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「ダークナイト」

 8月最後の日曜日、夏期講習の疲れをゆっくり癒すべきなのに、どこかに出かけたくて仕方なかった。公開されたばかりの「二十世紀少年」を見に行こうと妻を誘ってみたが、「見たくない」と言下に却下されたしまった。それじゃあ何しようか、と考えていたら、「バットマンなら見てもいいよ」と妻が提案してきた。娘が見て、「面白かった!」と言っていたそうだから、確かに見る価値はあるかもしれない。「バットマン」シリーズは「バットマン・リターンズ」をWOWOWで見た記憶がある。私が子供の頃見た「バットマン」とは違って、「ロビン少年」は出てこず、バットマン・カーが装甲車のようでものすごいパワーを持っていたこと、それに敵役のジョーカーのおどろおどろしさは記憶に鮮明に残っている。調べたら、上映時間が2時間40分もあるので、座席にじっとしているのが苦手な私では、最後までおとなしく見ていられるか、少し心配ではあったが、娘の評価を鵜呑みにして出かけてみることにした。
 いつも行く映画館は、夫婦で見た場合どちらか一方が50歳を超えていれば二人とも1000円で見られるという制度があるという。先日見た「崖の上のポニョ」の場合は妻が、夫婦二人ともが50歳以上じゃないと割引されないと勘違いしていたらしく、1800円の入館料を払ってしまったようだが、今回は抜かりなく1000円でチケットを購入した。二人で2000円なら、もっと頻繁に映画を見に来れるな、と50歳を超えたことを初めて嬉しく思った。
 
 映画は面白かった。映像に迫力はあるし、背後に流れるBGMがドキドキ感を倍化させる。展開が早く、まさに息をつかせぬテンポで物語が進んで行く。バットマン役のクリスチャン・ベールはかっこいいし、検事役のアーロン・エッカートも陰と陽を演じ分け、迫力があった。マギー・ギレンホールはてっきり「スターウオーズ」のレイア姫を演じた女優だと思って、妻にも「レイア姫だよね」と確認したところ「そうだよね」と同意してくれたほど似ていた。しかし、後で調べたら、レイア姫を演じたのは1956年生まれのキャリー・フィッシャーだと分かって、全く違う人物だった。「スターウオーズ」と言えば30年も前の映画だから、その時のレイア姫が今でも若い容姿を保っていられるはずもないから、よく考えれば別人だと分かるはずだ。妻も私も自分たちがどれだ年を取ったのかいまだきっちり分かっていないようだ・・・。
 しかし、この映画で出色の演技を見せてくれたのは、敵役のジョーカーを演じたヒース・レジャーだろう。


 彼はこの映画を撮り終えた後の今年1月に急死したという。まだ28歳という若さだ・・。不眠を以前から訴えていた彼は、薬の摂取のしすぎでなくなったと報道されているが、この「ダークナイト」の影の主役はジョーカーだったと私は思うだけに、惜しい役者を亡くしたと思う。正義のヒーロー・バットマンを敵に回し、考えられる限りの悪をとことんまでやり尽くすジョーカーという存在がなければこの映画はまるで平板な面白味のないものになってしまっていただろう。太陽の明るさは夜の闇があってこそいっそうの輝きを増すように、ジョーカーがいてこそ報われぬヒーローとしてのバットマンの苦悩も浮き彫りにされる。いくら最新のテクノロジーを駆使してジョーカーを追い詰めても、決してジョーカーを殺すことのできぬバットマンを見透かしたように、様々な姦計で一般市民を恐怖のどん底に陥れるジョーカー。その命を絶つことこそが、社会に平和をもたらす一歩だと映画を見ながら思ってしまった私にとって、バットマンの正義さは歯がゆくさえあった。それほどまでに憎っくきジョーカーを見事演じきったヒース・レジャーが亡くなったことは、続編を考える上でも痛手ではあったであろう・・。
 おりしも日本では柳楽優弥(18)が薬の過剰摂取で病院に搬送されたというニュースが流れたばかりである。芸能界という常にスポットライトの当たる場所で、若くして名を成してしまった者たちの苦悩も仄見えるような事件であったが、何だかの死と通底するものがあるような気がして、少しばかり悲しい思いに駆られた。
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