象が転んだ

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嫌な女〜真夜中の訪問者”その105”

2022年04月13日 03時11分46秒 | 真夜中の訪問者

 誰にでも、いやモテない男でも嫌な女の一人や二人はいるだろう。
 もし、その嫌な女が一度は本気で愛した女だとしたら?
 もし、その女が夢の中に現れたとしたら?アナタはどんな対応をするのだろうか?
 もし、紳士に振る舞える野郎がいたら、私はその男の顔を見たいもんだ。

 そういう私にも、そういう女が一人いる。
 今から思えば、どうでもいい女かもしれないが、どうでもいいと思う程にアメーバみたいに心にしつこく残るものでもある。

 夢の中で私は、ある披露宴に呼ばれていた。
 ごく普通の披露宴と思いきや、結構ハレンチな催しで、新婦の友人たちはその殆どが上半身が裸だった。
 ”今の若い娘って、とても大胆で開放的なんだ”と、思い知らされた。
 私には刺激が強すぎて(逆に不愉快になり)、すぐにその場を後にした。
 しかし、すぐに帰るのも芸がないので、近くを散策する事にした。
 すると、ある洒落れた白い教会が目につく。
 その教会の中はガラーンとしていて、誰もいなかった。
 一昔前なら、こじんまりとした教会で二人っきりで挙げるロマンチックな結婚式も流行ったろうが、現代人はそれすらも受け容れないのだろうか?
 ”冷めた若者たちだな”と、私は中央の広いホールへと向かった。


ウエディングドレスの女

 そこには、白いウェデイングドレスを着た女がいた。
 何処かで見たような女だったが、誰か花婿を待ってるのだろうかと、通り過ぎようとした瞬間、女が声を掛けた。
 ”私のこと覚えてる?”
 一瞬、私はキョトンとなった。 
 私を一度は”捨てた女”だった。
 女は私に近づき、意味深な事を囁く。
 ”貴方が今付き合ってる女はやめた方がいいわ。貴方には不釣り合いよ”
 私は少し不機嫌になる。
 ”アンタに言われる筋合いはないね。彼女はアンタよりもずっと美人だし、頭もいい。俺はアンタに捨てられて正解だったのさ”

 女は少し本気になったようだ。
 ”分かってないのね。彼女とは上手く行く筈もないわ。私が証明してみせる”
 女は純白のドレスを捲りあげ、顕になった太腿を私に前にさらけ出した。
 実を言うと、彼女が夢に出てきた事は何度かだがあった。しかし、私が彼女を追いかける展開ばかりで、彼女が迫ってくる事はなかった。
 しかし今回は全く違った。
 ”ひょっとしたら、彼女が私を必要としている”
 私はそう信じたかった。
 二人の間に漂う空気は、決して悪くはなかった。
 少し機嫌を取り戻した私は昔を思い出し、彼女の両股の間に手を伸ばす。既に濡れてる感触が、ジットリと指先から伝わってきた。
 ”やはり女は私に惚れてたのだ。でもなぜ俺から逃げたのだろうか?”
 私は女をじっと見つめ、冷静に彼女の反応を確かめようとした。

 しかしその時、夢の舞台が変わった。
 私は、ある図書館の受付カウンターにいた。
 すると、数人の若い女性が私を取り囲む様に集まってくる。
 ”貴男は迷ってるらしいけど、あの女はやめといた方がいいわ。今付き合ってる女性の方が出も育ちもいいし、それに貴方の事を心から愛してるし・・・”
 私は素直に首を垂れた。
 ”それは分かっている。でも一度は愛して、捨てられたんだ。簡単に諦める訳にもいかんのさ”
 女の一人は言い放つ。
 ”これは夢じゃないのよ。もっと現実を見なさいよ。貴男を捨てた女が寄りを戻すなんて事がある筈もないわ。少しは目を覚ましなさい”
 女の言う通りだった。
 私は不可能を追いかけてるだけだった。
 幻想を追いかけ、人生の全てを台無しにしようとしてたのだ。
 ”あれは単なる夢だったのだ。一度は逃げた女がウェディングドレスで出迎える筈がない。全ては悪夢だったのだ”


続・嫌な女

 図書館を飛び出した私は、嫌な過去と嫌な女を捨て去ろうと思った。
 そんな私の決意を見透かすかの様に、(目の前には)先ほど見た白い教会があるではないか。 
 悲しいかな私は、未だに過去に囚われている。
 ”ひょっとしたら、あの女が教会の中で私を待ってるかもしれない”
 私はあり得ない幻想に浸っていた。私は再び不可能を追いかける様になってたのだ。

 最初に見た時の教会とは少し雰囲気が違ってたが、教会には変わりはなかった。
 無意識にも私は、女を追いかけていた。
 ガラーンとした真っ白な空間の中に、ポツリと1つの影が存在した。
 ウェディングドレスの女が、そこにいるではないか・・・
 私を捨てた女だとしても、一度は本気で愛した女には変わりはない。
 私は再び本気になった。どうせ1度っきりの人生だ。”ブスに二度フラれるのも悪くはないさ”と開き直った。

 女は確かにブスだった。しかし、不思議な魅力のあるブスだった。私が惚れ込んだだけのある奇怪なブスだった。
 どう考えても、今付き合ってる女の方が全てにおいて上回ってる。

 女は、私を待ってたかの様に言い放つ。
 ”ずっとここで待ってたの。正直、あの女にくっついてると思ったわ”
 私は、必死で冷静さを取り戻そうとしていた。
 ”もうどうでもいいんだ。私は自分に忠実でいたい。ただそれだけなんだ”
 ”気がついたら、ここにいたってこと?”
 ”いや、君がどんな女であろうが、全ては過去の事さ。昔を根に思う気概もなくなったし、もうどうでもいいんだ”
 ”ホントは殺したいんでしょ?”
 ”殺そうと思えばあの時に殺せてた。でも、そんな気は最初からなかったし、所詮は勝機のないゲームだったのさ”
 ”随分と意気地なしになったのね”
 ”人生も恋愛も意気地がない位がちょうどいい。アンタだってそーだったろ?”

 女は(今度は)自分からドレスを捲くり上げる事はなかった。
 私は女のドレスを一方的に捲くり上げ(一気に止めを刺そうと)、パンツの中に強引に手を突っ込み、一気に犯してしまおうと企んだ。
 そう私は本気だったのだ。
 勝利は自分の掌に転げ落ちたかに思えた。が、その時、女は冷たく囁いた。
 ”今度のゲームも私の勝ちよね”
 女は黒い悪魔に変身し、大きな翼を広げ、私を嘲け笑うかのように飛び去っていく。
 私は、自分のバカさ加減に只々笑うしかなかった。

 私は教会を飛び出し、先程の図書館へ向かおうとした。が、その図書館は既に倒壊し、その残骸が私を睨みつけ、何かを語りかけてる様でもあった。
 ”なぜ、あの女を追いかけたのよ。全てがブチ壊しだわ”

 私が図書館の残骸をぼーっと眺めてると、ある雇われ作業員が声を掛ける。
 ”何モタモタしてんだぁ〜そこら辺に散らばってる遺体を片付けろよ”
 分厚いコンクリートの犠牲になった女たちの無残な遺体が、私の目に入った。
 何と彼女たちは、私を勇気づけてくれた図書館の女たちではないか。
 私が欲を出したばかりに、彼女たちは犠牲になったのだ。
 茫然自失に成り果てた私は、虚しさで頭の中が一杯になりそうだった。
 そして、夢から覚めた。


最後に〜間違った選択

 結構、夢にしてはとても長い夢だった。
 最後は悲劇で終わったが、自分らしいと思った。
 その場その場の瞬間の選択と判断が、その人の人生を大きく左右する。
 信じる事はバカでも出来る。しかし、信念を排除する事は誰にでも出来る事ではない。
 つまり、”思い込み”という幼稚で単純な信念は、人から思考を排除させ、人類を絶滅に向かわせる。

 私は夢の中ではあるが、明らかに間違った選択をした。一度っきりの人生だからと、自分の都合のいい方向を選択した。
 間違った選択が悪いのではなく、間違った選択がどんな深刻な結果をもたらすかを考えてなかった事が悪いのだ。
 第三者のアドバイスは客観的で忠実で、そしてとても苦いものある。
 一方で、一度は惚れ込んだ女の言葉は(それが明らかに詐欺や偽善であっても)、自分には最高に甘く濃密に感じるもんだ。

 夢の中で悪夢を見るのも変だが、こうした奇怪な夢を見続ける事で、若い時の苦い記憶や嫌な体験は脳内シュレッダーに掛けられ、記憶のゴミとして廃棄処分され、跡形もなく忘れ去るのだろうか。
 いやそれとも、放射性廃棄物みたいに焼却される事なく、心の奥深くで延々と独を撒き散らし、燻り続けるのだろうか。



2 コメント

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誘われる男 (hitman)
2022-04-13 11:45:28
続けてです

嫌な女というより
〈誘う女〉ですよねぇ
いきなりスカートを捲くり上げるのが転んだサンらしい〜(^^♪
〈誘われる男〉の本能と郷愁が丸出しでーす

最後の展開は
ウクライナの惨劇を見てるみたいで、複雑な気持ちになった
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hitmanさん (象が転んだ)
2022-04-13 18:18:46
言われる通り
郷愁を誘う女ですかね。
夢の中でもどうしても本能が出ちゃうんですよね(反省)。
でも、最後は自分の無力さに茫然自失みたいになってました。
「誘う女」のエンディングにしては、悪くはないのかな。
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