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カネでは買えない米国の歴史的シンボル・USスティール

2025年01月04日 | 国際

  

経済学から政治経済学になった時代

2025年1月4日

 バイデン米大統領は、日本製鉄によるUSスティールの買収計画に対する中止命令を出しました。不満の日本側は法廷闘争も選択肢に含まれると言い、引き続き闘うつもりのようです。

 

 米株式市場では、USスチール株が急落し、「再建困難」で、製鉄所の閉鎖、本社移転が不可避とか言われています。「米国内で所有・運営される強固な鉄鋼産業が不可欠」(バイデン氏)と言った手前、どうするのでしょうか。政府の支援を受けながら、他の売却先をさがすのでしょうか。「米国の歴史的なシンボル」を買収して再建するという夢が破れ、ほっとする日がくるような気がしてなりません。

 

 大統領選におけるバイデン氏とトランプ氏の大統領選でに闘いが示すように、経済問題は「経済学」や「経済理論」ではなく、「政治経済学」の時代に変わってきています。今回、日本側は「経済学」、米側は「政治経済学」の立場に立っていました。

 

 「経済学より政治経済学」という変化は大統領選に最中から明確になり、トランプ氏が当選してからさらに露骨になってきました。経済合理性よりも、国家安全保障上の価値が上位に位置する。そうした米国政治の変化に鈍感だったのは、日本を代表するトップの鉄鋼メーカー(世界4位)の経営陣です。なんと大統領選直前の23年12月に買収計画を発表したため、買収計画が一気に政治問題化し、政争の具になってしまいました。

 

 日本製鉄はなんでこのような時期に政争化しやすい案件を持ち出したのか。USスチールは世界27位に後退し、業績悪化で経営陣は日本製鉄に救いの手を求めたのでしょう。日鉄は騒動にならないと踏んでいたのか、経営トップは「年内(24年末)には買収は完了する」と、楽観的でした。最悪のタイミングで買収計画を公表することを避けていたならば、道はひらけていたのかもしれない。

 

 USスチール本社は大統領選の結果を左右する激戦州のペンシルべニア州に存在し、工場閉鎖で雇用喪失を懸念する労働者を保護しようとする点では、両候補(最終段階ではハリス氏対トランプ氏)は一致していました。そんな状況を刺激するようなタイミングを選んだ日鉄経営陣の責任は大きい。

 

 形勢がおかしくなり、焦った日鉄経営陣は、ずるずる飴玉を投げ続けました。「取締役の過半数を米国籍とする」、「13億㌦の追加投資をする」、「10年間は労働者を削減しない」、「労働者に5000㌦のボーナスを払う」、「アドバイザーに第1次トランプ政権の国務長官だったポンペイオ氏をアドバイザーにすえる」(報酬は相当な高額に違いない)。ここまで譲歩すれば、買収の意味が薄れてしまう。

 

 生産拠点がラストベルト(さびついた工業地帯)の激戦州ですから、大統領選の候補者は労働者側に立たざるを得ない。買収計画が「政治経済学どころか選挙対策」に巻き込まれることをなぜ、予想できなかったのでしょうか。日本の経営者のレベルはこんなものなのでしょうか。

 

 買収計画そのものについても、専門家から疑問の声が聞こえてきます。「米国の賃上げは、ボーイング社の4年で38%とすさまじい」、「労働組合が強固で労使紛争が多発する。買収先のガバナンスをできる日本人の人材を送り込むのは至難だろう」などの指摘が聞かれます。

 

 選挙選後に、成長している企業を買収するならともかく、ラストベルト(さびついた工業地帯)に存在する「米国の歴史的シンボル」の企業の買収は、買収しても、その後から難題が続出したでしょう。

 

 買収してから無理難題が降りかかってきてくるより、米政権に阻止されたほうがよかったのかもしれません。バイデン氏はかつて「USスチールは米国の歴史的なシンボル」といったことがあります。国家のシンボルをカネで買うことは本当に難しい。「安全保障上問題」絡むとさらに難しくなる。ぼろぼろになったシンボルを買収するより、失敗したほうがよかったと経営陣が思う日がくるかもしれません。

 

 

 

 


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