先月20日以来の”マクドナルド”です。今回はソナボーンの勇退についてです。個人的には贔屓にしてた人物で、尊敬もしてたのでかなりショックです。
前回の”その14”では、ソナボーンの失墜と誤算についてでしたが。同じ時期の1966年、2人はハンバーガーの値段について決定的な仲違いをするんです。
クロックは、ソナボーンを追い出すタイミングを、ヒョウが獲物を狙う様に、辛抱強く狙ってたんです。クロックの動物的勘は殺気すら覚えますね。
価格論争______________
驚くべき事だが、ハンバーガー1個が僅か15㌣という”マクドナルド価格”は、この20年間変わらなかった。
ここで2人の意見が意外なのに驚きます。クロックはインフレに対抗すべく、18㌣に値上げしようとした。”今の品質なら客離れはない”と。
しかし、ソナボーンは反対する。”15㌣ハンバーガーはマクドナルドの目玉であり、上手く行ってるマーケティングの土台を修正するのは馬鹿げてる”と。
どう考えても2人の意見は逆な様にも思えますが。
結局この2人の対立は、重役会議に持ち込まれた。ソナボーンは1対1でケリをつけるべきだと主張したのに対し、クロックは重役会に持ち込むという失策?を犯す。というのも、現場専門のクロックには、役員の中に味方は殆どいなかったのだ。
そこで完璧主義者のソナボーンは、会議での会話を全てテープに取るよう命じた。この価格論争は全面戦争に発展し、社員は皆、2人の間が終局に近いのを悟った。
新しい重役______________
先述したが、クロックに味方は一人もいない様に思われた。そこで彼は顧問弁護士のドナルド・ルービンに会議の”行司役”を頼んだ。
しかし、ソナボーンはマクドナルドの公式の法律顧問にチャップマン社を抜擢し、ルービンを追い出していた。
”彼は私を追い出したいし、私は彼に出ていって欲しい。私と彼の間に入って、決着を付けてくれんか。つまりマクドナルドの新しい法律顧問になってくれないか”
しかし、クロックの心配は稀有に過ぎなかった。重役会は決してソナボーン支持者の集まりではなかった。あくまでソナボーンが取った安定成長路線の同調者だったに過ぎない。マクドナルドの驚異の飛躍を支えた資金的基盤はソナボーンが築いたが、マクドナルドを築いたのはクロックだった。
”彼の理想と哲学は健全なものだ。それは重役会でも支持され、クロックに反対するなんてとんでもない事だった”と、ソナボーンのブレーンとされてたスタルツは振り返る。
クロックは味方になってくれる重役を探し求めた。上述したルービンに加え、彼が推薦する映画館チェーンの元社長のウィラースタインを味方に付けた。
この若き32歳の敏腕法律家とショーマンシップを兼ねた起業家を新たな重役に迎え、幹部の間に新風を吹き込むと、ソナボーン色は次第に薄まっていった。
しかし、スタルツは2人の調停役を買って出る。ソナボーンの様な財務に明るい人財を失うのは間違いで、彼を失えばマクドナルドは窮地に陥る、と説いた。
”彼をCEOに任命したのも、君が会社経営に掛りきりになるのを嫌がったからだ。ソナボーンは有能なCEOである事を立証したではないか”
ソナボーンの退社__________
スタルツはしぶとくクロックを説得したが、彼に解ったのは、クロックに和解の意志が全くない事だった。
”もう来るとこまで来たんだ、彼には辞めてもらう”
”一体誰が後を継ぐんだい?”
”フレッド(ターナー)にやってもらう。あの男は切れ者だ、大丈夫”
実は、クロックとの対決をする前に勝負は付いてた。ソナボーンは何時でも辞めるつもりでいたのだ。
事実、1年前に持病を理由に辞表を出したが、その時クロックは聞き入れなかった。そして1年後、ソナボーンは再度辞表を出した。クロックは黙ってそれを受け入れた。
ソナボーンは辞表を出す事で、クロックの機先を制したのだ。既にマクドナルドの経営を続ける意志を、完全に失っていた。
”私は長居し過ぎた。やりたい事全てをやり尽くした。後は残りの日々を平穏に過ごしたいだけさ”
こうしてソナボーンは51歳でマクドナルドを去った。クロックとターナーは義理の親子となり(1967)、ソナボーンをターナーが引き継ぐ事は、誰の目にも明らかとなる。
若き帝王ターナーの誕生________
しかしこうなるまで、クロックは時間を掛けすぎた。2人の間に挟まり、嫌気が刺してたターナーは、辞める所まで追い詰められてた。若干35歳ではあったが、マクドナルドの中で彼の右に出る者はいなかった。彼は他の誰よりもマクドナルドを信じていた。
クロックがターナーを呼び出し、ソナボーンの辞職とその後任を告げると、ターナーの目には涙が溢れた。
”何故もっと早くソナボーンと対決してくれなかったんです?遅すぎますよ、何故もっと早く手が打てなかったんです!”
クロックは自らが長いこと押し殺してきた鬱積を、ターナーが代弁した事に驚いた。
”無理だったさ、こういう事は時間が解決してくれるもんだ”
最後に_______________
最後にはソナボーンも、ターナーに引き継ぐタイミングをいち早く考えてたんですね。一時はソナボーンも、クロックを追い出し、ターナーと2人なら、ファーストフードではなく、不動産で大成功できると踏んでたんでしょうか。
でもターナーはクロック同様に、ハンバーガー屋としてのマクドナルドを信じて疑わなかった。しかしソナボーンは、ターナーの考えが信念が変わるのを、ずっと待ってたんだと思います。
ターナーはソナボーン同様に、何度も会社を辞めようと追い詰められてたんです。ソナボーンがクロックと和解し、辞めてなかったら、ターナーが去ってた事でしょう。
しかし、それはクロックが絶対に許さなかった。クロックはターナーを自分の跡継ぎにする為、時間をたっぷり過ぎるほど掛け、ソナボーンを辞職に追い込んだんです。
ここら辺の2人の微妙な駆け引きは、殺気すら感じますが。全てはターナーの明日のマクドナルドの為だったんです。
そう考えると、ソナボーンの去り際はいいタイミングだったかもですが。不動産ビジネスならもっと大きな安定した成功を収めたんではと思うだけに、残念ではありますが。
でもターナーが、ハンバーガー屋に拘ったのは、不動産屋にはない”家庭的な温もり”を感じたからではないでしょうか。
クロックはターナーと出会った時からソナボーンを追い出すつもりだったんでしょうか。ターナーは若く純朴なソナボーンだったんですよ。
でも、ソナボーンはターナーを落とせなかったんです。あまりに人種が似かよってたから。一方クロックの動物的で野性的な熱い何かに強く惹かれたんだと思います。
今のマクドナルドを見るにつけ、ソナボーンの方が正解だったとつくづく思いますがね。
ソナボーンとターナーの師弟関係もいいとこ迄行ってた筈なんですが。クロックが一枚上だったんです。敢えてソナボーン側に送り、決裂を図ったんですね。ゆっくりと時間を掛けて。
”同じ考えの奴は会社に2人といらない”とのクロックの言葉通りになったんです。時がクロックをマクドナルドを成功させたとも言えます。