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3秒/マルク=アントワーヌ・マチュー著(河出書房新社)
これは漫画と言っていいのだろうか。表題の通り、おそらく3秒間の出来事を描き出しているわけだが、人間の体感の3秒を指しているわけではなく、その3秒間に起こりうる現象を、コマ割りの映像を使って追っていく体験のような話なのだ。何を言っているのか分かりにくいだろうが、この作品は同時にこの作品のコマ割りのような映像も併せて発表されたようだ。僕は探してみたが見つけることはできなかったけれど、そういうアニメーションのようなものと同時出版されたものであるという。
サッカー界を取り巻く事件の周辺で起こった一瞬を、追っているらしい映像が繰り広げられる。群衆の画面を追っていくと、その先の男の瞳の中に映っている映像を追うことになりその先にまた反射映像があって、その中の風景のようなものの中にまた反射するものがあって……、というような入れ子状況の画面が延々と続く。アイディアが面白くて、そのようにしていくつもの視点で物事を見るという体験をする。その見ている角度によって見えているものは違っていて、その事件の真相があらゆる角度から映像の断片を使って眺めていくことになるのだった。
ただ段々と近づいて行って写っている画面を確認して起こっている状況を理解していくにつれて、時間の経過も同時に進行している事実を知ることになる。たったの3秒の間の出来事が、これだけドラマチックであるという驚きに包まれることであろう。ある意味では演繹法のはずなのだが、見え方の順序をたどることで、むしろ過去の何かを理解することにもなる。外に飛んでいる飛行機の中のことも分かるし、まちの喧噪も分かるし、飛んでいるハエの運命まで掴むことになる。ほんとになんというアイディアだろうか。観ながらその出来事に翻弄されるような体験になることだろう。そうしてこのアイディアの中にあって、一種のショックを受けることによって、何か自分の中のひらめきのようなものについても刺激を受ける。ぜひ同じような体験を、他の人にもして欲しい。絵柄はちょっと日本的でないところも面白さになっている。いちおう文字は翻訳もされていて、そういうところも凝ってるなあ、という感じなんであった。
追伸:映像は普通に観られました。この本にアクセスの仕方は書いてあって、最初は会社のページなんで関係ないと思ってたけど、よく見るとパスワードも書いてあってその通りに設定したら入れました。映像はそのままこの絵を続けただけのものでしたけど、楽しめました。そういう意味では、この漫画はそのままフィルムのコマ割りのようなものなのでありました。