じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

中島敦「牛人」

2021-08-01 15:06:09 | Weblog
★ コロナウイルスの新規感染者数(確認された数)が東京で4000人を超えた。全国では1万2000人。数字が大きくなるにつれて、危機感が麻痺していく。政府や知事は危機を訴えるが、その一方で東京ではオリンピックが真っ盛り、大阪では高校野球地方大会の決勝戦に多くの観客が詰めかけている。もはや、「なるようになれ」とやけっぱちの心境か。

★ 緊急事態宣言がまったく無意味になりつつある中、さて、政府はどうメッセージを発するか。「特別」「超」などと屋上屋をつけるのか(それもすぐに化けの皮が剝がれそう)。自民党が好きそうな憲法改正による「緊急事態条項」に走るのか。明治憲法下においても「戒厳令」(緊急勅令に基づく戒厳令相当の対応)は3回に過ぎなかったという。日比谷焼討事件、関東大震災、そして二・二六事件。前二つは暴動抑止で二・二六はクーデター阻止(あるいはクーデターに対するカウンター・クーデターの画策)が目的だった。(大江志乃夫「戒厳令」岩波新書参照)

★ 現行法においても、感染症法第33条や原子力災害対策特別措置法、災害対策基本法で交通の遮断や立ち入りの制限などジワジワと私権が制限されるようになってきたが、全面的な都市封鎖は(幸運にして)ハードルが高い。暴動でも外敵の侵略でもないしねぇ(病原体を「外敵」とするのは飛躍しすぎだし)。

★ 行政官でもないのに、暇に任せてそんなことをあれこれ考えてしまった。

★ さて、今日は中島敦の「牛人」(青空文庫)を読んだ。中国の古典を中島流に再構成したもの。魯の高官の男は乱を避けて一時隣国(斉)に身を寄せることにした。その道行の途中、ある女性と一夜の契りをかわす。男にとってはひと時の享楽にすぎず、その夜のことはすっかり忘れ、斉で妻を得て二子が生まれる。

★ そんなある日、男は金縛りのような体験をする。天井が下がり堪えがたい圧迫を感じる。どういうわけか傍らに牛のような容姿の男が立っていた。彼はこの「牛人」に助けを求め、圧迫から逃れることができた。

★ やがて自国の乱が収まり、高官の男は国に帰る。妻は男と共に行くことを拒み(愛人ができていた)、二人の息子だけが父親の所に。そんな折、一人の女がやってくる。かつて一夜の契りを結んだ娘だ。彼女は1人の息子を伴っていた。高官の子どもだという。その子の容姿がかつて夢に見た「牛人」とそっくりだった。

★ 高官の男、二人の正嫡の子、そして彼らと異母の兄弟。跡継ぎをめぐってドラマが始まる。

★ 以前、NHKの大河ドラマ「太平記」を観た。足利尊氏(高氏)と旅芸人・藤夜叉との間に後の足利直冬が生まれるが、その物語をイメージしながら読んだ。

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