「あんたの会社のSEの○○君さあ、来週から出入り禁止にするから!」いきなりお客さんにそう言われた私は、その場で凍りついてしまいました。30年近くも前のことなのに、いまだにはっきりとその場面を思い出すことができます。
私はそのとき営業の立場でSE(システムエンジニア)と組んで仕事をしていました。そのお客さんは大手の機械メーカの設備担当者でした。私が扱っていたコンピュータを何台か購入してくれていたので、とても有り難い「上客」でした。
私はすぐさま丁重にお詫びをして、なぜそうなったのか経緯を教えてもらいました。詳しい内容は省略しますが、お客さんが怒ってしまった理由は次の3つでした。
(1)挨拶もせずにすぐに作業に取り掛かった
(2)質問に対してきちんと答えなかった
(3)コンピュータを雑に扱った
すぐに社に戻って「出禁」になったSEの○○君を捕まえると、私は怒りながら上の3点の指摘して問い詰めました。
すると彼はこう答えたのです。
「えー!挨拶しましたよ。それに、急いで作業しろって言うからやったんです。」
「質問ですか?あーそういえば保守契約の内容について聞かれたなあ。でもサービスじゃないのでわかりませんって答えました。ちゃんと伝えていないサービスの連中が悪いんじゃないですか?」
「マシンの扱いが雑ってどういう意味か分かんないですけど、サーバからボードを交換するんで引っこ抜いて床に置いたら確かに文句言われたなあ。でも、新しいやつじゃなくて交換して持って帰る古い方のやつですよ。なんで怒るかなあ・・・」
私はその時「これは何を言っても駄目だな」と思いました。しかたなく○○君の上司であるSE課の課長に相談しました。その時、課長は「私がお客さんと話をするからこの件は任せてくれ」とだけ言いました。怒りが収まらなかったものの私はとりあえず引き下がることにしました。
その後、担当のSEが別の人間に代わり、○○君は別の顧客の担当になりました。
その後しばらくして、今度は私が○○君がSEとして出入りしている顧客の営業担当になりました。
初めてそのお客さんのところに挨拶に行ったとき、私は恐る恐る〇〇君の評価を聞きました。
するとその客さんはこう言いました。
「うん、彼はいい仕事をしますね。余計な口を利かないし、とにかく作業が速い。質問した時にその場で答えをはっきり言ってくれるので助かります。」
私は単に「相性が良かったんだなあ」としか思いませんでした。
今思い起こせば、SEとお客さんとの相性よりもむしろ「企業文化」の影響が大きかったように思います。○○君を拒否した会社と受け入れた会社は両社とも大企業ですが、かなり社風というか雰囲気が違います。
上司は、部下とお客さんの両方をよく観察してフォーメーションを決めなければなりません。こればっかりは知識よりも経験がものを言うようです。
(人材育成社)