【「ローレル」「ローリエ」、ギリシャ神話では妖精ダフネの化身】
地中海沿岸地方原産のクスノキ科の常緑中高木。「ローレル」または「ローリエ」とも呼ばれる。雌雄異株。日本で目にするのはほとんどが雄木で、雌木を見かけることはあまりない。ただ花は雄木の方が華やかで、4~5月頃、小枝に淡いクリーム色の小花をびっしり付ける。精油成分を含み芳香のある葉は「ベイリーフ」と呼ばれ、料理の香味料などに用いられる。
ギリシャ神話で月桂樹は美しいニンフ、ダフネの化身といわれる。太陽神アポロンの求愛を拒絶し捕まりそうになったとき、川の神である父ペネイオスがダフネを月桂樹に変身させて救う。アポロンはかなわなかった恋の思い出に、この木の枝で冠を作る――。月桂樹はギリシャ・ローマ時代、勝利と栄光のシンボルとして、葉が付いた若枝を編んだ月桂冠が競技の勝者や大詩人、戦勝した将軍らに授けられた。民間では病人が出ると月桂樹の枝を戸口に下げる風習も。この霊木には落雷しないという俗信もあった。
英国では16世紀のエリザベス朝以降、ワーズワースら優れた詩人に「桂冠詩人」の称号が国王から贈られた。桂冠詩人は国家・王室の大事に際し慶弔の詩を詠むことが任務とされた。世界共通の大学入試資格が得られることで注目を集める教育プログラム「国際バカロレア」。そのバカロレアの語源も「月桂樹の実」を意味するラテン語に由来する。
日本には1905年(明治38年)にフランスから渡来したといわれる。翌年に日露戦争の戦勝記念樹として連合艦隊司令長官・東郷平八郎が東京・日比谷公園に植樹したことで、その名が全国に知れ渡った。その月桂樹は残念ながらその後焼失してしまったそうだ。ただ日本最古の学校といわれる足利学校(栃木県)の中に今もある月桂樹3本は、同じ年に東郷ら海軍の軍人3人が戦勝記念として植えたものといわれる。「枝引けば春ふりほどく月桂樹」(秋尾敏)