象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

皆既日食とアインシュタイン〜アインシュタイン”Episode8”

2022年11月09日 05時10分58秒 | 数学のお話

 「アインシュタインEp5」でも少し詳しく書きましたが、皆既日食はアインシュタインの一般相対性理論を証明するのに使われました。
 一般相対論では、太陽の様なとても大きな質量の近くを通過する光は重力の影響を受け、 経路が曲げられます。故に、太陽の近くの恒星の位置がずれて見える筈だと天文学者らは考えた。が、太陽は眩しすぎて近くの恒星を観察する事が出来ないので、太陽が隠される皆既日食が利用されました。
 一般相対論とは、自然界の空間・時間・質量と運動の関係を(リーマン多様体を基とした)計量テンソルを使い、時空を4次元空間として見れば、重力による空間(多様体)の歪みを方程式として記述した力学の法則です。因みに私は、一般相対論じゃなく、アインシュタイン(のテンソル)方程式と呼ぶのが好きですね。ここは少し訂正です。
 このアインシュタインの相対性理論が登場するまでは、17世紀終盤にニュートン(英)により体系化された”ニュートン力学”が完全な法則とされてました。現代でも日常の殆どの力学的な運動は、ニュートン力学で記述できます。
 しかし19世紀終り頃になると、光の速さが実験的に求められ、結果、”光速は変わらない”事が発見されました。
 例えば、飛ぶ鳥を観察する時、立ち止まっている人と車に乗っている人では鳥の飛ぶ速度は違って見える。しかし、なぜか?光速は変わらない。 これはニュートン力学では説明できない為に、実験などでその理由が求められていた。
 ここでもアインシュタインは、”真空中の光速は一定である”事こそが自然界の原理であるとして、(実験ではなく)数学的記述を使って新しい力学、つまり特殊相対性理論(1905)を組み立てます。更には、特殊相対理論を拡張し、一般相対性理論(1916) を発表した。
 これらの理論は、(絶対的な座標や質量ではなく)観測者の運動によって”相対的”である事を原理としてる為、この名称があると。

 一般相対性理論では、常識からかけ離れた結論が導かれる為、発表された当時は理論に対する懐疑的な見方も根強く、”ニュートン力学を否定するものだ”と大きな誤解も受けました。
 しかし、”リンゴが真っ直ぐ落ちる”のがニュートン力学とするのなら、アインシュタインの力学は”リンゴが歪んで落ちる”。つまり、ニュートン力学の完成版が一般相対論だったんですね。私的な表現を使えば、”歪みをも含めた力学”と呼べましょうか。
 以降、実験や観測による一般相対論の裏付けを重ねる必要があり、これらの実験の1つとして注目されたのが皆既日食でした。
 つまり、一般相対性理論から予測される空間の歪みはとても小さく、非常に大きな質量を持つ物質でないとその効果は目に見えない。故に、太陽の近くに見える恒星の位置を測定する事で一般相対論の検証を試みようとします。が、太陽は眩しすぎて近くの恒星を観測出来ない。そこで、太陽の近傍の恒星を観測できる皆既日食が利用されました。

 一般相対論が発表された1916年から僅か3年後に観測チームがブラジルとギニアに派遣され、そこで得られた結果は、アインシュタイン方程式を支持するものとして発表された。
 以上、「皆既日食と相対性理論」を参考にしました。

 因みに私は、望遠鏡など持ってないから皆既日食と言ってもピンと来ないが、もし皆既日食がなかったらアインシュタインのその後は?
 という事で、今夜はアインシュタインと皆既日食に乾杯!


補足

 寄せられたコメントを一部参考にして、ニュートンとアインシュタインの重力場の方程式による係数比較の補足をしたいと思います。
 重力場とは、時空連続体の歪みであり、時空を4次元空間として見れば、重力場の(歪みを記述する)計量テンソルで定義する4次元のリーマン多様体として扱えます。
 一方で、質量が時空間を歪ませる事で重力が生じると考えれば、大質量の周囲の時空間は歪んでいる為、光は直進せずに光の進路が曲がる。つまり、光のとる測地線での距離(計量)が伸びる事から、計量が正(非負)になり、多様体上の各点に計量テンソルが与えられます。
 このリーマン多様体上で定義されるテンソルですが、上下に現れる同じ添字については常に和を取るとする縮約記法を用いると、少しですがややこし計算が楽になります。

 平ペッたく言えば、アインシュタインの重力場方程式を、歪みがゼロとした時のニュートンの重力場方程式との係数を比較する事で、kが導き出せます。
 まずニュートンの方程式は、空間中の密度ρの質量が重力場φを生み出すとすれば、微小増加を表すデルタ記号Δを用いて、Δ²φ=4πGρで表せます(但し、Gはニュートン重力係数)。
 一方で、アインシュタインの方程式はGᵤᵥ=kTᵤᵥで表せますから、両者の係数を比較すれば、k=8πG/C⁴を見つけだせる。
 と言いたいのですが、ここからが少し大変でして・・・

 アインシュタインは、”重力場=物質の配置や状態”を表す等式を計量テンソルで表現しようとしました。
 例えば、星の様な物質のエネルギーを右辺に代入すれば、その物質の周りの時空がどんな風に曲がってるかを数字(計量)で読みとる事が出来ます。故に、重力による時空間の歪みが決まれば、その空間中を運動する物質の運動方程式(測地線方程式)が決まるので、物質分布も変動する。
 つまり、測地線方程式では計量テンソルが重力(場)に大きく関わるから、アインシュタインはRᵤᵥ−gᵤᵥR/2という計量の式を編み出し、重力場を求めようとします。
 因みに、Gᵤᵥはアインシュタイン・テンソルとも呼ばれ、Gᵤᵥ=Rᵤᵥ−gᵤᵥR/2と書けます。
 これは、リッチテンソル(Rᵤᵥ)、計量テンソル(gᵤᵥ)、スカラー曲率(定数=R)が混在する等式ですが、(測地線の微分方程式を表す)クリストッフェル記号を用いて解く必要がある。
 こうした難解な等式を奇跡的に考え付いたアインシュタインですが、(彼は数学者ではないから)相当に苦労したらしい。
 この等式の両辺は、4次元2階の対称テンソルの形で書かれます。故に、アインシュタイン方程式は重力場をテンソルの形で表現する為に、その成分毎の各要素は連立偏微分方程式を1つ1つ解いて導く必要がある。

 そこでアインシュタインは、”(重力場=)物質の配置や状態がエネルギー・運動量テンソル(Tᵤᵥ)と定義できる”事から、比例係数kを用いて宇宙の方程式をGᵤᵥ=kTᵤᵥと予想しました。
 一度はテンソル計算の大きな壁にぶつかり、頓挫したアインシュタインですが(機転を利かし)、歪みがゼロのニュートンの重力場を考えます。
 そこで、gᵤᵥGᵤᵥ=−RとGᵤᵥ=kTᵤᵥ⇔Rᵤᵥ=k(Tᵤᵥ−gᵤᵥT)の2つ公式を使ってkを求めるんですが。
 上の公式を使った測地線方程式の近似からR₀₀=kρC²が、曲率テンソルの偏微分方程式の近似計算からR₀₀=∇²φ/C²が導けます。
 厳密には、曲率テンソルのR₀₀は上の添字がvで下の添字が0v0となるけど、縮約記法によりR₀₀としても構わない。
 故に、R₀₀=kρC²=Δ²φ/C²からΔ²φ=kρC⁴/2となり、ニュートンの重力場方程式と比較すれば、めでたくk=8πG/C⁴が導けます。
 一部、「アインシュタインの重力方程式」を参考にしました。途中のややこしいテンソルの計算は思い切り飛ばしましたが(悲)、大まかな流れとしてはこんなモンですかね。
 こうして、ガウスの曲率からリーマン多様体を経て、測地線方程式(運動方程式)をテンソルを駆使して一般相対論に結びつけたアインシュタインの天才は、見事という他ないですね。
 そもそも、一般相対論とはリーマン幾何学を土台として構築された重力場の理論であり、一般相対論は測地線方程式と重力場の方程式の帰結となってます。つまり、時間と空間を結びつけたこの理論では、ニュートンの万有引力で説明された現象が、時空連続体(4次元空間)の歪みとしても説明出来る。

 元々、一般相対論自体に関しては興味すらなかったんですが、アインシュタインという天才と人物を語る上で、最高のドラマを演じてくれたものだと今更ながら感心します。



13 コメント

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数学的記述 (UNICORN)
2022-11-09 10:47:12
アインシュタインの凄いところは
実験で得られた力学の法則を数学で表現した稀有の物理学者だったという事。
当時のヨーロッパでは実験物理学が主流でとても人気が高かったとされる。

かのガウスも磁気通信の研究、今で言うモーリス信号通信にのめり込んでたという。
でも、皆既日食と言って月見団子じゃなくアインシュタインを思い浮かべる転んださんは根っからの理系人種ですね。
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UNICORNさん (象が転んだ)
2022-11-09 12:46:05
モールス信号で思い出したんですが

ガウスは、親友で物理学者のウエーバとの連絡用に、ゲッチンゲン大学と天文台との間に電磁式電信機を作った(1833年)とあります。
これは僅か1kmしか離れてない場所でしたが、針の振れを利用したアナログ通信でした。

他には、ヘルツ(1857年)やベル(1876年)が電子通信に携わってたとされますが、モールス(1791-1872)がなぜ電信を発明したかと言えば、亡くなった妻との連絡を取れなかったのを悔やんだ為だという逸話もありますね。

ガウスと言えばモールス信号を思い出すUNICORNさんも、根っからの理系男ですよね。
コメントとても勉強になります。
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象が転んだ様へ。 (りくすけ)
2022-11-09 16:39:14
お邪魔します。

僕は、自他ともに認める
数学的思考素地が欠如した文系脳です。
ですが、今投稿は実に分かりやすく、
面白く拝読しました。
ありがとうございました。

では、また。
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追伸 (りくすけ)
2022-11-09 17:00:15
コメント度々になり失礼します。

今投稿タイトルがいいですね。
「皆既日食とアインシュタイン」
この関係を知らない者にとっては、
どんなつながりがあるのか、
興味を惹かれました。

お見事です。
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りくすけサン (象が転んだ)
2022-11-09 20:56:46
いえいえ、謙遜なさらずにです。

実は、文系出身の数学者もかなりいますよ。
ガウスやアーベル、ガロアやコーシーら、ヨーロッパの黄金時代の数学界を牽引してきた超の付く第一級の数学者たちはみな、小説マニアでもあるんですね。
因みに、革命王ゲバラも数学と古典文学の二刀流でした。

小説家が数学者になる時代がすぐそこまで来てる様な気がします。
そういう私も、バルザックやゾラの小説を読む様になってから、数学に目覚めたような気がします。

コメント有り難うございます。
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一般相対論について (バク)
2022-11-10 04:37:58
お邪魔します。
>アインシュタイン(のテンソル)方程式と呼ぶのが好き…

私は通常(テンソルを使った)の一般相対論を「後期一般相対論」と呼んでいます。Einsteinが光の湾曲について発表した時の計算したはテンソルを使わず求めています。私はこれを「前期一般相対論」と呼んでいます。
通常の方法だとかなり計算が煩雑になりますが、前期なら桁違いに簡単です。高校物理のの範囲で計算できます。私はこれを発展させて、素粒子論の組み立てを考えています。
ただ、電磁場の基本方程式(Maxwell方程式)と重力場の対応付けを行うには通常理論を用いる必要があります。
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パクさん (象が転んだ)
2022-11-10 10:56:48
確かアインシュタインは
縮約した(リッチ)テンソルを1つ1つ計算して求めようとして頓挫したんですよね。
そこで異常なまでの複雑な計算を回避し、一般相対論を導き出すんですが。ニュートン力学の方程式と係数を比較する事で、アインシュタイン方程式の係数が求まった(らしい)と聞いてます。

ここら辺がアインシュタインの天才的な所で、ただ、曲率テンソルという基本概念がなかったら、アインシュタインのこのトリック的なアイデアも生まれなかったでしょうね。

コメントとても勉強になります。
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リーマン多様体と一般相対論 (paulkuroneko)
2022-11-10 21:02:31
どうでもいい補足ですが

厳密には、時空連続体(重力場)の歪みであり、言われる通り、時空を4次元空間として見れば、時空は重力場の(歪みを記述する)計量テンソルとする4次元のリーマン多様体として扱えます。

一方で、質量が時空間を歪ませる事で重力が生じると考えれば、大質量の周囲の時空間は歪んでいる為、光は直進せずに光の進路が曲がる事で、光のとる測地線での距離(計量)が伸びる事から、計量が正(非負)になり、多様体上の各点に計量テンソルが与えられます。
このリーマン多様体上で定義されるテンソルですが、上下に現れる同じ添字については常に和を取るとする、転んだサンが言うアインシュタインの縮約記法を用いるんですよね。

時空の歪みはリーマン曲率テンソルで記述され、リーマンテンソルを縮約したリッチテンソルとスカラー曲率を考えるだけでよく、それらを組み合わせたのがアインシュタイン方程式(重力場の方程式)、つまりアインシュタインテンソルです。
1916年の一般相対論の発表時点では、宇宙項がなく単にGᵤᵥ=kTᵤᵥというシンプルな式で、当時は信じられていた静止宇宙モデルとして考えれば、ニュートン方程式と比較する事で、k=8πG/C⁴を見つけ出す事が可能になります。

空間の歪みが決まれば、その空間中の物質の運動方程式(測地線方程式)が決まります。
こうして、ガウスの曲率からリーマン多様体を経て、測地線方程式をテンソルを駆使して一般相対論に結びつけたアインシュタインの天才は、見事という他ないですね。 
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paulさん (象が転んだ)
2022-11-11 11:26:27
その1年後には宇宙項を追加したアインシュタインですが、頑なに宇宙静止モデルを信じてたみたいで・・・
後に、ハッブルが宇宙が膨張してるのを発見した時、”人生最大の過ち”と言い放ったのは有名ですね。

そもそも、一般相対論とはリーマン幾何学を土台として構築された重力場の理論であり、物理学者のランダウ(露)は一般相対論について、現存する物理学の理論の中で最も美しい理論だと述べてます。
言われる通り、一般相対論は測地線方程式と重力場の方程式の帰結となってますが、時間と空間を結びつけたこの理論では、ニュートンの万有引力で説明された現象が、時空連続体(4次元空間)の歪みとして説明出来る。

数学は美しいとされますが、その数学を土台として組み立てたアインシュタインの方程式こそが最も美しい物理学の理論なんですよ。

コメント、早速補足させて頂きます(多分)。
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続き (バク)
2022-11-12 02:41:42
Einsteinがテンソルを採用した一つの理由はヒルベルトの存在です。ヒルベルトは前期一般相対論を見て、場の方程式の組み立てを始めたので、急いだのだと思われます。前期理論では場の方程式の組み立てが困難であることとMaxwell方程式との関連性からです。電磁場は般座標変換に対して不変であるからです。それで間に合ったのですが、正準理論では先取権を争っています。
実際、Einsteinの重力場の方程式は電磁場が2階のテンソルで表現されることから曲率テンソルを縮約して2階にして、Newton近似でPoissonの方程式になるようにしたもので、数学的に良いかもしれませんが、物理的には不満が残ります。
それもあって、現代物理学では一般相対論は軽く見られ、ゲージ理論や超弦理論が幅をきかせています。しかし例えばゲージ理論で一般相対論を含んだ理論(内山ゲージ、Yang-Mills理論)ができます。しかし完全でなく、例えば電磁場による時空の振動解(Vaidya解)を示す事ができません。重力場の量子化がうまくいかない問題はここにあると考えています。時空振動は正に重力波であり、電磁波とつながっていると考えるのは自然だと思われます。
実際、測地線の方程式から重力場のMaxwell方程式を導けます。残念なことに前期理論ではこれを導くのは困難です。
ところで、Newtonのバケツ問題はご存じでしょうか?これは絶対時空の根拠をNewtonが示した者です。これをEinsteinの重力場の方程式を使って計算すると、ガリレイ変換が出てきて、Newtonの絶対時空観を支持します。
一方、電子が加速して電磁波を放出するのですが、Maxwell方程式を土台にした計算結果はNewtonの絶対時空観のものになります(発散します)。つまりNewtonの絶対時空観は生き残っているのです。実際、電磁放射の式は、複素積分が入ってきて、結構面倒です(使わなくても可能)。しかしこれもNewton観のクーロンの法則を一般座標変換の式に書き直すだけですぐに導出できます。Newtonの時空観は確実に生き残っているのです。
哲学・数学系の研究者は相対論=光速不変があれば十分と考えているようですし、「相対論は間違っている」も光速不変を問題視していますが、誤解を恐れずに言えば、どうでも良いことです。そもそも一般相対論では破られますし、ゲージ理論で相互作用を伴う瞬間は破れています。光速不変は結合定数が一定と言い直すべきです。
物理学は一旦数学から離れるべきでしょう。
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