一枚プレートもの。自分も2A3アンプを1台持っており、一枚プレートものが欲しいことは欲しいがちょっと高価すぎて手が出ない。通常の二枚プレートの2A3は定評のあるRCAブランドでも1ペアで2~3万円程度だが、一枚プレートものはオークションでも15万円前後するので別格扱いである。
真空管「2A3」の発祥の地はアメリカだが、当時の名管「PX4」(イギリス)やウェスタンの「300A」(アメリカ)と堂々と渡り合い、むしろ駆逐したほどの逸品だから音の方も段違いで、さすがはと唸らせるものがある。
まずは「新世界より」を3種類聴かせてもらった。
左からターリッヒ指揮のチェコフィル、ケルテス指揮のウィーンフィル、アンチェル指揮のチェコフィルの順番。
演奏を聴くのならターリッヒ指揮、音を聴くのならケルテス指揮の「スーパー・アナログ・プレス」とのことだったが、この盤からは信じられないほどのスケール感豊かな音が迸り出た。
同席したSさん(福岡)と異口同音に「いやあ、驚きました。とてもAXIOM80から出てくる音とは思えませんよ!」。
「精緻な佇まい」が売りのSPユニットなのに、こんな雄大な音を出されるとこれまでの「AXIOM80」観がすっかり変わってしまう。鳴らすのがとても難しいユニットで音の重心をいかに下げるかがポイントだが、改めて測り知れない能力を秘めていることに気付かされた。我が家もまだまだ工夫の余地がある!
Kさん曰く「AXIOM80は低音に音色があるところが好きです。」。「低音に音色」とは実に言い得て妙で、この意味が分かる人はオーディオに随分と四苦八苦された方であることは間違いなし(笑)。
ちなみに、このケルテス盤は往年のデッカ(イギリス)のアナログ優秀録音で、エソテリックから次々にSACD化されているシリーズの1枚にあたる。現在オークションに出品されているSACD盤の価格は10万円!
これ以外にも本日はCDをいっさい聴かず「レコード三昧」だった。
不思議なことにレコードの場合、ステレオ盤よりもモノラル盤の音の方の力強さに強く魅かれた。「カートリッジ部分で音を左右に分けると音のエネルギー感が失われます。」とのKさんの言葉に心から納得。周波数レンジにも似たところがあって、広げ過ぎるとやや薄味になることは否めない。
楽しくてたまらないときはあっという間に時間が過ぎる。あまり遅くなると夜の高速道がちょっぴり不安なので後ろ髪を引かれる思いで16時ごろに辞去した。
帰りもスイスイで、自宅に着いたのは丁度17時20分。しかし、「秋の日はつるべ落とし」で、もう既に暗闇状態になりつつあった。道中、スピード違反で覆面パトに捕まった車を尻目に「おいおい、追い越すときは運転席と助手席に男が乗ってるかどうかチラッとでも確認しろよ。」とつぶやきながら、同時に覆面パトの車種と車体の色を後日のためにチェック(笑)。
そういえば、自分が乗ってるクルマは2代前の白のゼロ・クラウンだが、以前、覆面パトに同車種が使われていたことがあり、今でも他のクルマが自分を追い越すときは“ためらいがち”になるのをはっきりと認識している。
翌日(23日)は朝から大忙し。
ケルテス指揮の同じ「新世界より」のCD盤を持っているので、我が家のシステムからKさん宅のような力強い音が出るかどうかのテストにとりかかった。
他流試合をすると、こういうところが実にいい。刺激を受けるし「井の中の蛙」にならずに済む(笑)。
プリアンプ2台とパワーアンプを3台とっかえひっかえして試聴したが、肉薄するものの残念なことに「ウェストミンスター」からでさえも、あれほどの雄大で力強い音が出ないのには少々ガッカリした。
Kさんに電話して昨日の謝辞とともに、「我が家のシステムからはああいう音は出ませんがね!」と嘆いたところ、逆にKさんからは「いえ、いえ、我が家のシステムでは〇〇さん宅(自分のこと)のSACDのように音響空間における空気感のようなものが出ませんのが残念です。」とのご返答。
あれ、あれ、どうやらお互い様のようで「隣の芝生は青い」「ないものねだり」かもねえ(笑)~。