てっきりフランスの名作映画だと思って見とれていた。
全ての登場人物が渋く洗練されてて、とてもカッコよく映ったからだ。それにシナリオも綿密に深く造り込まれていた。
この映画は、2009年にアルゼンチンで制作されたミステリー系人間ドラマ(英題はThe Secret in Their Eyes)で、第82回アカデミー賞外国語映画賞を受賞した。因みに、監督はフアン・ホセ・カンパネラである。
連邦刑事裁判所を定年退職したベンハミン(リカルド・ダリン)は、25年前に起きたある悲惨な事件を描いた小説を執筆する。
それは新婚の美しい女性が自宅で暴行殺害された事件で、ベンハミンが同僚のパブロや上司のイレーネ(ソレダ・ビジャミル)と共に、苦労の末に真犯人を逮捕した、忘れられない苦い記憶でもあった。
事件は解決したかに見えたが、その後不可解な経緯を辿り、事件の真相を暴いていく中で、もう一つの真実が明らかになる。
気分が落ち込んでる時に観る映画でもなかったが、見てるうちにズンズンとその深遠な謎に引き込まれていく。まるで芸術作品を眺めてる様な充足感に満たされた。
確かに、殺された女教師は美人すぎるし、判事補のイレーネは魅惑的すぎる。そうしたワザとらしい部分もあったが、とてもよく纏まっていたと思う。
正義か?復讐か?
麗しい若妻リリアナを殺されたエリート銀行家のモラレスはポーカーフェイスを装うも、”検察が正義を行えないなら、私が終身刑にしてやる”と、静かなる復讐を涼し気な瞳の中に誓う。
事実、ベンハミンは上司や判事らと衝突しながらも、同僚のパブロと共に多少は逸脱したやり方で犯人のゴメスを捕まえ、自供させ、一度は逮捕する事に成功する。
しかし事もあろうに、(ノンキャリア組の手柄を嫌う)判事は単純な司法取引により真犯人のゴメスを釈放した挙げ句、”悪人はもっと巨大な悪を追及するのに使える”と、何と殺人犯を政府要人の警護職に就かせ、自らも何ら罪の意識はない。
ここら辺の展開は少し無理があるが、ベンハミンの屈辱とモラレスの復讐心を煮え滾ぎらせるには十分すぎた。
ノンキャリア組典型の叩き上げ調査官で、正義に燃える熱血漢のベンハミンには絶対に許せる事ではなかった。
そのベンハミンを寄り添う様に援護するエリート判事補のイレーネの瞳とその佇まいも、実に魅惑的で美しく映る。
しかし、これまでは単なる序曲に過ぎない。本当の物語は、調査官を退職したベンハミンが小説を書き始める所から始まる。
というのも、ベンハミンは若妻をレイプされた挙げ句に殺された悲しい男モラレスの瞳の奥に、”不可解な”何かを感じ取っていたのだ。
この老いたエリート男は”25年も前の事で、もう済んだ事だ”と、覚めた顔で言い放つ。
しかしベンハミンは、”愛した女をそんな簡単に忘れ去る事が出来るのか?”と問い詰める。
事実ベンハミンも、既に結婚し2人の子供に恵まれてるイレーネを今でもずっと想い続けていたのだ。
以降、過去の歪で奇怪な現実が折り重なる様にして、小説が映像化されていく展開はとても心憎く映る。
別れと再会
検察の違法なやり方に失望し怒り狂い、酔っ払って警察沙汰を引き起こした(同僚の)パブロは、運悪くベンハミンと間違えられ、ゴメスの部下の殺し屋に無残な形で射殺される。
危険を察知したイレーネは、ベンハミンをブエノスアイレスから安全なフフイへ転属させる。二人はお互いへの想いを胸に秘めたまま、別れの挨拶を交わす。
後に、ベンハミンは原稿をイレーネに見せるが、彼の本心を小説の中で知ったイレーネは、”25年前に何故、想いを打ち明けなかったの?意気地なし”とベンハミンを問い詰めるも、”でも過去には戻れないわ、私には家族がいるのよ”と素っ気ない。
しかし、過去を振り切れないベンハミンは再びゴメスを追い始め、イレーネの協力の元、モラレスとゴメスの転居先を突き止める。
そこでベンハミンは、田舎町で暮らすモラレスに会い、小説の原稿を見せる。
モラレスは”辛い過去は忘れた”と話すが、ベンハミンは彼の瞳の奥に、リリアナへの愛を捨て切れないでいる事を確信していた。
ベンハミンの同僚パブロの死を知り、事の深遠さを理解したモラレスは、”復讐の為にゴメスを誘拐し自分で射殺した”と嘘の告白をする。
モラレスがゴメスを殺すだけで納得するとはどうも信じ難いと感じたベンハミンは、モラレスの家へ引き返した。すると、何とそこには、牢屋に繋がれている老いたゴメスが項垂れているではないか。
モラレスはゴメスを拉致して監禁し、”一度も言葉を交わせさない”という苦痛を与えながら生かし続けてきた。つまりモラレスは、自身でゴメスに”終身刑を下した”のだ。
ブエノスアイレスに戻ったベンハミンは小説を書き上げ、裁判所へ向かい、今度こそイレーネに想いを告げる。
”今度こそ本気なのね、でもこれからが大変よ”と、彼女の済んだ瞳は深い何かをベンハミンに訴えていた。
最後に〜瞳は全てを物語る
小説家が犯人を追い詰めるという展開はよくある事だが、これほど美しく纏まった映画も珍しい。
事実、専門家や視聴者の評価も高い。
ただ、ベンハミンとその同僚のパブロの苦難苦行にも似た奮闘に比べ、上司であるイレーネの存在が少し曖昧な様にも思えた。
裁判官の中の紅一点の存在と言うだけで、彼女の魅惑な美しい瞳ばかりが独り歩きし、判事補としての彼女の役柄が浅薄にも映った。
それに、殺された若妻の描写はもう少し長くてもよかった様にも思えた。
もちろん全体的な流れで言えば、取るに足らない点ではあるが、非常に完成度の高い仕上がりではある。
タイトルは”瞳の奥の秘密”だが、登場人物にもそれぞれに折り重なった”瞳の奥の真実”が隠されている。
事実、ベンハミンの熱い瞳は常にイレーネに注がれてたし、殺人犯のゴメスの冷酷な瞳は執拗なまでに(幼馴染の)美しきリリアナに向けられてた。
一方で、モラレスの冷静な瞳には妻への愛と殺人犯への復讐が秘められていたし、イレーナの瞳にもベンハミンへの思いと仕事への執着が秘められていた。
勿論、殺されたリリアナの瞳の奥にも犯人を映した影がしっかりと残されてた筈だ。
それぞれ人には秘密があり、その秘密は瞳を通じて”心の隠し部屋”に繋がっていく。
登場人物の瞳に焦点を当て、ミステリーを完結させた完成度の高い傑作だと思った。
そういう私は、(単純に)瞳が美しい人よりも、瞳の中に物語を沢山抱えてる人が好きだ。
だって、瞳を見ただけで、その人の総てを支配した様に思えるからだ。
アソコはたいそう立派なんですよねぇ
どうせマカロニ位のイ○モツしか持ち合わせてないのよって当初は小馬鹿にしていたイレーネ判事補ですが
ゴメスのアソコを見て仰天するシーンは最高でした
熱いんだけど、凍りつく様な執念も見事に描いてた作品でした。
こういう映画をずっと見ていたいです。