秘境という名の山村から(東祖谷)

にちにちこれこうにち 秘境奥祖谷(東祖谷山)

菜菜子の気ままにエッセイ   SANE著

2007年09月26日 | Weblog
嘗めたらいかんぜよ
夫婦になって二十二年、主人がお祈りをしている姿を見た事は、一度もなかった。病棟と病棟の間に、喫煙所があった。そこだけは吹き抜けになっていて、入院仲間達が、毎日おなじ時刻に約束をする訳でもないのに、集まっていた。みんな、様々な病気を抱えながら、それでも他人には優しかった。それぞれの体を労るように、つかの間の風の匂いを楽しんでいた。社会の中では、体に障害を持つ者は生きにくい。健康な人は自分達の都合で、全てを進めて行くが、病人はかなりのハンデを負いながら、ついて行かなければいけない。一番、辛かった。
主人は、同じ事情の仲間に囲まれて、幸せそうによく笑っていた。小さな目が、笑ってよけいに小さく見えた。
「おっ、今日は満月か~、きれいなの~」
主人は病棟の壁の間から見えた四角い空に輝く満月をじっと見ていた。そして、黙って両手を合わせてつかの間、お祈りをしていた。娘が主人の横で主人に聞いた。
「父ちゃん、何をお願いしたん?」
主人は恥ずかしそうに笑っていた。四角い空に煌々と輝いていた満月、エレベーターの上下する音、二十四時間付けっぱなしの、看護婦の控え室の灯。くたびれた長椅子。ヤキツイテ離れない。あれから、私は満月を見なくなった。満月が大嫌いになった。満月だと感じる明るい夜は、カーテンを隙間なく思い切り、閉める。気配を断ち切るように、閉める。
多分、主人はこんな事を、お願いしたんだ。
「早く、退院出来ますように」「外に出られますように」
今日も私は、思いきりカーテンを閉めている。一人になってからの社会との関わり方の現実の難しさをツクヅク味わっている
地区のお堂の修繕費を集めに来た。
「〇〇さんちは、半額の五千円でええわ。会で女のヒトの家は大変じゃきん、半額って、決めたんじゃ」
私は五千円を払い、いつものように、ボケーと後で考えていた。
主人は、この五年間は仕事を辞めて家で、養生をしていた。地区の方々は知っていた筈。でも、お祭り事の集まり、お葬式の手伝い等は、普通にお呼びがかかった。私で済む用件は、全て私が片付けていた。主人がいた頃は、「全額」で私一人になって「半額」。
第三者からみれば、半額で良いじゃない!と言うと思うが、私にはオカシクナイ?と感じるのだ。主人が仕事を持たなくても、私達は一生懸命に、地区の方々と同じように、社会生活を営んでいた。イナクなれば、半額?
先日も友人(共に夫にフラれた)と話していた。社会との関わり方の早い話しが、なんてむかつく事が、多いのか!村の行事は最後は酒の場所で、締め括る。風習みたいなもの。今まで、夫が健在だった時は、夫以外のオッサンに触られる事はなかった。肩とか、腕とか、手とか、触らなくても会話は出来る筈なのに、やたらと触るオッサンがいる。二人で愚かな一部の男の悪口を、並びたてて話した。この際なので、世の奥さん、酒の場所から帰った夫に聞いてみて下さい。
「あなたは、酒飲んで、子供達の恥になるような事、シテナイノ!」
彼女と私と、そして今夫に先立たれたすべての女性の声を、代返して私は哀れな一握りの男に、言います。唾を吐きたい気持ちを込めて!あなたが先立ち、妻が遺され、あなた以外のオッサンが、あなたの大切な妻を、「サワル」
嬉しいですか?化けてでてきたくないですか?
先立たれた哀しみでイッパイなのに世間と共に生きていくのは、過酷だ!
「嘗めならいかんぜよ!」夏目雅子の声が、のりうつる!
友人は、最後に言った。
「女であることが、面倒くさい」
「オナベになろうかと思ったけど、それも面倒くさい」
帰る彼女の後姿は、かなり疲れていたのか、右足と右手が同時に前に出ているように、見えた。私は玄関を閉めながら、思った。彼女は無理しなくても、十分オナベに近い。そんな事、失礼で口にはダセナイ。友情にヒビがはいる。 合掌
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