中谷宇吉郎の「電磁波の存在を示す数式 」(『科学の方法』)を初めて見たのは、複素過程論を弁証法の理論として見直していたころである。
まだ形はできていなかったが、中谷宇吉郎のA)B)C)の三段階に、わたしが求める弁証法の端的な表現を見る思いがしたものである。暗中模索のなかの一条の光。電気と磁気の統合過程に執着してきた理由である。
マクスウェルは光の本質は電磁波であると考えた。その発想のなかの弁証法を抽出すると、次のようになる。
1 選択
「アンペールの法則」 電流は、回転的な磁場を作る
「ファラデーの法則」 磁場の変動は、回路に電場を作る
2 混成
「マクスウェル法則」 電場の変動は、回転的な磁場を作る
「ファラデーの法則」 磁場の変動は、回転的な電場を作る
3 統一
「磁場のみが現れる式」 横波に対する波動方程式の形
「電場のみが現れる式」 横波に対する波動方程式の形
これを式で表せば、次のようになる。
「電磁波の存在 」
弁証法の図式で説明してみよう。(「εとμの複合」では、自己表出と指示表出による説明は割愛したので、補充しておきたい。)
アンペールの法則の自己表出と指示表出は「回転的な場の出現」に関連するものと考えられる。これに対して、ファラデーの法則の自己表出と指示表出は「場の変化」に関連するものだったと考えられる。
2つの法則の自己表出と指示表出が関連しあい、回転的な場の出現と場の変化の関係を構成する。
c | ← | bi | + | a | → | di |
+ | ↑ | ↓ | + | |||
bi | ← | c | + | di | → | a |
ここで、上の中央の bi + a をアンペールの法則としよう。下の中央の c + di がファラデーの法則である。
右側の混成モメント di + a は、アンペールの自己表出 とファラデーの指示表出 から構成されている。これは、アンペールの自己表出(回転的な場の出現)とファラデーの指示表出(場の変化)とが結合する方向を示している。つまり、アンペールの法則の i (電流)を、電場の変化として捉えなおすことを意味している。
rot H = ε・∂E/∂t
これが右側の混成モメント di + a に対応する式である。変化する電場は回転的な磁場を生み出すことを表している。
これに対して、左側の混成モメント bi + c は、ファラデーの自己表出 とアンペールの指示表出 から構成されている。つまり、ファラデーの自己表出(場の変化)とアンペールの指示表出(回転的な場の出現)とが結合する方向を示している。
rot E = -μ・∂H/∂t
これが左側の混成モメント bi + c に対応する式である。これは変化する磁場は回転的な電場を生み出すことを表している。
「マックスウェルの発想と複合論」では、エールステッドの法則とファラデーの法則からはじめている。「εとμの複合」ではアンペールの法則とファラデーの法則からはじめた。エールステッドではなく、アンペールの法則からはじめたので、磁場と電流の関係を表す法則の自己表出と指示表出を「場の出現」ではなく、「回転的な場の出現」とした。選択と混成の関係を、簡潔に描けたのではないかと思う。