思へただひとりおうなの質素なり畑仕事に今日も生きしを
じゃが芋の花はひっそり咲きにけり明日の糧にと愛でし育てむ
大木のヒノキの命終へにけり毘沙門天に捧げはぐくむ
じゃが芋の花は二株凛として
わが庵に一輪咲きし著莪をりて
標高800あたりの山辺で暮らすひとりの老農婦は質素である
このところ体調があまり良くないが、何時も畑で何かしら働いている
この日も一輪車にカヤ束を乗せて30mほど運ぶのに腰が痛いと一休み
で、訊ねてきた私は二往復して手伝うと、さっそく海馬で刻みだした
蕎麦を作る畑の肥として撒く準備をしていたのである
となりの一画にはじゃが芋がすくすくと育っていた、二株ほどにひっそりと
素朴で、質素な花が咲いて明日の糧を育んでいるようだ
6月、夏になったばかりの午後の何もない山里のひと時である
チェーンソーのけたたましいうなり声があたりを震わせていた
毘沙門天のお堂の広い前庭にわたしは居た、ヒノキの大木が横倒しになり
適当の大きさに切られたヒノキに細工をしている、70前後の近所のひとが
チェーンソーで削っていた
形が整ってきたので、具合をみるため組み立てはじめた、ちょうど良いらしく
満足そうにして一休みする
聞くと、その下に立っていたヒノキに寿命が来て倒れそうになり、毘沙門天の
お堂に上がる階段にしてお役に立って欲しいものとヒノキにお願いして
細工しているとのこと
年輪を重ねた大木のヒノキは次の命をはぐくむのであろう