嗚呼､夢の中でもパンデミック？〜真夜中の訪問者３４

　哀しいかな､夢の中で隔離施設に入れられた。

　隔離といっても､都心部の大きく洒落た図書館だったが､食料が殆ど届かず､皆が皆パニックになりかけた。場は異様なまでに騒然とし､異常な殺気が部屋中に伝わってくる。
　”政府が隠匿してんじゃねーのか？”
　”誰かスーパーに行って食料を確保してこいよ”

　そのうち､飢えで死者が出た。次々と死者が出た。流石に私は慌てた。しかし､外出は絶対禁止だ。しかも､どんな危険な細菌が繁殖してるかわからない。
　私は防塵マスクをはめ､完全防備で車庫へむかった(夢の中では不思議と勇敢なんです^_^)。
　既に､男が車に乗っていた。何処かで見た覚えのある様な顔だが思い出せない。
　”最悪の場合はスーパーを襲おう。今はそれしかない”
　相棒はかなり興奮してたが､私は不思議と冷静だった。

　2人は白いバンに乗り､外へ出た。
　しかし､すぐに地響きがした。いきなり巨大な地震が襲い､高層ビルが崩壊し始めた。道路はビルの残骸で埋まり､我々が乗ってた車は八方塞がりになった。
　私は外に出て､車の進行を邪魔する瓦礫を1つ1つ排除していった。ボコボコの道を何とか車で進もうとするが､なかなか先へは進まない。私は1人車の外へ出て､半瓦礫化した道の中の車を誘導した。

　何とか平坦な道に出たと思いきや､その時､大きな地響きが起こり､車は瓦礫の中に閉じ込められた。
　私は既に外に出てたから､難を逃れる事が出来たが､相棒は車の中に閉じ込められたままだ。

　車の上に覆い被さった重たい瓦礫を何とか取り除き､仲間を救出しようとしたその瞬間､傾向てた高層ビルが車を襲った。
　完全に車は潰れた。まるで”9−11”を見てるようだった。
　大量のガラスの破片とコンクリートブロックが私を襲った。私は背中を丸め､何とかその場を逃れた。
　運良く命は助かったが､私の両足には数多くのガラス片が深く突き刺さっていた。

　ガラスの破片を1つ1つ丁寧に抜いていく。とても痛かったが苦痛といえる程でもなかった。それに不思議と出血は少なかった。
　全てのガラス片を抜き去ると､両足が痺れ始め､動けなくなった。
　”ああ､これで俺も終りだ”と観念した。空は真っ白な煙で覆われ､周りは廃墟と化していた。

　その時､夢から覚めた。

　
　不思議と悲しくはなかった。人が死ぬ時は呆気ないもんだ。同様に､人類が絶滅する時もこの夢のように呆気ないもんだろう。
　人類が作り上げた自慢のビル群に押し潰され､死滅するならそれも自業自得だろう。

　人は死ぬ瞬間､何を思うのだろうか？何を感じるのだろうか？そこにパニックは存在するのか。
　夢の中で得た答えは､”虚無”であった。何も考える事もなく､何も感じる事もなかった。
　そう､人は死ぬ時は何も感じる事なく何も考える事なく､潔く死に向かうのだろうか。

　それが判っただけでも､有意義ある夢だったとも言える。

　そして､酒とパンを買いにスーパーへ出掛けた。食パンがスッカリなくなってた。トイレットペーパーは沢山あったが､何だか哀しい気がした。
　追い詰められて奇行に走る生き物と､追い詰められても何も感じない生き物。果たしてどっちが正常なのだろうか。