対話とモノローグ

        弁証法のゆくえ

接続詞と自己表出

2006-07-30 | 自己表出と指示表出
 三浦俊彦は『論理学がわかる事典』(日本実業出版社 2004年)のなかで、言語に論理が備わるのは、複数の文を「だから(したがって)」「なぜなら(というのも)」という接続詞で結びつけたときだといっている。

 論理は、常に、二つ以上の言明の関係によって成立します。たとえば、「彼は人相が悪い。だから、面接に落ちるだろう」「もうすぐ雨が降る。なぜなら、雷鳴が聞こえるからだ」というふうに、複数の文を「だから(したがって)」「なぜなら(というのも)」という接続詞で結びつけたときに初めて、「論理」が現われるのです。単に「彼は人相が悪い」といった単独の言明は、ただの主張であって、論理は起動していません。

 言語と論理の関係についての、興味ある見解だと思う。三浦俊彦は、「接続詞」のはたす役割を指摘しているのだが、わたしは、言語のなかに論理が出現するとき、接続詞を含めて、ほかの品詞の場合も考えてみようと思った。

 わたしは「論理的なもの」の構造として、自己表出と指示表出を想定している。これは吉本隆明の表現論から借りてきた考え方である。
 『言語にとって美とはなにか』の図のなかで、品詞の分類表とはこれまで相性が悪かった。それは、自己表出の傾向がもっとも強い品詞として、感動詞が取り上げられていたからである。わたしは「論理的なもの」の自己表出として、類としての同一性、普遍性や必然性を想定しているので、「感動詞」と「論理的なもの」とは結びつきにくかったのである。
    

 しかし、自己表出の傾向の強い品詞として、「感動詞」ではなく「接続詞」を代表させると、品詞の分類表は、「論理的なもの」の構造と結びつき、「論理的なもの」の品詞論として妥当すると考えられる。「感動詞――名詞」ではなく、「接続詞――名詞」がわたしの自己表出と指示表出の理解の仕方なのである。
 自己表出の傾向の強い品詞として「接続詞」を想定することは、根拠のないことではない。なぜなら、自己表出は三浦つとむ(『日本語はどういう言語か』)でいえば、主体的表現に対応しているが、かれは主体的表現の品詞として、助詞、助動詞、感動詞、応答詞、接続詞をあげているからである。

 吉本隆明が示した図の「感動詞」を「接続詞」に置き換えたものが、「論理的なもの」の品詞論である。
    

 「論理的なもの」は、自己表出と指示表出という複合した構造をもっている。これに対して、自己表出だけの単独の構造が、「論理」そのものなのである。


ひらがな弁証法

2006-07-08 | 弁証法

 弁証法とは、対話をモデルとした思考方法で、対立物を統一する技術である。これが複合論の核心である。

 わたしは複合論を「あれとこれと」と特徴づけている。これは、ヘーゲル弁証法の「あれもこれも」とキルケゴールの弁証法の[あれかこれか]の「間」に位置づけているものである。

 「あれとこれと」

 先日、『ひらがな思考術』(関沢英彦著 ポプラ社 2005年)を読む機会があった。「ひらがなで考えてみないか」と勧めている本である。「あれとこれと」に続けて、新しい弁証法の理論(複合論)を「ひらがな」で表現してみようと思った。

 複合論は、共時的な構造と通時的な構造をもっている。どちらも、複素数をモデルにして、アルファベットで表現している。

 弁証法の共時的な構造とは、対話をモデルとした思考方法を表現したものである。「二個の主体」「媒介性と相補性」など中埜肇が対話の特徴としてあげた要素をアルファベットと矢印で表示し、選ばれたふたつの「論理的なもの」の自己表出と指示表出(中央にある bi + a と c + di)から、混成モメント(両側の a + di と c + bi) が形成される構造を表現している。

c bi + a di
+       +
bi c + di a

 弁証法の共時的構造は、ひらがなで、「ひらいて、むすんで」とあらわすことができる。

 他方、通時的な構造とは、認識における対立物の統一を表したものである。選択・混成・統一という三段階を表している。いわゆる正反合の図式に対置している構造である。A =a+bi と A' =c+di を、複素数の掛け算をモデルにして、B=x+yi として複合する過程を表現している。

1(選択) A =a+bi
A' =c+di
2(混成) A×A' =(a+bi)×(c+di)
≒(a+di)×(c+bi)
3(統一) =(ac-bd)+(ab+cd)i
=x+yi
=B

 弁証法の通時的構造は、「ふたつを、ひとつに」とあらわすことができる。

 複合論をひらがなで表現すれば、次のようになる。

   あれとこれと、
   ひらいて、むすんで、
   ふたつを、ひとつに、
   つなぐわざ。

 ひらがな弁証法。もういちど、口ずさんでみよう。

 ひらがな弁証法

   あれとこれと、
   ひらいて、むすんで、
   ふたつを、ひとつに、
   つなぐわざ。