【経営四字熟語で目から鱗が落ちる】5ー01 一所懸命 陳腐な言葉にも謙虚に耳を傾ける ~ 命がけで物事に取り組む ~
世の中には、作家でなくても美しい文章を書いて、読者を魅了できる人がいます。アナウンサーでなくても、話し上手な人もいます。プロのナレーターでありませんのに、聞いているだけでほれぼれするような声や話方の人もいます。パワーポイントを使って、難しいことをわかりやすく説明してくれる人もいます。
「話し上手は、聞き上手」という言葉を良く聞きます。「一を聞いて十を知る」という理解力の高い人もたくさんいらっしゃいます。一方、相手の言うことを充分に理解できなかったり、誤解したり、時には曲解したりして人間関係をこじらせてしまう人もいます。
情報提供側として、上手な文章を書いたり、話したり、パワーポイントなどの作図技術など表現力を豊にしたいと願う一方、それとは別の立場で聴取する側におかれたときに、傾聴力をフルに活用し、相手の言いたいことを正確に聞き取れることは、私たちの日常に不可欠です。コミュニケーション上達法を四字熟語から感じ取りましょう。
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~ 命がけで物事に取り組む ~
「一生懸命(いっしょうけんめい)」という四字熟語を知らない人はいないでしょう。「懸命」は、音読みをしますと「命を懸ける」となり、命を懸けてもやり抜くということから、「本腰を入れて物事に取り組む」という意味に通じます。「一生」は、もともとは「一所」でした。すなわち、本来は「一生懸命」ではなく「一所懸命(いっしょけんめい)」だったのです。
NHKが、サイトで下記のように説明をしています。
「昔、武士が賜った『一か所』の領地を命がけで守り、それを生活の頼りにして生きたこと」に由来したことばです。これが「物事を命がけでやる」という意味に転じて、文字のほうも「一生懸命」[イッショーケンメイ]とも書かれるようになりました。
ある会社の課長が、部下を叱ったときに、部下から「一生懸命にやっています」という言葉が返ってきたそうです。その時に「自社の常識は他社の非常識」という表現を知っているその課長は、それをもじって「自分の一所懸命は、同僚から見たら”あそび”である」と言ったのです。ところが、その部下は、その課長の言っている意味を理解できなかったのです。その課長は、「あきれてものが言えなかった」で終わらず、いろいろと事例を挙げながら、時間をかけて説明し、その部下がようやく「一生懸命やっている”つもり”では、まだ一生懸命さが十分ではない」ということを悟ったそうです。
昨今では、本家本元の「一所懸命」よりも「一生懸命」という表現の方が多用される傾向にありますが、私は、「一所懸命」を使うようにしています。これをもじって「会社人間」の仕事ぶりを表して、「一社懸命」という表現もあるそうです。
一所懸命と同じような意味で、「一意専心(いちいせんしん)」という四字熟語があります。以前、某関取が、横綱に推挙されたときにこの言葉が使われたように記憶しています。また、「一心不乱(いっしんふらん)」という、同様な意味の言葉もあります。「櫛風沐雨(しっぷうもくう)」、「櫛風浴雨(しっぷうよくう)」「風櫛雨沐(ふいしつうもく)」も同様に、髪を風でくしけずられ、雨に洗われるような環境でも努力するということから、同様に使われます。
「一所懸命」と同じ「一所」を使った四字熟語として「一所不住(いっしょふじゅう)」という四字熟語もあります。こちらは、一所懸命とはかけ離れた意味で、「主として行脚僧が諸所をまわって『一か所』に定住しないこと」「居所が一定しないこと」を意味します。(NHKサイト) もっとも行脚僧の心境は「一所懸命」であり、「一生」修行のみで過ごすことを心に念じているのかもしれません。
別項でも書きましたが、近年、人の評価を以前ほどできる人が少なくなっているような気がします。人を評価するときに、学歴とか社歴、資格などでしか判断できなくなっているように思えます。何かを判断するときに、多くの場合、5段階評価のチェックシートを使うことが最近の主流のように思えます。真の意味の「デジタル」ではありませんが、これを私は「デジタル基準」と呼んでいます。
私は、「人を”診る”目」については、自信があるわけではありません。仕事柄、経営コンサルタントの資格付与とか、中途社員や役員選定などの面接に立ち会わされることが多々ありますが、採用すべきかどうかを判断するのは自信がありません。そのような人が多いので、昨今ではデジタル基準が多用されるようになっているのでしょう。
判定のためのチェックシートでは、「2なのか3なのか」判断に困ることが多々あります。設問そのものの解釈が何通りも考えられて、判断に窮することもあります。私の判断思考が、デジタル基準にそぐわないのかもしれません。
私の場合には、「日本語が乱れていないか」、「人に対する思いやりはあるのか」、「規律遵守に対して厳しいか」「自分に甘く、他人に厳しくないか」等々、非常に感覚的な部分で”診る”ことが多いです。これを「アナログ基準」による思考と言っています。
上述の「一所懸命」もその一つです。「一生懸命」という言葉を使う人はダメだという減点思考ではなく、「一所懸命」とう言葉を使う人がいたときには加点するようにしています。そのような日本語をしゃべる人は、自分に近いように感ずるのです。なぜなら、そのような人というのは、何か判断に窮したときに、「原点は何か」ということを判断規準として採用できる人ではないかと推察できるからです。すなわち、元来「一所懸命」であったものが、誤用されて「一生懸命」に変化したのであって、後者を使うことは、好ましくないと考える人達です。
別項でも触れていますように、「鳥肌が立つ」という表現は、元来は、あまり良い意味で使われていないのが、近年、良い意味で使う人が多いように思えます。同様に、おいしい物を食べるときの表現として「舌鼓を打つ」という言葉があります。これを「したずつみ」と誤用されます。「情けは人のためならず」という諺も「人に情けをかけることは、その人のためにならない」という意味に誤用されることも気になります。
「本日も○○鉄道をご利用いただきましてありがとうございます」というようなアナウンスを、毎日のように耳にしている人が多いと思います。その中で、何%の人が違和感を持っているか解りませんし、何処がおかしいのか解らない人が多いのではないでしょうか。
「いただく」は謙譲語ですので、この場合、主語(日本語文法の「主部」)がお客様ですから、お客様に対して謙譲語を使うことは失礼です。丁寧語や時には尊敬語を用いるべきです。この場合ですと、「ご利用下さいまして」に置き換える方が良いのです。あまりにもこの誤用が頻発しますので、NHKでは、この種の謙譲語は「許容する」という姿勢になってしまいました。
近年、しばしば耳にする言葉で気になるのが「すごい」という言葉です。「すごいおいしい料理」というように使われます。「すごい料理」という表現も、「おいしい料理」というのも文法的にも正しいので問題ありません。「すごい」も「おいしい」も形容詞ですから「料理」という言葉を引き立てるために使われています。
ところが「すごい」と「おいしい」という二つが合体しますと、文法違反になります。なぜなら、「すごい」というのは「おいしい」という形容詞を強調することになりますので、「すごく」という副詞を使って表現を強めるべきなのです。すなわち「すごくおいしい料理」と表現すべきです。「すごい料理」や「おいしい料理」という表現がありますので、それを混同して「すごいおいしい料理」と言われるのだろうと思います。
このような日本語の誤用があまりにも頻発しているような気がします。それに加えて誤用に迎合しているような風潮を感じます。デジタル基準では、そのような用法が奇異に感じられることを教えてくれないのでしょう。少々言い過ぎかもしれませんが、アナログ基準も大切にする私には、そのような人を敬遠したくなってしまうのです。人を採用するときに、他の採用担当者はデジタル基準で行う人であることが多いですので、私はあえてアナログ基準で判定するようにしています。
私のような人間は、「世の中の流れに沿えない人」と、抵抗を感じる読者も多いでしょう。しかし、私は、そのような傾向を否定しているのではなく、心密やかに残念に思っているだけなのです。
さて、本題の「一所懸命」ですが、昔は「転職することは、履歴書を汚すことである」というようなことが言われました。一旦入社したらそこに「終生お世話になる」、すなわち「就職」ではなく「就社」という感覚でした。若い人が、自分のやりたい仕事とは違いますので、入社まもないにも関わりませず会社を辞めようとすると、以前なら「石の上にも三年」という諺が持ち出されました。私が、会社勤めを辞めて、経営コンサルタントとして独立起業すると決めたときも、私のことを親身に思ってくれる人達は、こぞって反対しました。
昨今では、アメリカ流の「転職はキャリアアップに繋がる」とう考え方が一般的ですので、人それぞれ、「十人十色」ですから、その考え方に反対はしません。しかし、私の元に転職したいという人が相談に来ましたら、転職した方が良いのか、そのまま留まって我慢をする方が良いのか、相手の状況を充分に聞いた上で判断をします。
「一所懸命」は、「一か所に命を懸ける」と読めますので、「雫(しずく)も石に穴を掘る」ことができるということにも繋がります。凄腕の営業パーソンの若かりし頃の話題として、「駆け出しの頃は、顧客開拓に苦労し、くつを何足も買い換えた」というような話が出てきます。その時に言われることが、一社を落とすために「夜討ち朝駆け」したという話がつきものです。
「艱難辛苦(かんなんしんく)」の末、獲得した顧客は、辛ければ辛い経験ほど、その顧客を大切に、時には愛おしくさえ思います。「艱難」は、「苦しみ悩む」ことですので、「艱難辛苦」は、「困難や辛いことに直面し、非常に苦労する」という意味です。「千辛万苦(せんしんばんく)」も「四苦八苦(しくはっく)」も、苦しさの多いことを、言葉を重ねて表現し、同じような意味で用いられます。
「閑話休題(かんわきゅうだい)」は、話の本筋から余談にそれてしまった場合に、基の本筋に話を戻すときに用いる表現です。「閑話」は「むだ話」「」休題」は、「話題を止める」という意味で「それはさておき」と言った意味合いの時にしゃれて使います。
さて、「閑話休題」、上述の辛い話を何度も聞かされてきましたので、「夜討ち朝駆けとは、また陳腐な事例か」と若い頃はその度に思いました。「一所懸命」の精神を伝えたいという思惑を理解できれば、その事例を聞く度に「自分にその大切さを再認識させる機会が与えられた」と考えることができるようになりました。そのようなときに「誠意を持って接すれば、石に穴をあけることもできる」ということも語られるでしょう。誠意の大切さも、耳にたこができるほど聞いていますので、知識としては持っています。しかし、知識として知っていることと、それを実行できることは異なります。ましてや、それを実行して、結果に結びつけられることとは別なことです。
陳腐な言葉にも、謙虚に耳を傾けますと、自らを反省する機会に繋がるのです。
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