月刊 きのこ人

【ゲッカン・キノコビト】キノコ栽培しながらキノコ撮影を趣味とする、きのこ人のキノコな日常

森と菌根のネットワーク

2020-04-09 22:30:37 | キノコ知識
菌根についてもう少し詳しい話をしたいと思う。

菌根は、地面を掘り返さないと見えない。キノコが生えて初めて「ああ、このナラの木に菌根菌がついてるんだな」とわかる。
その地面の下でどのように菌類がはたらいているか、ってことに関しては、まだ研究途上でわかっていないことがあまりに多い。

それでも少しずつわかってきたことをかみ砕いて説明しようと思う。


まず、菌根についてよく勘違いされるのは、このイメージだ。1本の木に、1種類の菌根菌。キノコが生える際には、木をぐるりと取り囲むようにして生えて、いわゆる「菌輪」をつくる。

もちろん可能性としてはこのパターンもありうると思うけど、大半の場合、そうではない。必ずしも菌根菌が1本の木を中心にして展開するわけではないからだ。


実際のイメージはこのような感じだ。菌根菌は、胞子が着地した地点から菌糸の生長を開始する。その場所は本人には選べないので、そこからとにかく周囲に菌糸を広げて、共生に適したパートナーを探すことになる。運よく根っこと巡り合えたら、そこで菌根を作ることができる。

菌根を作る相手は、なにも1本の木とは限らない。むしろ複数の木の根っこがある方が普通ではないだろうか。

ここで面白いことがある。図の下の方、A・Bという2本の小さな木があることに注目してほしい。これは種から芽生えたばかりの苗木だ。

Aの苗木は親の木のすぐ近くに、Bの木は離れて生えている。
Aは親の木の菌根菌が展開している場所に生えてきたので、すぐにパートナーの菌根菌をみつけることができた。
Bは親の木から離れて生えていて、菌根菌がすぐにはみつからない状態にある。

この結果どうなるか。Aは生き残る確率が高くなり、Bは多くが枯れてしまうのだ。

このとき、親の木とAの苗は菌根菌を介して間接的につながっている。まだ明らかにはされていないが、もしかしたら親の木が得た栄養が子の木に融通されているなんてこともあるかもしれない。
少なくとも、親が養った菌によって子が生きることができるわけだから、それが親の木の「愛情」なのだ、と言っても間違いじゃないと思う。そう考えるととてもおもしろい。

さらにこの図を見ると、親の木は菌根菌を介してさらにとなりの木と間接的につながっている。となりの木はさらにとなりの木に。親の木たちどうしも、菌類を通してゆるやかにつながり合って暮らしているのだ。つながりあった木は菌類を通して情報を共有しているという研究もあり、もしかしたら栄養をわけあうようなこともしているかもしれない。菌根菌の網が、人間でいうところの「コミュニティ」のように、まさに樹木のセーフティーネットとなっている可能性がある。


そして、菌根菌は1種類とは限らない。この図では赤・青・黄、3種類のキノコが競争関係にあるのを示してみた。違うキノコどうしは混ざりあわず境界線を作ってにらみ合うが、それでも木と木のつながりは乱れない。

さらに言うと、キノコと共生関係を結べる樹木も1種類とは限らない。たとえばマツの仲間もキノコと共生関係を結べるが、マツと契約できるキノコにはナラ類とも契約できる種類が多い。

こうして、マツとナラという全く違う種類の木がキノコを介して協力し合うことになる。たとえば松枯れ病が流行ってマツが大量に枯れてしまっても、ナラの木が菌根菌を守ってくれているので、マツの種子さえ残っていれば、すぐさま復活することができる。

こうして菌根菌は樹木の安定性に貢献することを通して、森の生態系を守ってきた。キノコは縁の下(あるいは緑の下!)の力持ちなのである。