★ 平成14年発行の小学4年生用教科書「新しい国語」(東京書籍)に小林豊さんの「世界一美しいぼくの村」が採用されている。アフガニスタンが舞台。収穫した果実を父親と少年が市場(バザール)に売りに行く話。美しい村の様子、バザールの賑わい、いり豆、シシカバブやパンの焼けるにおいが印象的だ。戦争に行った兄に代わって初めて店を手伝う少年の緊張感、父親に子羊を買ってもらった少年の感動が伝わってくる。
★ 平和な日常が描かれた後でページをめくると、胸を打つ結末が。そこには「その年の冬、村は戦争ではかいされ、今はもうありません」と記されている。
★ 東西世界を結ぶ要衝地ゆえに何度も覇権にさらされてきたアフガニスタン。9.11同時多発テロの報復としてアメリカ軍により倒されたタリバンが再びアフガニスタンを奪取した。タリバンとは何者か。2001年に買ったものの積読だった田中宇さんの「タリバン」(光文社新書)を読んだ。
★ 第二次世界大戦後のアフガニスタン。冷戦下で、ソ連とアメリカの思惑に翻弄される国家。西洋型の近代化を目指す人々と社会主義化に発展を目指す人々。さらにはイスラム教の教えに基づき、政教一致の国づくりを目指す人々。自国内での政争に大国の思惑が交錯し、民族間、派閥間、宗派間で対立が絶えず、結局、テロに活路を求める過激派。
★ 今回、タリバンが政権を奪取し、撤退する米軍機に群がる人々の映像は、ベトナム戦争のサイゴン陥落を見るようだ。
★ カブール大学の教師や学生を中心に社会主義を目指す勢力とイスラム主義に基づく国づくりを目指す勢力が醸成されていった様子は興味深かった。ビンラディンの動きや彼を取り巻く諸勢力の動きは、幕末の日本を見るようだ。国内の争乱は近代化には不可欠なのだろうか。
★ ジャーナリストの文章は学者が書く小難しい本とは違って、とても読みやすかった。アメリカで右派が勢力を伸ばすという田中さんの予言は、トランプ大統領の誕生で見事に的中した。
★ ソ連の覇権主義(アフガン侵攻)、アメリカの資本主義、パキスタンはパキスタンで問題を抱え、サウジやトルコもアメリカとの関りで、不安定になりがちだ。古代史、肥沃な三角地帯をめぐって、多くの国家が覇権を争い、成立と滅亡を繰り返してきた。時代はよりグローバルになり、スペイン・ポルトガル、イギリス・フランス、アメリカ・ソ連と役者は変われど、超大国の覇権争いは後を絶たない。人類が滅ぶまで、サル山の争いは続くのだろうか。