■友だちほしいからや
これから職員朝会が始まろうというあわただしい時間に、親からの電話です。じゅんちゃんのお母さんからでした。少し興奮した声で、クラスのゆうちゃんが「止めて」と言ってもちょっかいをかけ、いやがらせを続けるから学校を休みたいと…。
「それはご心配ですね。早速きょう話を聞いてみます。様子がわかったらまた連絡入れますから。いやあ実は最近、じゅんちゃんの表情が暗く気になっていたところでした。よう連絡してくれました」
「先生、じゅんはね『いややけど、ゆうちゃんほんまは友だち欲しいんとちがうか』って言いますねん」
「そんなふうに考えられるって、じゅんちゃんはずいぶん成長しましたね」
昼休みに話を聞こうと思っていた矢先の給食時間でした。ちょうどその日は二人のいるグループで私が給食をとる順番でした。しゃべりながら食事をしていると、じゅんち
ゃんが自分から訴えたのです。
「先生、ゆうちゃんのこといややねん、止めてほしいのに止めてくれへん」
「そうか、いやだったね。でも自分からよう言えたやんか」
「私にだけ違うで。他の子にもいやなことしてる!」
「じゃあきょう5時間目の学級活動の時、みんなにも聞いてもらって知恵を借りよう」
そして、話し合いの時間、じゅんちゃんはしっかりと自分の思いを語ってくれたのです。すると、克ちゃんが「ゆうちゃんはな、友だちになって遊びたいから、そんなんしてるんちがうか。オレらと遊ぼうや」と。
友だちの行動の裏にあるものを読み取り、みんなでみんなをよくしようとする空気ができてきた三年生の成長をうれしくも思った日でした。
■うちへ連れておいで
その夜、じゅんちゃんの母親に電話を入れました。
「先生、きょう一日のこと、じゅんから聞いて安心いたしました。明るい顔で帰って来ました。私たちもこの学校に転校してくるまでいろんなトラブルを経験し悩んできました。私ね、娘に言うてるんです。『ゆうちゃん、妹も連れてうちへ遊びにおいで』と言うてあげなさいと。娘は『またいやなことしたらいやや』と言うんですが、父親が『よっしゃオレが遊んだるから』って言うてますわ」
「まあ、そんなふうに受け止めてくださって感謝!感激です。ありがとう」と言うと、電話口でいっそう弾んだ声で「ゆうちゃんのお母さんって、あの角の弁当屋さんですよね。ご挨拶だけはしたことありますが、ゆうちゃんのお母さんとは知りませんでした。ついこの前知ったんです。あの方よう働いてはりますよね。またお弁当買いに行って、親もお友だちになりますわ」。
なんだか電話口でうるっときてしまった私でした。
すぐにムカつく、キレる、大人も子どもも他人に攻撃的な現代ですが、わが子がいやな思いをしたというのに、クラスの友だちや親をこんなふうに見ていただけるなんて…
。まだまだこの時代見捨てたもんじゃありません。親を「モンスターペアレント」なんて呼ばないでと思うのです。
あの池田の事件以来、何かあると学校から不審者対策の手紙を配布しているのです。この日も不審者に気をつけろ、優しい声をかけてきても知らない人には付いて行ってはいけません…と。人を見たら気をつけろという手紙を配りながら、淋しい時代だなあ、だから今こそ人は信じられるということを身をもって伝えたい、と改めて思った日でした。
なぜかこの日、一番安心した表情をしていたのは、ゆうちゃんでした。
親にも、子どもの間でのトラブルをどう受け止め、どう解決していくのか学ぶ機会になればと思って、この話を両方の親の了解をとって、学校だよりに掲載したことでした。
(とさ・いくこ 中泉尾小学校教育専門員・大阪大学講師)