小寄道

日々生あるもの、魂が孕むものにまなざしをそそぐ。凡愚なれど、ここに一服の憩をとどけんかなと想う。

キキオンとリンの夕べ

2005年02月16日 | 音楽
 中目黒の「楽屋」に行く。小熊英二氏が参加する「キキオン」のライブがあるからだ。去年の11月にピーター・ハミルのコンサートに行ったから、約3ヶ月ぶりのライブ。駅近くの洒落た居酒屋でまあまあの飲食。
 「楽屋」はアイリッシュパブということだが、ガラス貼り建築のモダンな雰囲気で、料理も多国籍のものを出す面白い店だった。
 ライブは対バンの「リン」というグループが登場。「リン」はゲール語で「星」の意味らしい。
 アイリッシュフルート(チェロも演奏)、アコーディオン、アイリッシュハープの3人編成。アイルランド音楽は、映画「タイタニック」以来、日本人にもポピュラーになったらしいが、客席もほぼ満席で「リン」お目当ての客も混じっていたかもしれない。静謐で美しい旋律の独特なアイリッシュ音楽は悲しくもないのに涙腺が刺激される。
 ハープとフルートのユニゾンに思わず涙が出る。不思議だ。アラン・スティーベルのライブ映像を思い出した。観客の全員が穏やかな笑みを浮かべながら、静かにアランが奏でるハープを聴き入るビデオは「劣化ウラン弾について」で書いたW氏からいただいたものだ。所々で練習不足かなと思う部分もあったが、日本人もここまでアイリッシュ音楽を演奏できるのかと感心する。
 彼らには失礼な言い方になるかもしれないが、意外な収穫であった。1時間半もあっという間であった。

 「キキオン」も初めてである。小熊英二氏のホームページで知ったのだ。この人の著作は大体読んだが、私は「戦後思想」を独力で本格的に脱構築したのは、今のところ小熊英二だけだと思っている。今後、天皇制と資本主義論の問題に手をつけたら、日本思想史に金字塔を建てる偉業となるはずだ。まだ42,3歳らしいから、これからの活躍に期待したい。その意味で「バンド活動なんかしててもいいの?」と茶々を入れたくなるのであるが、それはまったく問題ないであろう。

 話が脱線した。「キキオン」は十時(ととき)さんのボーカルを中心とした不思議なバンドである。アイリッシュ、ケルト、或いは無国籍でもない。かといってフォークロアでもない。なんとも形容しがたい。
「私たちの音楽は、ヴァレンタインデーにふさわしくない、別れとか悲しみをテーマにしています」と場内の爆笑を誘ったが、聴いていても陰気な雰囲気はなく、むしろ心癒される温かさや童話のような面白さを感じさせる。
日本語の歌詞になにか秘密があるのか。当日「断食月」というCDを買ったが、東欧とか中近東をイメージするような民話風の歌詞内容が書かれていた。ヨーロッパの辺境とか、あちらで生活したことがあるのだろうか。
矢川澄子風の高尚な少女趣味といったら失礼か、私のような凡人には入りこめない、独特の世界をもっていることは確かだ。日本のマルタ・セヴェスチェンかな。そういえば、「キキオン」のホームページに、小熊氏の好きなアーティストにジミヘン、ツェッペリン、ペンタングルなど知られた名前が記されていたが、十時さんのそれは私の全く知らない名前が列記されていた。
 ともあれ、予想どうり几帳面(?)で繊細な小熊氏のギターも良かったが、アコーディオンの佐々木さんという人の演奏にも魅了された。こんなにも奥の深い楽器だったんだと、今更ながら感心することしきり。
最後に6人で伝統的なアイリッシュを合奏したが、これも盛りあがった。美しい音の粒子の一つひとつが流れていくように見える。約3時間はあっというまに過ぎたが、濃密で楽しい時間だった。

 3月31日は本拠地吉祥寺で「別の面、濃いところのキキオンをお見せします」というライブをやるらしい。





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