【第52回定演、ドヴォルザーク「新世界より」も】
奈良女子大学管弦楽団の第52回定期演奏会が12月9日、大和郡山市の「DMG MORIやまと郡山城ホール」で開かれた。プログラムはチェコのドヴォルザークとフィンランドのシベリウスの作品3曲。「愛国心」と「祖国愛」をテーマに選曲したという。会場の大ホールはほぼ満席で、学生やOBらの熱演に温かい拍手が送られ「ブラボー」の掛け声も飛んでいた。
指揮者は常任の木下麻由加さん。2010年神戸大学発達科学部人間表現学科を卒業後、デンマークに留学し14年王立音楽アカデミーの指揮科を卒業。この間、ウクライナ国際指揮マスタークラスも2年続けて修了している。現在、奈良女子大学のほか近畿大学、神戸学院大学でも管弦楽団・交響楽団の常任指揮者を務める。
1曲目はドヴォルザークが渡米前の1882年に作曲した序曲「我が家」だった。さほど長い曲ではないが、現在のチェコ国歌にも使われているメロディーが含まれる。後半のその「ふるさとはいずこや」の演奏は力強く、かつ華やかさに満ち溢れて、ドヴォルザークの郷土愛の世界に引き込まれた。
2曲目はシベリウスが34歳だった1899年に作った「フィンランディア」。当時フィンランドはロシアの圧政下にあり独立の気運が高まっていた。この曲は民族叙事詩に基づく歴史劇の付随音楽の一部として作曲された「フィンランドは目覚める」が原曲。
演奏は圧政に苦しむ人々の苦難を表すように金管楽器の暗い重低音で始まる。これまで何十回も聴いた出だしの「苦難」のモチーフだ。しばらくして鳴り響くのは金管・打楽器による独特な力強いリズム。これは「闘争への呼び掛け」のモチーフ。歯切れのいい演奏の後に「フィンランド讃歌」と呼ばれる美しい旋律が続く。
フィンランドが苦難の末、独立を果たすのは1917年。以来長年にわたり軍事的中立を保ってきた。だが今年の春、その国是を大転換しNATO(北大西洋条約機構)に加盟した。背景にあるのはもちろんロシアによるウクライナ侵攻。演奏を聴きながら、そんな国際情勢がちらっと頭をよぎった。(下の写真は演奏会場の「やまと郡山城ホール」)
3曲目はドヴォルザークが渡米中の1893年、故国を思いながら作曲した交響曲第9番「新世界より」。「遠き山に日は落ちて」の歌詞で知られる哀愁を帯びた第2楽章と、対照的に力強く壮大なアレグロの第4楽章の緩急・強弱のめりはりの利いた演奏が印象的だった。ホルンなど管楽器とコントラバス6本の安定感が演奏全体をどっしり支えていた。
指揮者の木下さんは演奏前、ドヴォルザークについて昨今の“鉄ちゃん”に劣らない鉄道おたくだったことなどを紹介していた。気難しそうな作曲家が多い中で、ドヴォルザークのそんな庶民的な側面を知って親しみが増した。アンコールはヨハン・シュトラウスの「ラデツキー行進曲」だった。(カラヤン指揮のベルリン・フィル「新世界より」を聴きながら)