対話とモノローグ

        弁証法のゆくえ

マクスウェルの弁証法

2007-03-11 | εとμの複合

 中谷宇吉郎の「電磁波の存在を示す数式 」(『科学の方法』)を初めて見たのは、複素過程論を弁証法の理論として見直していたころである。

 まだ形はできていなかったが、中谷宇吉郎のA)B)C)の三段階に、わたしが求める弁証法の端的な表現を見る思いがしたものである。暗中模索のなかの一条の光。電気と磁気の統合過程に執着してきた理由である。

マクスウェルは光の本質は電磁波であると考えた。その発想のなかの弁証法を抽出すると、次のようになる。

        連立と複合

 1 選択

    「アンペールの法則」  電流は、回転的な磁場を作る
    「ファラデーの法則」  磁場の変動は、回路に電場を作る

 2 混成

    「マクスウェル法則」  電場の変動は、回転的な磁場を作る
    「ファラデーの法則」  磁場の変動は、回転的な電場を作る

 3 統一

    「磁場のみが現れる式」 横波に対する波動方程式の形
    「電場のみが現れる式」 横波に対する波動方程式の形

 これを式で表せば、次のようになる。

      「電磁波の存在

 弁証法の図式で説明してみよう。(「εとμの複合」では、自己表出と指示表出による説明は割愛したので、補充しておきたい。)

 アンペールの法則の自己表出と指示表出は「回転的な場の出現」に関連するものと考えられる。これに対して、ファラデーの法則の自己表出と指示表出は「場の変化」に関連するものだったと考えられる。

 2つの法則の自己表出と指示表出が関連しあい、回転的な場の出現と場の変化の関係を構成する。

c bi + a di
+       +
bi c + di a

 ここで、上の中央の bi + a をアンペールの法則としよう。下の中央の c + di  がファラデーの法則である。
 右側の混成モメント di + a は、アンペールの自己表出 とファラデーの指示表出 から構成されている。これは、アンペールの自己表出(回転的な場の出現)とファラデーの指示表出(場の変化)とが結合する方向を示している。つまり、アンペールの法則の i (電流)を、電場の変化として捉えなおすことを意味している。

    rot H = ε・∂E/∂t

 これが右側の混成モメント di + a  に対応する式である。変化する電場は回転的な磁場を生み出すことを表している。

 これに対して、左側の混成モメント bi + c は、ファラデーの自己表出 とアンペールの指示表出 から構成されている。つまり、ファラデーの自己表出(場の変化)とアンペールの指示表出(回転的な場の出現)とが結合する方向を示している。

    rot E = -μ・∂H/∂t

 これが左側の混成モメント bi + c に対応する式である。これは変化する磁場は回転的な電場を生み出すことを表している。

 「マックスウェルの発想と複合論」では、エールステッドの法則とファラデーの法則からはじめている。「εとμの複合」ではアンペールの法則とファラデーの法則からはじめた。エールステッドではなく、アンペールの法則からはじめたので、磁場と電流の関係を表す法則の自己表出と指示表出を「場の出現」ではなく、「回転的な場の出現」とした。選択と混成の関係を、簡潔に描けたのではないかと思う。


連立と複合

2007-03-03 | εとμの複合

 「εとμの複合」をまとめるとき、わたしは『人物で語る物理入門』(米沢富美子 岩波新書 2005年)を引用した。そのとき、「連立」ということばに、とてもいい響きを感じていた。「複合論」と共鳴していたのである。

 米沢富美子は、2度、「連立」ということばを使っている。

 最初は、マクスウェルが、アンペールの法則・ファラデーの法則・磁場に対するガウスの法則・電場に対するガウスの法則を「連立」させ、電場の変動が回転的な磁場を作るという考えを付け加える場面。

 次は、4つのマクスウェルの方程式を「連立」させ、波動方程式を導く場面である。

 最初の「連立」は、「選択―混成」と対応する。次の「連立」は「混成―統一」に対応する。わたしはこのようにみていた。

 マクスウェルは光の本質は電磁波であると考えた。そのマクスウェルの発想のなかの弁証法の過程を、米沢富美子さんのことばでまとめると、次のようになる。

 1 選択

    「アンペールの法則」  電流は、回転的な磁場を作る
    「ファラデーの法則」  磁場の変動は、回路に電場を作る

 2 混成

    「マクスウェル法則」  電場の変動は、回転的な磁場を作る
    「ファラデーの法則」  磁場の変動は、回転的な電場を作る

 3 統一

    「磁場のみが現れる式」 横波に対する波動方程式の形
    「電場のみが現れる式」 横波に対する波動方程式の形

 「選択―混成」に対応する「連立」は、総合的であり、理性的である。これに対して、「混成―統一」に対応する「連立」は、分析的であり、悟性的である。