複素数のかけ算、
A×A'
=(a+bi)×(c+di)
=(ac-bd)+(ad+bc)i
=x+yi
=B
は、2つの異なる複素数から1つの複素数が出てくる過程を表わしている。これを2つの異なる「論理的なもの」から1つの「論理的なもの」が形成される過程のモデルとした。
2つの「論理的なもの」を出発点にして、その自己表出(aとc)と指示表出(biとdi)が関連しあい、新しい自己表出(ac-bd)と指示表出(ad+bc)iをもつ「論理的なもの」が形成される過程を表わしている。これは『もうひとつのパスカルの原理』で提起した複素過程論で、ケストラーの創造活動の理論バイソシエーションbisociation(二元結合)のモデルとみることができるものである。
しかし、上に示した複素数のかけ算は数学の公式通りの展開である。その意味では同じレベルでの展開であり連続している。この複素数のかけ算を基礎に「対話」と「止揚」を導入して非連続化する。これが弁証法の複素数モデルになる。
「対話」の導入は次の図式で表示できる。
「ひろがるかたち」(弁証法の場所的構造)

「止揚」の導入は次の表で表示できる。
「つながるかたち」(弁証法の過程的構造)

ひろがるかたち(場所的構造)の中央にあるbi +a とc+di は、つながるかたち(過程的構造)の2(混成)の上部(a+bi)×(c+di)に対応している。また、ひろがるかたち(場所的構造)の両側のa+diとc+bi(縦に並んでいる第3の要素) は、2(混成)の下部(a+di)×(c+bi)に対応している。
混成の段階(a+bi)×(c+di)≒(a+di)×(c+bi)において、=ではなく≒で表記しているは、この過程が純粋な論理的な過程ではなく、飛躍を含んでいるからである。≒は「およそ等しい」を表わす記号である。選ばれた2つの「論理的なもの」とは異なった関係性と指示性が形成されていること、また、新しい価値と意味が形成されていることを表わしている。混成モメント(a+di)×(c+bi)の後が、再び=(等号)にもどるのは、この過程は論理的な過程だからである。ひろがるかたち(場所的構造)とつながるかたち(過程的構造)の混成の段階が弁証法の核心である。