前回”その33”(要Click)では、親友で家庭医のダルデスの真相の激白が、マーロウを怯えさせました。
”ドレフェス医師がソレイマニ氏をCIAを利用して暗殺したというダルデスの言い分が本当だとしたら、ダルデスは確実に始末される”
そう思ったマーロウは、恩人のドレフェスを囲い込み、救おうと思いつく。
その上、次第にマーロウは、CIAだけでなくペンタンゴンも疑う様になっていた。
”これは単なる闇組織だけの問題じゃない。政府が知らない権力が知らない所で働いている筈だ。絶対にそうだ”
そう睨んだマーロウは、情報の確かな出何処を知りたかった。ペンタゴンと薬物業界との癒着の裏を抑えたかった。
かつて、関東軍上層部の岸信介とアヘンとの癒着が日中戦争に飛び火した様に、アヘンは戦時中でも金の成る木だったのだ。
その上、大衆をシャブ中にし、無能にしてくれる。それは今の時代も全く変わらない。
”ペンタゴンは、イランやイラクを薬物で農奴化させ、”戦わずして”支配下に収めるつもりなのか?アメリカ国民もシャブ中にして農奴化するつもりだろうか?
医療用大麻合法に起点を成す大麻合法化なんて、その典型じゃないか”
マーロウは考えるだけで嫌になってきた。人はここまで残酷になれるのかと、自分をも疑う様になっていた。
そこで、マーロウの旧友であり、元NSA職員だった転象を思い出した。日本でノホホンと暮らしてる彼が羨ましかった。
”嗚呼テンゾウは、汚れ仕事とはキレイさっぱり手を洗い、今頃は平和に暮らしてるだろうな。それに比べ俺は一体?”
そう思うと急に逢いたくなった。
あの時俺は、転象が弾き出した情報をすぐに信じてたら、兄を救えた。
あの時、俺は転象を信じきれなかった、いや日本人を信じきれなかった。そして迷った分、救出が遅れた。
”テンゾウは今でも俺を憎んでるだろうな”
そう思うと、居た堪れなくなった。
勇気を持って電話をすると、昔の転象のままだった。ドレフェス医師の事を覚えてくれてたので多少はホッとした。
マーロウの心は、すぐに5年前にタイムスリップしていた。
一方で、転象の心も西海岸に翔んでいた。
”いやぁ、ハッキリと覚えてるよ
あの時は、君の方も重症だったから
お兄さんは即死だったけど
君もそれに近かった
あの名医師がいなかったら
君も確実に死んでたよ”
マーロウは深刻な表情になった。
”実は、私の命を救ってくれた
そのドレフェス医師の事なんだが
かなりヤバイ事に
足を突っ込んでるみたいなんだ
イランのソレイマニが暗殺されたろ
その事件に大きく関わってるとの噂だ”
転象の表情が一瞬強張った。
”嘘だろ?そんな筈はないよ
だって、彼は西海岸イチの執刀医だぜ
地位も名誉も富もある医師が
何故、そんな事をする必要がある?
何かの間違いじゃないのか?”
マーロウは首を横に振る。
”それが本当らしいんだ
ただ、情報の裏が取れないで困ってる
友人はモサド(イスラエル情報機関)の
ある幹部から聞いた話だから
信憑性は低くはないと言ってるがね
どうもイマイチ腑に落ちないんだ
ところで確か君は、NSAでは
中東エリアが専門だったよな?
モサドが情報を握ってるとすれば
当然、CIAもNSAもその情報を知ってる筈だ”
転象は首を振る。
”モサドは英国との繋がりが強いから
MI6の方が近いかな、それにドイツも
ロシアも多少は感づいてるかも知れない
でも、CIAもNSAは
その情報を握ってるのだろうか?
実を言うと、中東の事情は複雑過ぎて
CIAもNSAもあまり関与したくはないんだ
本当いうと、ペンタゴンだって
中東の専門家は超毛嫌いするからね
それにNSAの請負の中でも
一番クビを切り易いのが中東部門なんだ
中東部門なんて
クズ肉の寄せ集めみたいなものさ”
マーロウは煙草を蒸す。
”という事は、Drドレフェスは
CIAとは繋がってないという事か?
今回ばかりは俺の推理が外れそうだな”
転像は窓を締め、ブラインドを下ろす。
”ドレフェス医師の故郷は
確か、シリアだったよね
本当はアメリカではなくシリアで
診療所を開きたかったんじゃないのかな
しかし、内紛続きのシリアでは危険過ぎて
アメリカに留まったという事かな
でも、シリアが民主化すれば
故郷で錦を飾る事も夢じゃない
その為には、現在混乱続きでロシア寄りの
アサド政権を倒す必要がある
医療というのは安定した国家の上で
初めて成り立つもんだからね”
”という事は、アサド政権を倒す為に
Dr.ドレフェスは単独で
アメリカと裏取引をしてるって事か?
でも、ドレフェスとソレイマニとの関係は
本当なんだろうか?だとすると
辻褄が合わなくなるんだがな”
転象は、電話回線を高度な暗号フィルタにかけるようマーロウに指示する。
”でも、イランの高級官僚や軍幹部たちを
シャブ漬けにし、内部からボロボロにし、
シリアの民主化を促進するという手もある
中東ではイランの存在が一番大きいから
アメリカにとってイランさえ潰せば
「中東の春」はすぐそこなんだよ
イラン革命軍こそが、中東テロの核だと
トランプは単純にみなしてるからね
ドレフェス医師が
ソレイマニと繋がってるというより
革命軍首領のソレイマニを潰したいが為に
何かに理由をつけて
近付きたかったんじゃないのかな
でも、我々が思う以上に
シリアって国はとても複雑なんだ”
マーロウは煙草を横に置いた。ブラインドを開け、外を眺めた。外からは怪しげな日差しが差し込んでくる。
”何だか嫌な事件に巻き込まれそうだな
最初は、メキシコ移民と闇組織の
複雑に絡み合った仕業かなと思ってたけど
こんな仕事を長く続けてるとな
疑う事をやめたくなるんだよ
顧客から報酬だけを受け取って
全ては闇のままに仕舞い込み
解決済みだとし、仕事を終えたくなるんだ”
転象は朝から酒を呑みたくなった。こういう話を聞いてると、スノーデンの失意を思い出すのだ。
”スノーデンも同じような事を言ってたね
でも、国家から正社員並みの報酬を貰い
国家を平気で裏切る様な事を仕出かす
エリートの道が目前に見えてたにも拘らず
アウトローの道へ突っ走った
アメリカを裏切りたければ
CIAのエリートになってから
裏切ればいいのにね”
マーロウは珍しく理屈っぽくなっていた。
”ブラックホールと同じだな
人間の良心や信念や倫理観が
巨大な権力の力で、全て歪んじゃうんだ
今俺は、その巨大で複雑な権力に
立ち向かおうとしてる
悪の外側で行われる悪に向かって
政治の外側で行われる政治に対して
俺は脚を踏み込もうとしている
そこでテンゾウに相談だが
君はフェイクニュース解読の
スペシャリストだったよな
どんなフェイクも見抜いてみせた
お陰で私は九死に一生を得た”
理屈じゃ、転象も負けてはいない。
”フェイクって言っても
基本は真相と真実がベースになる
全くの空想や幻想からは
フェイクはまず生まれない
複素関数と同じだよ
19世紀最高の数学者のリーマンは
多価関数を一価に置き換える事で
複素関数を一般化し、
現代数学の中に取り込んだんだ
複雑に難解に絡み合う歴史事情も
一価に置き換える事でフェイクを見抜き
真相を暴くんだ
故に、フェイクだけを見つめると
必ず大怪我をする”
”あはは、リーマン博士のお出ましだな
全く君も変わっちゃいない
お陰で安心したよ、情報解読の辣腕が
スッカリ錆びついてると思ってたな
これから先、私が送る情報を
逐次解読してほしいんだ
それなりの報酬は払うよ
ドル建てでよかったかな”
”ああ、円は当てにならんけんね
でも、昔を思い出すね
私が君が得た情報のフェイクを見抜き
その情報を元に君が動いた
色々と誤解や食い違いもあったが
様々な危機もそれで乗り越えられた
真相と真実は命を救うと教えられたよ”
マーロウは何とか落ち着きを取り戻した。
”テンゾウ!お陰で命拾いをしたよ
もし君がいなかったら、
俺はこの事務所を逃げ出してたな
探偵と言っても、色んな人の情けと協力で
何とか際どく成り立ってるもんさね
テンゾウ!君もその一人さ
今の俺があるのも君のおかげさ”
転象は少し恥ずかしく思った。
”逃げ出したのは私のほうさ
奴隷や機械みたいに働かされ
早出と残業で毎日がクタクタだった
病気で死ぬか?自殺するか?
組織を裏切って亡命するか?
俺は運のいいほうだよ
マーロウさんのお陰で命があるんだ
感謝するのはこっちの方さね”
マーロウは丁重にお礼をし、受話器を切った。外からの日差しが心地よく感じた。
”こんな風に感じるのは何年ぶりだろう”
そう思うと、死んだ様に眠りについた。
ようこそ、
我がホテルカリフォルニアへ
🎵ここは素敵な場所でしょ🎵
🎵ここは素敵な人達でしょ🎵
↘
「フェイクって言っても
基本は真相と真実がベースになる
全くの空想や幻想からは
フェイクはまず生まれない」
何だかピッタリと繋がるな
フェイクと複素数
リーマンとテンゾウ
スマホ画面のTENZOの
着信文字が実に憎い
これは単なるデマカセで書きました。
でも不思議と説得力はありますね。
マーロウとテンゾーで語呂はいいようで(^^)
コメント有難うです。
いつか出てくると思いきやです。
という事は転んだサンもこの事件に一枚絡んでくると言う事ですよね。最悪殺されるという危険性もあるという事ですよね。
マーロウにDrドレフュスにダルデスに、
ダーレムにカミーユにレオニーに
そして秘書のライリンと支配人の老マティウスと
先発メンバーはほぼ揃ったという事で
後はCIAの請負職員か?政府関係者が欲しいですね。
NSAの元請負のテンゾーにはあまり期待しない方がいいです(^o^)
それにドレフェス医師が加わるのか?
さあマーロウは最初にどう動く?
hitmanさんが言うように、CIAか政府関係者の協力が欲しいですね。
探偵と言っても情報が命ですからねぇ。