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第1,133話 ライブ感を大切にする

2022年09月14日 | 研修

「A講師とぴったり同じタイミングで同じ冗談を話していますが、当人がやるのとは異なり、お弟子さんである別の講師がやると少々わざとらしく感じてしまいます」

これは以前、ある企業の研修担当者から聞いた言葉です。A講師は研修業界では著名なカリスマとも言われている人です。そのお弟子さんと言われている複数の別の講師がA講師と同様に講義を進め、寸分違わぬタイミングで同じ冗談を言っても、受講者にはさほど伝わらないようで、あまり受けないという話でした。

この話を聞いたときに私が感じたのは、冗談やユーモアはその時々の聞き手の反応や雰囲気に応じて伝えるからこそ相手に伝わるのであって、とってつけたように別の人が言っても聞き手には伝わらないということです。

先日、久しぶりに寄席に行く機会がありました。チケットの発売と同時に即完売してしまう人気の噺家の寄席でしたが、久しぶりに生で落語に触れてあらためて感じたのは、演目の面白さだけでなく噺家と客とのライブでの一体感にあると思いました。

寄席では、まず「まくら」があります。まくらとは演目に入る前の小噺です。このときは、当日の午前中は何をしていたか、会場までの移動はどこで乗り換えをしてきたというような観客にとって身近な話題から入り、さらに時節や時事ネタも上手に取り入れており、我々観客は一気に話に引き込まれました。

このまくらは観客が本編に入りやすい状態にほぐす役割も兼ねているようで、その日の演目に関係する話が提供されることが多いようです。たとえば、食べ物に関する演目であれば、まくらでも食べ物に関する話をしたりすることが多いように感じています。噺家はこのまくらを「話す」のではなく、「振る」と表現するそうですが、まさに観客を噺家の方に振り向かせているのだと思います。

演目に入ってからは、噺家の一挙手一投足にさらに引き寄せられましたが、噺家自身も会場の雰囲気とともに、どんどん乗ってきていることが伝わってきて、会場全体と噺家が一体になっているような臨場感が感じられました。まさにライブ感満載であり、そこにいる全員の気持ちが一つにまとまっていくような空気が感じました。

この噺家が当日取り上げた古典落語を過去に何回話したことがあるのかはわかりませんが、おそらくは会場の雰囲気に合わせて適宜一部を変えたりしているのではないかと思います。同じ噺家の同じ演目を聞いても、その時々で全く雰囲気が違った話に聞こえることがあるのは、まさにライブなのだと思います。

そのように考えると、先述のカリスマ講師とそっくり同じように研修を提供したとしても、それはその場の雰囲気やライブ感を一切反映していない、似て非なるものということだと思うのです。

研修講師が話す事例や冗談などのユーモアは、それぞれの体験や個性にもとづき生み出されるものです。さらには受講者の反応を見ながら提供されるものであり、他の講師の冗談を同じタイミングでそのままなぞるだけでは、聞き手に伝わるものではないのではないと考えています。

弊社でも同じ会社の同じ階層を対象にした研修を同じ年に複数回担当することがありますが、その時々の受講者の反応などによって提供する内容を少しずつ変えることがあります。

噺家であれ研修講師であれ、相手こそ異なるものの目の前にいる聞き手に伝えることを使命としているという意味で、まさに同じくライブの勝負をしているということだと思います。

師匠と全くと同じように演目を行ったとしても、それだけでは相手には伝わらない。相手の反応をふまえた、ライブ感を大切にすることこそが大切なのではないかと改めて感じました。

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