象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

普通に面白いドラマ〜「連続ドラマW・正体」(2022)

2024年08月27日 03時46分25秒 | 映画&ドラマ

 映画「逃亡者」のショートストーリー版だが、4話完結という事で”普通”に楽しめた。
 私が思うに、ドラマってもんはシンプルな展開で”普通”に楽しませてくれるものが理想だと思う。
 昨今の国産の薄っぺらなサスペンスや推理モノみたいに、フラグを目一杯広げ、最後は辻褄が合わないままに、不可解で中途半端な幕切れでドラマを終える。
 制作費と豪華なキャスト陣が無駄に帰すというケースも珍しくない。大衆の感心を惹こうとの気持ちも理解できなくはないが、欲も感情も度が過ぎると、全ての努力は泡と消える。

 ある夫婦が殺された殺人事件の容疑者として逮捕され、死刑を宣告された鏑木慶一(亀梨和也)が、移送中に刑務官の隙をつき脱獄する。テレビなどのマスコミでは鏑木の脱獄が大きく報じられ、警察が全力で行方を追うも、1年以上も死刑囚を捕まえられずにいた。
 事件の被害者夫婦の夫の母親である井尾由子(黒木瞳)は、事件のショックで若年性認知症を患い、そのトラウマを抱えながら介護施設で療養している。
 一方、鏑木は逃走しながらも潜伏する先々で名前や姿を変え、工事現場の作業員・野々村和也(市原隼人)やWEB編集者の安藤沙耶香(貫地谷しほり)、痴漢の冤罪被害に遭い、自殺も考えた弁護士・渡辺淳二(上川隆也)らと出会い、彼らを次々と窮地から救っていく。
 なぜ、鏑木は人々を救うのか?──野々村たちは鏑木が指名手配中の死刑囚だと気付いた時、”彼は本当に殺人犯なのか?”と疑問を抱き始める・・・

 このドラマの秀作なのは、優秀なキャスト陣がごく普通に演じてる所にある。が故に、現実には無理がある展開もそれが欠点となる事もなく、各俳優陣のごく自然な演技を安心して楽しむ自分がいる。
 死刑囚が身をくらまし、1年以上も逃亡するのだから、ハラハラドキドキ感がない訳でもない。だが、余分な感情移入がない分、余計な事を考えずにドラマに魅入ってしまう自分がいる。
 確かに、死刑囚が”顔出し”のまま困った人たちを次々と救える筈がない。巧みに変装したとしても、やがてはバレる。救われた側も死刑囚を警察に通報すれば、懸賞金300万を手に出来るのだから、現実には恩を仇で返しても不思議はない。


死刑は覆るのか?

 ネタバレになるが、展開を順を追って説明する。まず第1話では鏑木は名前を変え、土木作業員として働き、野々村の窮地を救う。第2話でも更に名を変え、中堅ディレクターの安藤とライター契約を結び、彼女は身寄りのない鏑木を自宅に住まわせる。
 妻子持ち男との不倫も破局した中年女には、男が死刑囚とは言え、孤独を癒やしてくれる心の支えだったのだ。
 一方、何とか最悪を逃れた鏑木だが、偶然にも出会った、痴漢の濡れ衣を着せられ、自殺を図った弁護士である渡辺の命を救い、彼の無罪を証明する記事を書いてほしいと安藤に申し出る。
 第3話では、メイクで変装し、被害者夫婦の叔母(井尾の妹)である笹原(若村麻由美)が勤めるパン屋工場で働くが、鏑木は彼女が入信するカルト宗教の信者になりすまし、笹原に接近して井尾の居場所を探ろうと試みる。
 実はこのカルト宗教だが、会員の詳しい個人情報を集め、高く売りつける事で運営されていた。鏑木は井尾が入居する介護施設の住所を入手するも、オレオレ詐欺に遭い困窮する笹原の友人・近野(高畑淳子)を救う為に、渡辺弁護士を紹介する。

 最後の第4話は、事件で殺害された夫婦の母井尾が療養する介護施設に鏑木は巧みに潜伏し、認知症に苦しむ彼女から何とか無実の証言を引き出そうとするも、肝心の記憶は曖昧なままだ。
 その内、逃亡犯である事がバれ、警察に居場所を突き止められ、行き場を失った鏑木は、同じ施設で働く坂井舞(堀田真由)を人質に取り、施設内に立てこもる。
 最初は鏑木に好意を持っていた坂井だったが、事件の真相を知り、動揺し困惑するも彼の無実を信じ、事件の唯一の目撃者である井尾から真実の証言を得る事に成功する。
 一方で、警察に追われ、部屋から飛び降りる際に頭を怪我し、昏睡状態に陥ってた鏑木だが、逮捕された後、意識が回復するも”無罪を証明するのは不可能だ”と自暴自棄に陥る。

 但し、その頃には鏑木が救った援軍ら(野々村、渡辺、近野、坂井)が彼の無罪をネットやメディアや講演会を通じて広め、外堀を埋めていたのだ。
 結局は、”鏑木死刑囚を真似て某家族を殺害した”と白状し、死刑が確定していた男が、井尾の息子夫婦を殺害した事も自供した為に、鏑木が無罪を勝ち取る所で幕を閉じる。

 登場人物も少なく、展開とロケーションもシンプルで、余計なフラグも余分な脚色もない。
 元ジャニタレの亀梨和也は好きな男優だが、ある種の存在感と微妙な質感が彼にはある。タレント上がりの俳優だから、演技はそこそこだが、パッと見で大衆を虜にする奇妙な力がある。
 最後は少し拍子抜けの感もあったが、見てて損はない良作である。 


普通に怖くないホラー映画〜「来る」(2018)

 結論から言えば、極々”普通に怖くない”ホラー映画だった。
 妻夫木聡、岡田准一に松たか子、黒木華に柴田理恵と、豪華メンバーが揃った123分のロングラン作品の割には、ホラーと言うよりアクション系の印象が強い。
 監督は奇才とか鬼才とか言われる中島哲也だが、ミステリーやホラーに関しては、ごく普通の監督に思えた。一方でアクション系に強い監督の印象が強く残った。

 社内では子煩悩で愛妻家で装う田原秀樹(妻夫木聡)の身に、ある日から怪異現象が勃発する。その怪異現象により家族や会社の同僚らにまで危害が及び、オカルトライターの野崎和浩(岡田准一)に現象の解明と除霊を依頼する。
 野崎は霊媒師の血を引くキャバ嬢?比嘉真琴(小松菜奈)らと共に調査に乗り出すが、そこで正体不明の訪問者と対峙する。
 だが、田原家に憑いてる“何か”は想像を超えて強力なものだと判明し、得体が掴めない霊的攻撃に死傷者が続出し、最後には真琴の姉で日本最強の霊媒師・琴子(松たか子)が動き出す・・・

 この作品の最大の欠点は、展開の稚拙さにある。田原夫妻の披露宴のシーンがダラダラと続き、前半からいきなり間延びする。黒木華が魅惑的ながらも献身的な妻を演じてただけに、残念な気がした。
 それに、田原家に取り憑く霊の存在も微妙で、見る方は”何がどう怖いの?”ってなる。更に、キャバ嬢の存在も曖昧で、小松菜奈の若いだけの薄っぺらな演技が私には癪に触った。
 だが、最強霊媒師を演じた松たか子の存在がなかったら、この作品は凡作に終わってたであろう。彼女が登場するだけで場の空気が変わり、怪奇ホラーっぽくなるから不思議である。

 岡田准一もそれなりに存在感を出してたが、妻夫木と被る所が少なくなく、お互いにやり難そうにも感じた。
 結論から言えば、岡田と妻夫木のどちらか1人に絞るべきだったし、曖昧模糊なキャバ嬢も不要で、霊媒師は松たか子1人で十分だった。

 数少ない救いに、黒木華の不倫相手とのベッドシーンがある。彼女の風貌は地味で気質も大人しそうだが、結構女としての色気がある。もっと乱れる展開を追加してほしかった。
 それに、マンションを丸々貸し切った”祓いの儀式”は五輪の開会式にも使える・・と思える程に、とても良く出来ていた。
 しかし、田原夫婦は途中で悪霊に殺され、後半は松たか子のワンマンショーと化し、”霊媒師vs悪霊”というありきたりな縮図に堕ちてしまう。


最後に〜ムラ社会の慣習の方がずっと怖い

 結局は、伝えたい要素が多すぎて、監督自ら沈没するという典型だが、日本のミステリーにはこういう致命的失態が多すぎる。
 雑多なフラグを散りばめ過ぎるから、登場人物も無駄に多く、設定も複雑に展開もややこしくなる。つまり、脚本の段階でアウトなのだが、誰もそれを指摘しない。
 言い換えれば、監督に製作の権限を与えすぎなのだ。勿論、監督に資質があれば問題はないのだがが、それに気づかないのも大きな問題ではある。

 ただ、この作品は「来る」の恐怖よりも、映画上での登場する人間模様の方が恐怖に映る。
 例えば、田舎の法事での歪な親戚付き合いや、披露宴や打ち上げでの友人や仕事仲間との微妙な折り合い、父親会でのわざとらしい振る舞いなど、不可解で奇妙な日本の慣習の方がより恐く感じてしまう。

 確かに、こうした光景は私の田舎でもよく目にするが、やってる事はムラ社会の隣組の寄り事とほぼ同じである。
 今から思うと、こうした伝統ある慣習が如何に恐ろしいものかを教えてくれる。結局、島国の農耕族は伝統行事という慣習の呪いに縛られ、人生を終えるのだろう。
 そう思うだけで、私の背筋は凍りつくのである。  

 


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