新刊本が昨日から来週末にかけて順次出来上がってくる。なにしろ製本屋さんが家内制手工業なので時間がかかるのだ。でもこれでいい。この方がいろいろハプニングがあったときに対処しやすいこともある。さっそく著者団体へ500部納品してきた。
「『この国に生まれてよかったか』~生活保護利用者438人 命の叫び」という少しタイトルは長いが、身近なところではいい書名だと言われているのだが、どうだろうか。 編著者は全大阪生活と健康を守る会連合会(大生連)。全国的に命と暮らし、そして医療、福祉、教育をはじめ生活に困ってる人たちを様々な形で支援する組織だ。
438人。これほど多くの生活保護利用者の「生」の声が広く明らかにされるのはこの本が初めてだろう。原稿を寄せていただいた尾藤弁護士が言われるように、生活保護制度はもはや決して「あの人」たちの制度ではない。いつ、誰が利用するようになっても不思議ではない落とし穴が、今この国のあちこちに広がっている。生活保護利用者はこの10年間でほぼ倍増、国税庁調査では年収200万円以下の世帯が2006年、21年ぶりに1000万人を超えた。日本銀行の家計調査では貯蓄をしていな2人以上世帯は20.6%、5世帯に1世帯が貯蓄なしで、単身世帯では30%を超えている。また高齢者を中心に貯蓄の切り崩しが進んでいるという。
憲法25条「健康で文化的な最低限度の生活をする権利」、その精神は生活保護制度によって具現されている。しかしそれが実行される現場は利用しようとする人たちにとって相当に冷たく厳しい。
この本にはその現場で起こっていること、そして利用者のリアルな生活実態と生の声が数多く記録され、その1つひとつを読むごとにまさに書名の通りの「この国に生まれてよかったか」という思いを強く抱かざるを得なくなるのだ。
しかし希望はある。政府が「水際作戦」や「硫黄島作戦」を展開してくる役所の窓口で、憲法25条と生活保護法制定の基本理念を武器に次々と反撃を行い利用を勝ち取っている人々の姿が描かれているからだ。さらにそれを支えてきた「私の要求」運動の存在。低所得者、生活困窮者である弱者1人ひとりが自分の言葉で生活を語り要求を掲げ、交渉に臨んでいく運動だ。
編者の大生連事務局長である大口さんはその姿を本書「あとがき」に次のように記している。
「生活保護利用者の訴えはその迫力が違います。生まれて初めてマイクを握る人が100人以上の参加者の前で話す、その時手も声も震えています。しかし、『人間らしく生きたい』という言葉の重み、その生々しさは、まわりのものを圧倒し、粛然とさせます。そしてこの中で発言をした人とそれを聞いた人たちとの、強固な一体感が生まれ、団結して闘うことの大切さを実感します」
この本が生活保護問題に関心のある人のみならず、幅広い人たちに共感を広げていくことを強く願うものです。特に政府・厚労省関係の人にはぜひとも読んでもらいたいです。