最強の政権が最低の財政規律
2018年1月22日
ニューヨークの観光名所、自由の女神像が財政危機のあおりで閉鎖になりました。米議会与野党が連邦予算の扱いをめぐり、攻防を続け、予算が失効しているためです。議会の調整がつかなければ、70万人もの職員の自宅待機、各種の行政の停滞となります。
米国は好景気が続き、株価は2万4千㌦の高値です。一方、国家財政は問題が山積し、新年度(米国)に入る10月には成立していなければならないのに、つなぎ予算でやりくり、そのつなぎの措置も期限切れになっています。財政危機では米国どころでない日本で、真剣な議論が国会で起きないのはどうしたことか。「もりかけ(森友学園、加計学園)」どころの問題ではないはずです。
トランプ大統領と議会民主党の対立があり、連邦予算が政争の具に使われているという背景はあります。76年度以降、政府機関の一部閉鎖はこれまでには18回もあります。そうなると、政争レベルの対立にすぎないと、片づけるわけにはいかない。財政の節度、規律に対する厳しい姿勢がもう一つの背景でしょう。
元大蔵官僚で、現在、大学教授の田中秀明氏は各国の財政制度、財政状況を比較研究するため、海外留学しました。官僚のままだと、公正、中立な研究ができないと考え、退職しました。さらに財務省にいても、必要なデータ、資料がそろわない、存在しないというのも退職の理由のようです。
主要国比較で日本は最下位
田中教授は、OECD主要国における予算、財政の透明性を克明に調べ、評価の一覧表を著書(日本の財政、中公新書)に掲載しています。20点満点で、1位は米国とニュージーランドの17・5点、次いで英国、豪,蘭が同点で並び17点です。日本はというと、わずか5点で最下位なのです。
調査対象の20項目について、〇△×(1、0・5、0点)をつけていったら、こうなったそうです。日本で×をつけられた項目は、予測と結果の比較検証、財政上のリスクの分析、新規施策の明確化と影響分析、成長率などの前提の検証などで、落第点です。
1位の米国でさえ、予算成立が難航すると、政府機関の閉鎖を始めるのですから、徹底しています。自由の女神像の閉鎖というのは、象徴的な意味を置いているのでしょうか。最強の政権が誕生したはずなのに、日本では財政赤字が累増し、残高が1000兆円を超えるというのに、毎年100兆円近い国家予算を組む。消費税引き上げ(10%)を2度も3度も延期する。
財政再建では20年度に黒字化の目標だったのに、4,5年先まで延期する構えです。それにも関わらず、安倍首相は「財政再建を放棄することはない。しっかりとやっていく」と、いつもの決まり文句の「しっかりと」の乱発です。信用する人は少ないでしょう。
特に金融、財政関係の法律の執行は、融通無碍です。財政法4条は「公債、借入金以外の歳入をもって財源としなければならない」(つまり国債の発行禁止)としています。実際は建設国債はだす、赤字国債もだしている。赤字国債は特例国債と呼び、緊急措置という意味の特例だったのに、永久化しています。
憲法改正で財政規律の確立を
当初予算で財政規律を気にかけたように見せておく一方で、補正予算を毎年のように組み、財政規律を骨抜きにする。一般会計が苦しくなると、特別会計との間でやりくりし、一般会計の規律を形だけ整える。
財政規律を緩める便法は、大蔵省当時から、官僚の悪知恵が編み出したものです。それを安倍政権になってから、あからさまに多用を始めたのです。
さすがに財務官僚も踏み込なかったのは、日銀が巨額の国債を購入する財政ファイナンス(資金供給)です。緊急避難の措置ならともかく、欧米はブレーキをかけ始めているのに、安倍首相と黒田総裁はまだまだやる気です。実質的な日銀法や財政法違反です。
元祖の財政法を始め、財政構造改革法、シーリング方式(概算要求に上限設置)、基礎的財政収支の黒字化目標、税と社会保障の一体改革など、財政規律のために、様々な工夫がこらされてきました。それが安倍政権では、次々と骨抜き、ご破算、先送りです。
せめて秋の総裁選では、対立候補は財政規律の回復、立て直し、異次元金融緩和からの撤退などを強調し、安倍路線と対決する姿勢をみせてもらいたいのです。できることなら、憲法改正の項目に、財政健全化の条文を盛り込み、政権が好き勝手にできないように、歯止めをかけるべきなのです。
さらに財政が悪化しても、日本はうまくやっていけるという論者がかなりいます。なぜ日本だけが大丈夫なのか、理由を説明してほしいですね。
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