ABC予想とフェルマーの定理の蜜な関係は、”フェルマーの定理に挑戦”でも述べましたが。今日は、”もう1つのABC予想”とリーマン予想との関係について簡単に述べたいと思います。
以下、寄せられたコメント群を元に編集しました。
ABC予想の多項式バージョン
”ABC予想が証明された(前半)”でも触れたんですが。
整数aを素因数分解した時に現れる素数を冪を無視し掛け合わせたものをrad(a)と書く。判り易く言えば、a,b,cの素因子の積をrad(abc)とすると、3つの整数a,b,cに対しa+b=cが成り立つ時、a,b,cの絶対値はいずれもrad(abc)のある冪乗の一定数倍で抑えられるというのが「ABC予想」です。
一方で、多項式についても同様な「ABC予想」を考えると、冪指数も係数も不要なとてもシンプルな不等式が成立します。
多項式は複素数の範囲で考えると、常に1次式の積に分解されます。これを素因数分解と同様に考えれば、前述の”rad”が多項式上でも定義されます。
つまり多項式の場合は、n次多項式とm次多項式の和の次数は、nとmの大きい方を超える事はないので、話は極めて単純になります。
他方、整数の場合は和をとると、その素因数分解は全く違ったものになり、大変ややこしくなります。
故に多項式に置き換えると、証明の見通しが良くなり、高校数学のレベルでも「フェルマーの定理」の多項式バージョンを証明できました(”フェルマーの定理に挑戦”参照)。
これは後に言う、関数体版(有限体及び複素数体上の素な多項式バージョン)で、Rリュービルが1879年に証明してます。その後、素数版の最終定理はワイルズ&テイラーにより、1995年に証明されました。
「ABC予想」でも楕円曲線という複素数の多項式に変換すれば、証明の見通しがずっと明るくなるとされます。
当然、変換する時の復元の誤差が面倒ですが、望月教授はフロベニオイド理論(変換)を新たに提唱する事で、その誤差を少なくしようとした様に思えます。
故に一旦、整数論(素数版)を幾何に変換してしまえば、ABC予想の矛盾を(多項式から導き出される)不等式の形で引き出せる筈です。
結局、一番のネックはこの幾何学への変換理論なんでしょうが。
勿論、このABC予想も関数体版(有限体及び複素数体上の素な多項式バージョン)の証明は、W•W•ストーサーズ(1981)とR•C•マンソン(1984)によってなされました。”望月教授とタイヒミュラー理論”も参考です。
もう1つのABC予想
このABC予想には2つ?あり、1つは("強い"予想と呼ばれる)rad(abc)の冪乗の一定数倍を2と仮定した、max(|a|,|b|,|c|)<rad(abc)²ー①です。
これが成立すれば、フェルマーの最終定理が、ワイルズ(1995)の100頁にも及ぶ証明が、僅か数行で証明されるとされます。
しかし、事はそう単純じゃない。
もう一つは、望月教授のABC予想で、max(|a|,|b|,|c|)<k(ε)rad(abc)¹⁺ᵋー②。因みに、k(ε)はある正の数です。
本当はε=0としたいんですが、”max(|a|,|b|,|c|)<rad(abc)”は反例が無限個あり、不成立なのでε>0となります。
仮に、望月氏の「ABC予想②」が証明されたとしても、「ABC予想①」が証明された事にはならないとされる。
というのも、①が成立する為には、ε=1、つまりk(1)=1が成立する必要があるからです。
しかし、望月氏は当初(2012年)これを示していませんでした。そこでこれを示す為に、IUT理論(宇宙際タイヒミュラー理論)という難解なタイヒミュラー変換理論を必要としたんですね。
ABC予想とリーマン予想
黒川重信教授は、「ABC予想」とは、a+b=cを満たす互いに素な自然数a,b,cに対し、cをrad(abc)により”上から抑える不等式を導く予想”だと語る。”数論では困難なものも、関数体(有限体や複素数体)上では困難を伴う事なく証明できる”とも語る。
上述した様に、「フェルマーの定理」は関数体版(有限体及び複素数体上の素な多項式)の証明(Rリュービル、1879)の後に、素数版の最終定理(ワイルズ&テイラー、1995)が証明されました。
そして、「ABC予想」も関数体版(有限体及び複素数体上の素な多項式)の証明は1980年代になされましたが、素数版は望月教授の手に掛ってます(証明は多分大丈夫かな)。
同じ様に「リーマン予想」も、関数体版(有限体上の素な多項式)の証明はドリーニュ(1974)によって、複素数体上の素な多項式での証明はセルバーグ(1952)によってなされました。残すは素数版のみです。
因みに、アーベルが楕円関数の一般式のモジュールを虚数にしたのは計算の見通しをよくする為でした。
リーマンがリーマン予想において、完全対称のゼータであるクシー関数を新たに定義したのも証明の見通しをよくする為でした。
望月教授がABC予想において、整数論を幾何学に変換し、群論を経由し、多項式(楕円関数)に置き換えたのも殆ど同じような理由からです。
しかし、リーマン予想も望月氏のIUT理論も数学の領域を超えてるとさえ言われてます。
この超越理論を世界の数学者がどう評価するのか見ものです。
英国とドイツは結構、アラ探ししてるみたいですが、どうなることやらですね。
素数論→オイラー積(=ゼータ関数)
→リーマン予想と一気に突き抜けた
でもABC予想の場合
数論から幾何学への変換の際には
ハードルが超高過ぎるんだよな
IUT理論の肝は、楕円曲線や保型形式やモジュライ空間の深い知識と理解が必要みたいですね。
貴重なコメントどうも有難うございます。
L関数の拡張版としてはラマヌジャン予想があるが、このラマヌジャン級数は第二のオイラー積というもので、フェルマー予想の証明はこのラマヌジャン予想の存在が大きいとされる。
結果、フェルマー予想もリーマン予想もABC予想もラマヌジャン繋がりというのもユニークだね。
難題の証明というのは、その中に含まれる様々な要素を細分化しその1つ1つを解いていく気の遠くなるような作業なんだけど、その過程で別問題に発展する。
黒川先生はパフェがいきなりカツ丼になるようなものだって笑われるが。
このABC予想もいきなり宇宙際理論に拡張するんだから手に負えない。でも数学者というのはそういう事すら楽しめるんだろか。
腹打てさんのコメも参考にしました。これからも宜しくです。
因みに、paulさんのコメもとても参考になりました。これからも貴重な補足宜しくです。
何しろ当時は積分という言葉すらなく、超越関数と呼ばれてたんだから。
アーベル関数もリーマン予想と宇宙際タイヒミュラー理論と同様に超越論そのものだ。
ABC予想の魅力的な所はこれからフェルマー予想やモーデル予想等の数論の大予想を導くことができる点です。
但し、ネックになるのがk(ε)の明白な定義です。関数体版の証明では、べき乗やk(ε)は無視出来るので楽なんですが。