九鬼周造は、『偶然性の問題』の中で、「双子の微笑」という比喩を紹介している。
ポール・ヴァレリーは一つの語と他の語とのあいだに存する「双子の微笑」ということを言っているが、語と語との間の音韻上の一致を、双子相互間の偶然的関係に比較しているのである。
九鬼は押韻との関連で、偶然性の象徴としてみている。音と音との偶然の出会いである。
偶然性を音と音との目くばせ、言葉と言葉との行きずりとして詩の形式の中へ取り入れることは、生の鼓動を詩に象徴化することを意味している。
たいへん美しい。「音と音との目くばせ」、「言葉と言葉との行きずり」。
「双子」に、「よく似た二つの顔」が重なる。
よく似た二つの顔は、一つ一つのときには別に人を笑わせないが、二つ並ぶと、似ているというので人を笑わせる。(パスカル『パンセ』133)
これは、わたしの考察の出発点だった。いまは複合論(弁証法の新しい理論)の象徴である。「よく似た二つの顔」を、これまでわたしは類似性から見て、偶然性という立場では考えてこなかったように思う。偶然性からも見ることができるのだ。
「双子の微笑」を複合論の象徴として借りようと思う。
双子。例えば、ケプラーの惑星の法則とガリレイの落下の法則、エールステッドの法則とファラデーの法則、スピノザの規定論とカントの二律背反。
ケプラーとガリレイの目くばせ、エールステッドとファラデーの行きずり、スピノザとカントの微笑。