「入社したら企画をやりたいんです。マーケティングとか広告宣伝とか。ダメなら海外関連部門がいいですね。それと、営業は避けたいです。ぼく、販売とか向いていないんです。」私が非常勤講師をしていたある大学でのことです。
ちょうど就活の時期が近付いてきた頃でした。授業が終わって帰り支度をしていると、その学生(経済学部3年生)は私のところにやって来て、「先生が以前勤めていたX社について知りたいので、教えてください」と言うのでした。
私は、X社では事業企画部という名前の部署に所属していました。X社のことは授業の中で少し触れたことがありました。私はその学生に「X社で何の仕事をやりたいの?」と聞きました。そのとき返ってきたのが冒頭の答えです。
私は、企画部門に配属される新人はほとんどいないし、文系の学生が入社して就く職種はほとんどが営業であるという話をしました。
すると彼は不満そうな顔になって「営業なんかじゃ僕の能力は活かせないと思うんです。ゼミはマーケティングだし、サークルで色々なイベントの企画や運営も経験しています。なんていうか、僕、作戦を立てる方が性にあっているっていうか・・・」と言いました。
「君は営業”なんて”という言うけれど、営業は自社製品と顧客を結びつける面白い仕事だよ。それに、会社が存在するために何よりも必要な売上を獲得する仕事じゃないか。」私がそう言うと、彼は不満そうに「・・・でも、やっぱり企画が良いです・・・」と小声で答えました。
私は今までに、こうしたやりとりを何度となくしたことがあります。そこそこ有名な大学の文系学生に非常によく見られる傾向と言っても良いでしょう。このように、多くの大学生の間で「企画」という言葉のかっこ良さと、「営業」という言葉のかっこ悪さはすっかり定着しています。
たしかに営業職の辛さは、容易に推測できます。炎天下や豪雨の中で外回りをする、クレーム対応でお客様に頭を下げる、成績が振るわないと上司に叱責される…すべて事実です。それに比べると企画部は様々な調査を行い、プラン立て、他の部署に実行させる…。先ほどの学生ではありませんが、「企画をやりたい」という気持ちはよくわかります。
しかし、企画部が無くても会社はつぶれませんが、営業活動を行わなずに存続できる会社はほとんどありません。今では地方自治体にも営業部門があります。
私は学生に「就活のときは、”営業が希望です”と本気で言ってください。その理由を聞かれたら”私はマーケティングを学んできたので直接顧客のニーズに触れる仕事がしたいからです”と答えてください。入社してからそのつもりで働いていれば、いつかは企画部門に異動になるかもしれませんよ。」と言うようにしています。もちろん「保証はできないけどね。」と付け加えていますが。
さて、文系の大学3年生のみなさん、そろそろ頭を切り替えておいた方が良いですよ。
(人材育成社)