対話とモノローグ

        弁証法のゆくえ

オイラーの公式の発端2

2021-01-20 | オイラーの公式
(引用つづき)『数学の流れ30講(中)』(志賀浩二著)
実際
   
の解としては、この微分方程式の特性方程式(d/dxをpでおきかえたもの)
  
の根
  
に対して、
  
が出てくる。
これから、オイラーの天才の閃きの中で、驚くべき関係
  
がはじめて見出された。これは
    (1)
とかいても同じことである。これからすぐに
  
も導かれる。オイラーの公式は微分方程式から生まれてきたのである。
(引用おわり)

余弦の公式(1)からすぐに正弦の関係が導かれたという(たしかに微分すれば一瞬である)が、3年ほどかかったのではないかというのが、私が提起している公式の経緯である。また、公式は指数関数と三角関数の関係というより、虚数が実数の弧と関係していることにはじめは着目されていたのではないかと考えている(「オイラーの公式――起承転結」や12月の記事「オイラーの公式を近くで見る」で展開している)。
1741年と1742年のゴールドバッハへの手紙の式は特殊な形で、公式(1)に到達していない。1739年のベルヌーイ宛の手紙に公式(1)がかいてあるとも思えない。実際のところ、どうだったのだろうか。

オイラーの公式の発端

2021-01-19 | オイラーの公式
オイラーの公式の発端は「グレイゼルの数学史III」によれば1740年で、自由調和振動の微分方程式の2つの異なった特殊解に着目することによって得られた。
   
これには前史があるようだ。『数学の流れ30講(中)』(志賀浩二著)参照。
次のようにある。
(引用はじめ)
実際はオイラーが、この公式を見出したのは1739年頃のことであった。1735年にダニエル・ベルヌーイが弾性の帯の振動に関連して、
   
という微分方程式についてオイラーに手紙を送ったことが契機となったようである。オイラーは定数係数の線形微分方程式の解として指数関数と三角関数が現われてくることに興味をもつようになっていた。1739年9月15日付のジャン・ベルヌーイ宛の手紙の中では次のように記されている。
この問題をいろいろな方法で取り扱っているうちに私の見出した解の中に、まったく予想もしなかったようなことが起きていることを知りました。いままで私は代数方程式の解が、それほど重要性をもって(微分方程式)にかかわってくるなどということは、少しも気がつきませんでした。
(引用おわり)
つづく
注 kの指数を2ではなく4に訂正して引用。

オイラーの公式―起承転結direct

2020-12-24 | オイラーの公式
「オイラーの公式―起承転結」は、「数学・物理通信」10巻 7号 (2020年9月8日発行)に載せてもらった。これだけを直接読めるように、FC2のホームページにアップロードしようと思った。ところがFC2はPDFファイルを受け付けなかった。調べてみるとPDFファイルは無理なのである。FC2からPDFファイルをみようとする場合、どこかに登録したPDFファイルを呼び出せばよいという記事があった。これでやろうと思った。
Googleのドライブを使った。

  オイラーの公式――起承転結

黒い背景に「オイラーの公式―起承転結」が出てくるが、この画面は扱いにくいので、右上の印刷のアイコンをクリックすると、見慣れたPDFファイル(ページを操作できる)が開く。

Googleのドライブは書庫として使える。このような使い方が出来ればわざわざホームページにこだわる必要はないと思えた。しかし、まとめてみる場合、目次は必要で、やはりホームページはあった方がよいと思い直した。それでFC2ホームページから見えるようにもした。「オイラーの公式―起承転結pdf」である。

「オイラーの公式―起承転結」を直接、読むことができるようになった。読んでもらいたいと思う。今年、一生懸命、取り組んだのである。





オイラーの公式を近くで見る2

2020-12-10 | オイラーの公式
1740年に、グレイゼルも志賀浩二も、
  
の関係を指摘している。グレイゼルは「論文」で、志賀は「手紙」において。どちらも確かめたことはないが、しかし、指数の底eはそのまま書いてあるのではなく、あとから整理されたものではないかと思う。
それは『無限解析入門』(『オイラーの無限解析』)の注に、1741年と1742年のゴールドバッハへの手紙が取り上げられていて、底が2とaの、次の式があるからである。
    (1741年)
  (1742年)
これを見ると、ベルヌーイへの手紙も、底が2のものではなかったかと思われる。

1740年から1742年にかけて、オイラーの関心は虚の指数が実の余弦になるという関係にあったと思う。それは虚の対数が実の円弧になるというベルヌーイの公式への関心と同じように、虚と実の関係である。正弦との虚の指数との関係を加えればオイラーの公式になるが、正弦との関係は1742年までは問題になっていない。
上の式を見ると分かるように、対数の形(log2、log a)がある。対数の形が制限になっているようにみえる。対数の形が消えるのはlog e = 1の場合である。いいかえれば、指数の底がeに変わることだが、この一歩がなかなか踏み出せなかったのではないかと思う。底をeにすれば、余弦と虚の指数の関係を維持するだけでなく、正弦と虚の指数との関係も可能になった。そして、指数と三角関数の関係としてのオイラーの公式ができる。これが1743年である。
  
指数の底の転換はどのように思いつかれたのか、興味あるところであるが、よくわからない。しかし、自由調和振動の微分方程式の成立条件ではなかったかと考えている。それは級数表示において余弦だけでなく正弦でも成立する正しい条件 log a = 1(指数の底 e)を導くからである。

(「オイラーの公式――起承転結」付録1「オイラーの公式、「起」から「承」へ」参照)

オイラーの公式を近くで見る

2020-12-07 | オイラーの公式
今年はオイラーの公式についてと考える機会が多い年だった。ブログに書いたし、その記事をホームページにまとめた。そして、「数学・物理通信」に載せてもらった(矢野忠先生にはお手数をおかけした。また、世戸憲治先生もわずらわせている。ありがとうございました)。
 1、ホームページの「オイラーの公式、起承転結。
 2、「数学・物理通信」の「オイラーの公式―起承転結
1は2と比べれば反故に近いのだが、記録として、そのままにしている。

12月に入って、志賀浩二『数学という学問Ⅱ』(ちくま学芸文庫、2012年)を読んでいたら、オイラーの公式が次のように取り上げられていた。それで今年をふりかえってみようという気になった。
 18 世紀数学において、もっとも時代を画する公式はオイラーの公式
  
であった。
 この歴史については、オイラーは彼の以前の師であったヨハン・ベルヌーイに、1740 年 10 月 18 日付で送った手紙のなかで、
  
の解は、2 通りの方法で表わされることを述べている。すなわち、解は
  
で与えられ、したがって、
  
という関係が得られる。この両辺を微分して、オイラーはさらに
  
を導いている。そして 1748 年の『無限解析入門』の中では、この関係を
  
として広く示した。
遠くから(2020年)みれば、これでいいのだが、近づいてみる(1740年から1745年)と、違ったものにみえる。これまであまり着目されることがなかった経緯なので(私は見たことがない、2で提起した観点の一つ)、取り上げてみたいと思う。

「オイラーの公式―起承転結」案内

2020-09-23 | オイラーの公式
 「オイラーの公式――起承転結」が「数学・物理通信」(10巻7号)に掲載されていますので、案内します。

 「数学・物理通信」(10-7. 2020. 9)

 オイラーの公式は1740年―1745年に形成されている。オイラーは1740年に調和振動を契機として、公式の一端をつかんだ(起)。1743年に調和振動の成立条件を見直し、関数(指数、余弦、正弦)のテイラー展開を比較することによって、公式の全体を把握した(承)。次に、微積分からつかんだ公式を1745年に代数的方法で原理的に再構成した(転)。そして、オイラーは円から生じる同位の関数として公式を定式化した(結)。Euler’s Formula —An untold story.


オイラーのド・モアブルの公式

2020-08-28 | オイラーの公式
現在、高校で習うド・モアブルの公式は18世紀にオイラーが『無限解析入門』(『オイラーの無限解析』)で導いたものである。
オリジナルのド・モアブルの公式は次のような形のものだった(1707年)。(『グレイゼルの数学史Ⅲ』参照)
  
グレイゼルによれば、ド・モアブルの関心はcos Bをcos nBで表わすことにあったという。オイラーはこの式から2つの共役な複素数(虚因子)を洞察し、三角関数の基本公式cos2 x+sin2 x=1を因数分解することからド・モアブルの公式を導出した。

1 √(cos2nB-1)はi sin nBだから、虚因子(cos nB+i sin nB)がある。
2 1/(cos nB+i sin nB)=(cos nB-i sin nB)だから、虚因子(cos nB-i sin nB)が出てくる。
3 (cos nB+i sin nB) (cos nB-i sin nB)=1である。

4  三角関数の基本公式cos2 z+sin2 z=(cos z+i sin z) (cos z-i sin z)
5  オイラーは、 cos z+i sin z , cos z-i sin z に指数関数の性質を確認して、ド・モアブルの公式
  
を導いた。

6 確認。上の式のn乗根をとると、
  cos z+i sin z=(cos nz+i sin nz)1/n
  cos z-i sin z=(cos nz-i sin nz)1/n
7 たすと、
  2 cos z=(cos nz+i sin nz)1/n + (cos nz-i sin nz)1/n
  cos z=1/2・((cos nz+i sin nz)1/n + (cos nz-i sin nz)1/n)
ここで後(cos nz-i sin nz)1/n= (cos nz+i sin nz)-1/nだから、
zをBで置き換えると、
  
であり、
また、
  
である。

オイラーの公式の内的順序

2020-08-21 | オイラーの公式
次の3つはどれもオイラーの公式である。

  cos x = (eix+eix)/ 2 
  sin x = (eix-eix)/ 2i 
  eix = cos x + i sin x

最初に把握されたのは、(自由調和振動の微分方程式の特殊解の比較による)虚指数量と実の弧の余弦の関係だった。
次は、(級数比較による)eix = cos x + i sin xである。
最後は、虚指数量と実の弧の正弦の関係である。これはeix = cos x + i sin xが定式化された後、eix = cos x - i sin xとの関係から、式変形によって導かれた。

ベルヌーイの美しい発見について4

2020-08-17 | オイラーの公式
(1743年から1745年へ)

オイラーは「負数と虚数の対数に関するライプニッツとベルヌーイの論争」(『無限解析のはじまり』所収、付録3)に、級数表示の比較によるオイラーの公式 (1 + ix/n)n = cos x +i sin x の証明を提示している。1743 年にオイラーは eix = cos x + i sin x を定式化した。この後、一方で『無限解析入門』(『オイラーの無限解析』)の考察があり、他方で「負数と虚数の対数に関するライプニッツとベルヌーイの論争」の考察があったと想定できる。どちらも1745 年に執筆されている。オイラーの公式は「対数の無限多価性の確認の途中で出会う一等式」(高瀬正仁)ではなく「対数の無限多価性の確認に向かわせた一等式」と考えられる。

「オイラーの公式,起承転結.」投稿

2020-07-30 | オイラーの公式
「オイラーの公式,起承転結.」は6月に一応完成している。何度か読み直して、改訂してきた。8月になったら、「数学・物理通信」に投稿する予定である。

オイラーの公式,起承転結.
Euler's Formula---introduction, development, turn and conclusion.
目次
1. はじめに
2.『グレイゼルの数学史III』より
3.1740年の公式
4.1743年の公式の導出1
5.1743年の公式の導出2
6.1743年の公式の導出3
7.1745年,2つの基本公式
8.ド・モアブルの公式の導出
9.「実の弧」と「消失する弧」,nz=xの仮定
10.余弦と正弦の級数表示,nz=xの検証
11.ド・モアブルの公式,洞察と展開
12.虚指数量と実の弧の正弦と余弦
13.円から生じる同位の超越的な虚量
14.付録1 オイラーの公式,「起」から「承」へ.
15.付録2 ベルヌーイの等式とオイラーの公式
16.あとがき
17.参考文献