象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

『ファウンダー』マクドの創業者レイ•クロックに見る20世紀のビジネスモデル。その2〜マック兄弟の物語と、クロックとの壮絶な対立と〜

2018年02月06日 13時18分39秒 | マクドナルド

 丁度、レイクロックの自伝である『成功はゴミ箱の中に』読んでたので。これもブログに加えようと思います。前回同様、更新と補足という形で、加えていきます。
 
 出来るだけ、映画を中心に、自伝本で補足する形で、進めて行きたいです。悪しからず。

 ここで、先にそのまま進むより、少しステップバックし、マクドナルド兄弟の物語をです。兄モーリス•”マック”•マクドナルド(1902〜1971 イラスト右)、弟リチャード•”ディック”•J•マクドナルド(1909〜1998 イラスト左) です。クロック同様に、映画とは少しイメージが違いますかね。



 前回では、触れてなかった事ですが。元々、マクドナルド兄弟は、ある映画スタジオで一緒に働き、ハリウッドに憧れてたんですが、全く袖にされたんです。そこで、意を決して、1932年、廃館になった劇場を買い取り、1939年にホットドッグ屋を始めますが、これも頓挫。レイクロックの若い時と、同じ様な運命を辿るんですね。

 しかし、映画スタジオでの経験が生きたんです。テニスコートに、店のレイアウトをチョークで描き、そこで実際に、店員達と作業のシュミレーションを何度も繰り返し、作業の効率化を徹底します。このシーンは映画にも出てきますが。何かジーンと来るものがあります。流石は、アメリカって感じです。

 この辺りの斬新さと発想には、全く頭が下がる。それに、カスタムキッチンというユニークな発想も、マクドナルド兄弟が考案したんですね。

 また、マクドナルドの象徴でもある、ゴールデンアーチという奇抜で華麗なデザインも、弟ディックの発案です。レイクロックは、このデザインにスッカリ惚れ込み、自分のビジネスモデルの方向性を、ここにてはっきりと見出すのです。

 ジュークボックスやウエイトレス、トレーの廃止、徹底した簡素化。それに、無駄のない工場式の流れ作業を生み出し、ハンバーガーを僅か30秒で客に提供する手腕も、映画では見事に描いてますね。
 "愚かな程簡潔に"(Keep It Simple Stupid)、とはよく言ったもんです。私も大好きな言葉ですが。
 これなんか、ブログの世界でも当てはまります。何も考えずに、書いたが勝ちなんですね。揶揄したり、皮肉る暇があったら、テメエの事考えろって、レイクロックも言ってますな。


 さて、短気だが革新的な兄マックと、頑固だが沈着冷静な弟ディックとのコンビは抜群で、ここに来て彼らは大きく羽ばたくのです。
 そして、前回述べた様に、漸く、1948年に念願のハンバーガー屋を、ここカルフォルニアの、砂漠の中の干乾びた超ド田舎の町、サンバーナ•ディノに立ち上げるのです。
 レイクロックも、この光景が全く信じられなかった。その上、8台ものマルチミキサーがフル稼働し、一度に40のシェイクを作り出す。僅か1台で150ドルを売り上げるのだから、現実とは思えないと。

"ここは初めて?" 
"ああ" 
"じゃ、直に判るさ。15セントにしちゃ最高のハンバーガーさ。待たされる事もないし、チップをねだるオネーもいない" 
"毎日来るのか" 
"ああ、オカンの冷めた料理より、この方が断然美味いよ"

 メニューは、ハンバーガーと同価格のフライドポテトに4㌣増しのチーズバーガーのみ。他には、ソフトドリンク(10㌣)に、16㌉のミルクシェーク(20㌣)にコーヒ(5㌣)だけ。
 これで解るように、ミルクシェークとフライドポテトに力を入れ、挽肉の品質に拘ってたかが、自然と伺い知れます。"食感とソース"のみで勝負する、今のマクドとは大違いですな。


 マクドはどっちが先か。厳密には、1940年に兄弟が"McDonald's"を創業したという事ですが。これは、映画と自伝本では語られてません。1955年に、レイクロックらが創設した"McDonald's Corporation"と区別する為でしょうか。
 ウィキにも、マクドナルド兄弟とレイクロックは、共同創設者となってますね。何だかスッキリした様な、しない様な。
 個人的には、創始者をマクドナルド兄弟にして、創業者をレイクロックにした方が、判りやすいと思ううんですが。


 それでも、車の中で食べる習慣のアメリカ人には、窓口に並んでというスタイルに戸惑った客も多かったのです。
 兄弟は、夕方の5時の閉店を、ゴールデンタイムにまで引き伸ばします。これも当たり、以降、行列の山が途絶える事はなかった。閉店した窓を子供が叩くシーンは、実に感動的です。 


 映画では、初めてレイクロックと出会い、3人が一緒に食事をする時に、兄のマックが"ここに来るのに30年掛かったよ"と回想するんですが。
 レイクロックと同様、彼らも成功するまでに、30年もの歳月を費したのだと思うと、何だか意味深なシーンでもあリます。


 それと、前回でも述べたが。レイクロックが店舗の拡張を、マクドナルド兄弟に強く進言した時。広域的に店を管理するには限界があると、弟のディックが猛反対する。"ニ流の店を50持つより、一流の店を2つもった方がマシだ"と。このシーンは、映画の中でもクライマックス的に描写されてますね。

 レイはここにても挫折。夫婦の仲には亀裂が入り始め、彼は必死で兄弟を説得します。実は、彼らも西海岸のフランチャイズには、思い入れを残してたんです。映画では語られてませんが、レイには内緒で、10件の店舗を西海岸に抱えてたのだ。
 兄マックは弟ディックを説得した。"前と違ったやり方でやろうぜ"と。結局、互いに干渉しない事で拡張する事に合意する。

 それでも、契約はレイに非常に不利なものだった。フランチャイズの売上の1.9%が彼の取り分で、それから、0.5%を兄弟に収める。その上、どんなに小さい問題も、彼らのサインが必要だった。
 弁護士を雇えないレイは、彼らに従うしか他に生き残る道はなかったのです。"弁護士なくしてバカを見る"が、現実となる。

 しかし、前回述べた様に、その後、ハリーとの運命の出会いもあり、フランチャイズ会社を建て、不動産ビジネスに乗り出す事で、マクドナルド兄弟との力関係が逆転します。

 映画でのハリーのセリフは実に爽快でした。"兄弟を超えて管理するんだ。奴らを手のひらの上で転がすんだ" レイがこの言葉に勇気付けられたのは、言うまでもないですね。
 勿論、マック兄弟は、このマクドナルドシステムの創設を聞き、特に弟のディックはブチ切れます。"不動産会社じゃないんだ、勝手な事しやがって"

 ここで、レイクロックの決め台詞が炸裂する。"別会社は君たちの権利外だ。君達は店内で起こる事には干渉できるが、店の外と上とか下ではどうだ。君らの権限はドアと床までじゃないか、違うか"と。実に感動的なシーンですな。 

 これまで、兄弟は何かにつけ契約を持ち出し、レイの首根っこを抑えてきたんですが。流石に彼も切れ、"契約が何なんだ、そんなものは潰す為にある"と言い放つシーンも爽やかでアメリカならではです。

 そして、レイクロックは兄弟に宣戦布告するのです。


 時代の不況もハンバーガービジネスを後押し、大衆はカジュアルフードに傾く。1号店の開始から3年で25店舗をオープンし、出だしは上々。最初の店が軌道に乗るまで、丸1年掛かるんですが。

 レイクロックは、フランチャイズの拡張と共に、まずクルーの教育に力を入れます。彼らの教育と質とバランスこそが、品質と売上に直結すると彼は考えたんです。
 教育を受けてなくても、"考える事は何時でも何処でも出来る"と彼は諭します。こういう所は、日本人とは全く異なりますな。日本人は、”馬鹿なら体で覚えろ、意気に感じろ、精神力で勝負しろ、特攻精神だ、バンザイ攻撃だ”ですモン(笑)。未だにですよ。

 "クオリティ•サービス•クリーン&バリュー"のQSC&Vは、クルー達の合言葉となる。しかし、殆どの収益を、憎きマクドナルド兄弟に吸い上げられ、肝心の資金が無い。教育にも投資が必要なのだ。教育とは、口酸っぱく言って身に付くものでもない。専門のスタッフが必要なのですぞ。

 1956年、店舗クルーの若きフレッドターナーと出会います。溌剌な仕事振りに目を奪われ、23歳の青年に、マクドナルドの将来を感じたんです。
 彼には、営業及び、食材の確保と仕入れを一括してやらせた。才能はすぐさま火を噴いた。彼は先ずパンに注目した。切れ目を入れさせ、再利用可能な箱を考案し、流通全体に完璧な合理化を進めます。


 因みに、仕事をやり遂げる事を"ガスに火が付く"と、向うでは言うんですね。仕事ができない奴は"ガス漏れ"とバカにされます。

 メニューは僅か9種類と必要な材料も少なかったから、大量仕入れでコストも安く付いた。レイは、ゴミ箱を漁る事で、在庫や無駄を完璧に把握した。業者やクルーの誤魔化しは絶対に許さんのだ。まさに、"成功はゴミ箱の中に"ですね。


 フレッドとは、ディテールに拘るという点で非常にウマがあった。二人共、細部から全体像に取り組んだ。全体像を見つめ過ぎては、本質を見損なうのだ。このディテールこそがマクドナルドの心臓部である"食感とソース"を生み出し、この細部に拘った経営感覚こそが成功の鍵となる。



3 コメント

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Keep It Simple Stupid (tokotokoto)
2018-02-16 13:52:45
再びこんにちわ。

愚直な程にシンプルに。
いい言葉です。自分もこうありたいですが。
ハンバーガー屋を不動産にというハリーの発想にはとても感心しました。ユダヤ人てストイックだから、考える事も研ぎ澄まされてるんでしょうか。

レイクロックというよりも、ハリーの物語でもあるんですね。
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Re:Keep It Simple Stupid (lemonwater2017)
2018-02-16 18:22:22
もう、夕方なのでこんばんわです。

確かに、このレイクロック自伝には、自分の事以上に、お世話になった人や裏切った人が多く紹介されてます。

 結局、出会いや人で決まるんですよ。勿論、本人の努力や能力もですが、それ以上に。でなければ、アレ程の天文学的な繁殖はなかったでしょう。
 だから、バイブルというより、感謝状ですね。ただ、ハリーが辞めなかったら、どんな凄いビジネスになったろう。
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tokotokotoさん (lemonwater2017)
2018-02-16 18:32:57
あ、忘れてました。コメントうっかり消してしまって、スイマセンです。

 修正して、新しく置き換えたら、消えてました。うっかりしてスイマセンです。
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