【館蔵から選りすぐりの名品150点余】
奈良県立美術館(奈良市登大路町)で企画展「美術・解体新書 名品展≪夏≫」(7月16日~8月28日)が開かれている。「はじめに―美術ってナニ?」と「基本編―『美術』以前」「応用編―『美術』以降」の2部構成で、所蔵する約4300点の日本の美術工芸品の中から選りすぐりの名品156点を展示(会期中に一部入れ替え)。“鑑賞の手引き”となるよう素材や技法、主題、ジャンル、形式などを分かりやすく解説している。
「はじめに」では「今週のお宝」と銘打って週替わりの作品を展示中。第1週目の展示は伝雪舟作の『秋冬山水図屏風』(上の写真)だった。聳え立つ雪山などが繊細な筆致で描かれた6曲1隻の屏風だが、もとは春夏・秋冬を描いた1双の屏風の左隻だったとみられる。今は第2週分(7月27日~8月1日)として菱川師房の『見返り美人図』を展示中(のはず)。その後も曽我蕭白の『美人図』、『伝淀殿画像』、葛飾北斎の『瑞亀図』など、県美自慢のお宝作品が1週間ごとに展示される予定だ。
「はじめに」には歌川芳藤の大判錦絵『唐(から)の子がよりかたまって人になる』と奈良出身の洋画家普門暁の針金作品『化粧』の2点も展示中。「唐の子が……」(上の写真㊤、部分)は多くの子どもが集まって顔や髪の毛、着物の柄などになった遊び心たっぷりの作品。「基本編」の中にも同様の寄せ絵の手法で描かれた歌川国芳の『人かたまって人になる』(上の写真㊦)があった。こちらも顔が坊主頭の人が集まって描かれ、目や髪は黒い褌(ふんどし)で表されている。普門暁の作品は後半の「応用編」にも『鹿・青春・光・交叉』が出品されている。
「基本編」は日本美術と世界・宗教・文学・芸能・歴史・生活・社会の7分野の関わりを、それぞれの作品を通して覗く。『浮絵かるた遊び』(上の写真)は座敷の中央でかるた遊びに興じる女性を描いた江戸時代(18世紀)の作品。線遠近法(透視図法)により建物の広さや奥行きが表現されており、立体的に浮き出して見えることから「浮絵」と呼ばれた。『洛中洛外図屏風』は江戸時代(17世紀)の6曲1双(下の写真は左隻の部分)。洛中洛外図は室町時代から描かれてきたが、江戸時代に入って二条城が築城されると、二条城を屏風の左隻に中心的な建造物として描く定型が成立した。
菱川友宣の『楠公父子決別図』、横山清暉の6曲屏風『大江山鬼退治図屏風』、伝円山応挙筆『村田珠光・武野紹鴎画像』、植中直斎の2曲屏風『賜豊御酒(しほうみしゅ)』なども展示中。植中直斎(1885~1977)は奈良出身で、有職故実の研究に基づく歴史画を得意とした。「基本編」の展示作品には他に葛飾北斎の『北斎漫画』、喜多川歌麿の『画本虫撰(むしえらび)』、豊臣秀吉の朱印状や徳川家康の書状、絞り染めの振袖、友禅染の小袖なども。
「応用編」は「日本美術の誕生―絵画・彫刻」「日本美術の展開―平面・立体」「日本美術の軌跡―工芸」の3章で構成。上村松園の『春宵』(写真は部分)は料亭の中庭に面した廊下で2人の女性が内緒話の最中。京都の女性を題材に多くの美人画を残した松園の油の乗った60歳すぎの作品だ。そばには松園が師と仰いだ竹内栖鳳の6曲屏風『保津川図』も並ぶ。その他にも名品ぞろい。狩野芳崖の『竹林虎図』、川合玉堂の『小雨の軒』、小野竹喬の2曲屏風『松風』、梅原龍三郎の『姑娘(くーにゃん)』、須田国太郎の『大和般若寺近郊』、絹谷幸二の『チュスキーニ氏の肖像』、富本憲吉の磁器『色絵四弁花更紗模様六角飾筥』……。館内は原則「撮影不可」だが、うれしいことに「撮影可」の作品も結構多かった(ここに掲載したのもいずれも「撮影可」)。出口に向かうとき腕時計を見ると、入館からはや2時間半が過ぎていた。