【長谷川潔・駒井哲郎・村上華岳の作品など約40点】
中野美術館(奈良市あやめ池南)で所蔵名作展「近代日本の洋画・日本画」が開かれている。美術館の創設者は林業で財を成した中野皖司氏。四半世紀にわたって収集してきた明治・大正・昭和の絵画や版画、彫刻などのコレクションを一般公開しようと約40年前の1984年に開館した。
多く所蔵するのが洋画の須田国太郎や版画の長谷川潔、日本画の村上華岳、入江波光などの作品。入ってすぐ左手の洋画展示室には24点を展示中。今回は特に版画家の長谷川潔(1891~1980)と駒井哲郎(1920~76)に焦点を当て、それぞれの作品を5点ずつ紹介している。
長谷川は1918年フランスに渡り、マニエール・ノワール(メゾチント)という古典的銅版画技法を復活したことで知られる。展示作品のうち特に印象に残ったのが『再生した林檎樹』。樹の上部は枯れているが、幹の下からはひこばえが元気に伸びる。力強い生命の連続性を感じさせる作品だ。満開の花を中心に蕾としおれた花を描いた『コップに挿したアンコリの花(過去・現在・未来)』も味わい深い。
駒井は1951年、銅版画『束の間の幻影』が第1回サンパウロ・ビエンナーレでコロニー賞を受賞し一躍注目を集めた。54~55年にはパリに留学し、この間フランス在住の長谷川を訪ねている。展示作品は『消えかかる夢』『人形と小動物』『手』など。ほかに舟越保武のリトグラフ(雁皮刷り)『聖クララ』『若い女』や須田国太郎の『牛の居る風景』、鳥海青児の『大理石を運ぶ男』、三岸節子の『花』、林武の『金精山(奥日光)』、藤田嗣治の『婦人』なども展示中。
日本画展示室には村上華岳の『梅の図』『幽山雲烟』『踊れる少女』、入江波光の『追羽子』『墨梅図』、冨田渓仙の『広沢渓鳥図』などとともに、富岡鉄斎の『江村雨図』と『茂樹清泉図』が墨書の『題詠』とともに展示されている。展示室内の和室を飾るのは小林古径の作品『富士』。
館内には彫刻家佐藤忠良(1912~2011)のブロンズ像2点も展示中。入り口そばに『帽子』、洋画展示室中央に『若い女・夏』。たまたま日経新聞が11月26日付日曜版で「生への賛歌 佐藤忠良(上)」と題する2ページ特集を組んでいた。それによると、佐藤はロダンとその弟子デスピオの作品から多くを学んだという。
佐藤の代表作に女性の全身像『帽子・夏』。この作品を機に1970年代以降、帽子シリーズを相次いで発表した。館蔵の頭部像『帽子』もその一つだろう。鍔広の帽子を被って顔はうつむき気味。そのため表情はうかがえない。12月3日付「生への賛歌 佐藤忠良(下)」では絵本画家としても活躍した佐藤の素顔を、代表作「おおきなかぶ」の原画などとともに紹介。俳優佐藤オリエが忠良の愛娘だったことも初めて知った。
中野美術館は日本最古の溜め池といわれる「蛙股池」のほとりに立つ。池を挟んで対岸の高台にあるのは東洋美術のコレクションで知られる大和文華館。林の奥にその建物の一部がちらりと見えた。名作展は1月28日まで(ただし12/4~1/9は休館)。