「すべての社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。
「トップの方針で研修の予算が削られることになってしまいました。人事部としてもトップの判断に正直驚いていますし、ショックです」
これはコロナ禍の少し前、4,000人規模の社員がいるA組織の研修担当者からお聞きした言葉です。弊社がこの組織の研修を担当させていただくようになって以降、その時点で10年経過していましたので、こちらとしても非常に残念だと感じました。研修を中止した理由をお聞きしたところ、人材育成にかかわるコストを今後は顧客へのサービス提供に振り向けるというトップの考え方ということでした。
顧客へのサービスを厚くすることは組織の戦略としてとても大切なことだと思います。しかしサービスを提供する担い手である社員の育成を中止や削減してしまって、よりよいサービスを提供することはできるのだろうか、目的と手段がちぐはぐになってしまってはいないだろうかと感じたことを覚えています。
組織にとって「ヒト・モノ・カネ」は重要な経営資源です。中でも「ヒト」は最も大切な資源だと考えられており、ここ数年、様々な組織で人材への投資に関心が高まってきています。先が見えない時代と言われて久しいですが、そういう時代だからこそ競争力の源泉は人だと考えられるようになってきているのです。そのために、組織の将来を見据えて自組織にはどういう人材が必要なのか、それをどのように育成するのか。あるべき姿から逆算して考える必要性がこれまで以上に高まってきているということなのでしょう。このように人材とその育成に注目が集まるようになってきたことにより、企業に投資する際に人材戦略が重要な判断材料になる傾向にもあるようです。
かつて、景気が悪くなるとコスト削減の一環として早々にカットされていたのが、広告費、交通費、交際費と並んで教育費でした。実際、「設備投資したため、教育はしばらくお預けにします」という話を経営者から聞いたこともあります。確かに社員を採用し、社員教育を行うなどの人材への投資は、今日行ったからといって必ずしもすぐに効果が現れるものでもありません。設備投資などに比べ目に見えないだけに、その意味や価値がはっきりしないと思われてしまい、費用対効果の面などから効果がすぐに見込めないものは、当然のように後回しにされてしまっていた時代でもあったのです。
そのような時代を経て、最近はようやく人材の価値を高めることに注目が集まるようになってきています。今後、投資家の関心もますます人材への投資に向けた取組に関する情報に向かっていくのではないでしょうか。
しかし言うまでもなく、人は簡単に育つものではありません。そのための投資も時間をかけてようやく回収ができるものであり、費用対効果の観点から急ぎすぎることなく、じっくり丁寧に行っていただきたいと思うのです。そして、先述のA組織のように人材育成を一旦中止してしまったところも人材育成の重要性を再認識し、取り組みを再開することを期待したいと考えています。