理由はわからないが、がん細胞が増殖しているという残念な結果を知らされ、新たな抗がん剤による治療をうけることは書いた。飲んでがんを退治するというティーエスワンという内服薬で、後で調べると膵がん・胆道がんの治療に用いられる代表的な抗がん剤とのこと。劇薬にも指定されているらしい(消化器系の薬だけに下痢などの副作用が心配だ)。
担当医師を信頼しているから、それほどショックはうけていない。治療の新たなフェーズに入る、素直に受入れるしかない、そんな心境である。
当日、治療はキャンセルされ、時間に余裕がうまれた。同伴してくれた妻の提案で、湯島天神の梅を観に行くことになった。本郷から歩いても、14,5分の近さである。午後2時ごろの陽気は暖かく、久しぶりに花を見る、自然に向かい合うという神妙かつ晴れやかな気分に・・そう心持を調えることになれてきたと言っていいか。
平日だったので見物客は少なく、屋台もほとんどが閉まっていたのは寂しい。ちょっと物足りない雰囲気もあったが、湯島天神の白梅と紅梅たちは華やかで、今年最初の花見を満喫できた。
同人俳句誌への投句はなんとか続けている。闘病のことを触れずに、なるべく生活実感のある自然詠を専らとしたい。この日のことを2,3句詠んでみた。ご笑覧ください。
初湯島芽立時こそ芳しく
紅梅や自己満のパンケーキ出来
天神の二月の絵馬は軋みたり
名の知らぬ春の黄花は笑ひをり
早春や穴子の煮詰め艶黒く
以上のほかに、今年になってから作った拙句を載せておく。
黙る子ら祈りか餅かどんど焼き
短日の陽だまりの猫の微睡み
運不運織り込まれてや古蒲団
埋火を手で掴みたる母ゐたり
大寒や半袖着たる異邦人
木枯しや翔べずの鴉独り居り
路地脇の名残とどめし枯芭蕉
葱買ふて葱隠す男その沽券
冬めきて掌の甲の皺数多かな
捕鯨への憧憬メルヴィル再読
宵闇の公園に哄笑ひびく
秋惜しむスワンの舟々廻るよ
不忍の池ざわざわと雁渡し
立冬の空の碧みは身に沁むや
句集編め心に刻む小春の日