まずは、前回のおさらいです。
2004年の古いデータですが、人間が排出する炭素は化石燃料(65億トン)と森林破壊(15億トン)によるものだが、このうち大気中に残留し温暖化を引き起こすのは、その半分にも満たない32億トンである。では、残りの炭素48億トンはどこに消えたのか?
地球は毎年、何百億トンもの炭素が陸地と大気を行き来する。海の中でも同様で、1000億トン近い炭素が海と大気の間を循環する。
この膨大な自然のガス交換に比べれば、人間が毎年排出する80億トンの炭素など取るに足りない。が、人間の排出は着々と自然のサイクルを狂わせ、大気中のCO2濃度はここ50年程で約30%昇した。
研究によれば、北半球の森林は20億トンの炭素を吸収し、残りの28億トンは海が吸収するという。つまり、緑の森と青い海こそが炭素の巨大貯蔵庫になっていたのだ。しかし、森の貯蔵庫では既に限界があると。
一方で、北半球の高緯度の多くの地域で永久凍土が解け、炭素を放出するケースも目立ち、この永久凍土に閉じこめられた炭素は、高緯度地方だけで推定2000億トン。何千年も続いた寒冷な気候がこれだけの炭素を封じ込めてきたのだが、今では”巨大な時限爆弾”になろうとしてる。仮に、北極圏の永久凍土が全て干し上がれば、(現在と比べ)”CO2濃度が25%増える”とされる。
そこで今日は、海の貯蔵庫としての限界と炭素貯蔵の新たなる模索について書きたいと思います。
増えそうにない海の貯蔵庫
高橋太郎氏(コロンビア大)の調査によれば、水温が低く栄養分に富む北大西洋や南極周辺の海はCO2をよく吸収する。CO2は低温の水に溶けやすく、栄養分が豊富にあれば海生の植物が活発に育つ為、水に溶けたCO2をすばやく消費する。そして、動植物が死んで沈む時、体内に取り込まれた炭素も一緒に深い海の底に運ばれるとされる。
水温が高く、栄養分の少ない海では炭素の流れは逆になるが、今の所は地球全体で見れば帳じりは合っている。
海では放出されるCO2より吸収される方が多い。高橋氏の測定では、海の炭素吸収量は陸上の貯蔵庫とほぼ同じ年間平均20億トンで、”消えた炭素の半分は最終的に海に溶けているが、今よりも海の吸収量が増える事はなさそう”だとも考える。
つまり、消えた炭素の半分という”今の比率を維持する事はできない”と。大気中のCO2が増えて温暖化が進めば、海水温度は上がり、CO2は溶け難くなり、更に、溶けたCO2は大気中に放出され易くなる。
自然界の救いに限度があるのなら、”人工の貯蔵庫をつくろう”と、可能性を探る。
”植林”は京都議定書にも盛り込まれた温暖化防止策だが、中国では既に広く根づいてて、70年代から政府の指導で何千万haもの土地に木が植えられてきた。目的は温暖化対策ではなく、洪水や表土の流出防止だったが、結果的に5億トン近い炭素を吸収するようになった。
また、定期的に伐採し、(炭素を大量に取り込む)若い木が常に育つようにすればいい。”年に1度でも10年に1度でも、一定数の木を伐採し、紙や建材にすればいい”とウーフシーは提案する。”永続的に森林が炭素を吸収してくれる筈です”
これに関しては私も同感ですね。
一方で科学者たちは海にも期待し、海水の炭素吸収量を増やす方法を探ってきた。
海洋学者ジョン・マーティンは80年代に、“海の森”の働きをする緑の藻類が鉄分不足の為に、広い範囲で減ってる事に気づいた。
マーティンらは、改造したタンカーを鉄化合物)として海中に投棄する事を提案した。そうすれば藻が活発に繁殖し、工場から排出された空気を浄化してくれる。藻類などの植物とそれを食べた動物が死んで沈めば、その体組織に取り込まれた炭素は深い海の底に安全に閉じこめられると。
だが、現実はそう単純じゃなかった。
事実、少量の硫化鉄を投入しただけで、海面には何十キロもの藻が大発生した。しかし、増えた藻とそれを食べた動物が死んで海底に沈む途中で死骸の腐敗が進み、CO2が放出される。次の世代の藻はそのCO2を取り込むので、大気のCO2を吸収しなくても済む。
仮説は部分的には正しいが、結果的に裏切られるのは世の常であろう。同じ事は、昨今の温暖化説にも言える。
ではどうしたらいい?
自然の助けを借りず、炭素を海中深くに沈めたらどうだろう。
炭素を高圧で液化し、深海に送り込む。水深3000mの海底では液化したCO2は水圧で密度が高まり、水に溶ける事なく海底に留まる筈だ。但し、水深が浅いと海水中に拡散してしまう。
だが、環境保護活動家の多くは、難色を示す。海に大量のCO2を注入すれば深海の水質が僅かに酸性に傾き、海生生物がダメージを受ける恐れがあると。このアイデアはハワイ近海とノルウェー沖で実験が予定されてたが、抗議の声が高まり、計画は断念された。
しかし、どのみち大気中のCO2が増大すれば、海面近くの水は酸性になる。炭素を深海に投棄する事で、そのプロセスを遅らせる事ができるとの指摘もある。つまり、”試しもしないで、やめるべきではない”
一方で、石炭・石油・天然ガスの形で、人間が地球から取り出した炭素は、元の場所である石炭層や油田や天然ガス田、つまり地下や海底の穴が沢山開いた岩石層に戻すのが一番よさそうだ。
大気への放出を防げるだけではなく、埋蔵量の少なくなった油田や天然ガス田にCO2を高圧注入すれば、残った原油や天然ガスが“最後の一滴”まで取り出せる。
こうした”地質学的な隔離”と呼ばれる方法は既に実施されている。ノルウェーの石油会社が採掘を行う天然ガス田では、輸送前にガス内に多く含有するCO2を抽出し、海底の下1キロ近くの砂岩層に注入している。
米エネルギー省も地下3000mの穴を掘り、CO2を地下の岩石層に注入するプロジェクトを計画の予定だ。
長期的に、こうした計画がどの程度効果を発揮するかは分からない。掘り尽くされた油田や天然ガス田には人工の穴が沢山あり、そこから漏れる恐れもあるし、地下水が溶け込むかもしれない。
ノルウエーのプロジェクトはスタートから8年が経過した現在も上手く進んでるようだ。北海の海底下の地層には砂岩層の上に粘土の厚い層がある。この層がこれまで注入された600万トンのCO2を封じ込めてるようにみえる。
”人が化石燃料を燃やし続けても気候にマイナスの影響が出ない”――そんな夢の技術を探る研究者たちにとって、スタットオイル社の成功は励みになるだろう。
一方で、プリンストン大学の研究チームのアイデアは”石炭から炭素を抽出する”という斬新なものだ。
(処理の過程で)石炭は酸素や蒸気と反応し、CO2(汚染物質も含む)と水素ガスを噴き出す。水素ガスは発電に利用するか、水素燃料電池車の燃料として利用する。
CO2は(汚染物質も含め)地下に埋める。故に”再生可能なクリーンな石炭ができ、しかも低価格という石炭ならではのメリットも利用できる”とされる。
或いは、未来のエネルギーをもたらすのは、太陽・風力発電や新世代の安全な原子力発電かもしれない。しかし、(ウーフシーの計測では)残された時間があまりない。木々の精一杯の努力にもかかわらず、計測盤の赤い数値は年々上昇しているのだから・・・
以上、NATIONAL GEOGRAPHIC.JPからでした。
最後に
20年も前の論説だから、今は何処がどう変わり、何処が間違って何処が正しいかは(素人の)私にはわからない。
ただ一つ言えるのは、温暖化問題が今よりもずっとずっと真剣に、そして普通に議論されてたという事だ。
それが今では、(どんなキチガイ娘でも)”カーボンゼロ”と喚けばお金になるし、有名になるし、ノーベル平和賞にノミネートだってされる。
だが少なくとも、20年前は真剣に観察・考察され、新たなる驚異として議論が交わされたのは事実である。
上で紹介した研究者らは、炭素を単に悪者にするだけではなく、何とか人工の貯蔵庫を作り、炭素を封じ込める事を考えた。つまり、そこにはメディア受けする”ゼロミッション”とか”カーボンニュートラル”とかの洒落た言葉は一切ない。
人間がいや他の動物が呼吸をするように、常に炭素は大気中に放出される。それに温暖化の原因はCO2だけではない。メタンガスというCO2に次いで温暖化に影響を及ぼす温室効果ガスがある。因みに、メタンはCO2の25倍、COは298倍の温室効果があるとされる。
環境保護という名目で、専門用語だけを並べ、受けのいい論説だけ並べ、大きな”金のなる木”にする。やがてその巨木は成長を止め、腐れ果て、税金の無駄という有害物質を世界中にバラまく。
つまり、人類にとって一番の脅威は(化石燃料が生み出す炭素ではなく)人類が生み出す強欲なのかもしれない。
>人類にとって一番の脅威は
(化石燃料が生み出す炭素ではなく)
人類が生み出す強欲なのかもしれない。
コレに尽きますね。
僕も専門的な知識はなく、
事の正誤は分かりませんが、
大自然の営みを人の力でねじ伏せ、
コントロールしようと考えるのは
間違っているように思います。
微力でも抗うのはアリ。
せいぜい自然の暴走を逸らすのが
関の山ではないでしょうか。
先回・今回と勉強になりました。
ありがとうございました。
では、また。
特にユニークに思えたのは、京都議定書に参加しなかった米国や中国が(結果的にですが)C2削減に貢献してる事やCO2削減に積極的だった欧州の国々らがプーチンの戦争によって、化石燃料に依存せざる負えない状況に追い込まれた事です。
結局は、使用済み核燃料と同じで(地下深くに埋めるにしても)リサイクルするにしても大きな課題や問題点が沢山あります。
言われる通り、自然の暴走を逸らすのが関の山ってとこでしょうね。
パリ協定では、2050年までに80%のCO2の排出削減目標を掲げていますが、日本では植物の光合成を人工で行うことでCO2を削減するという研究が既に70年代から進められてました。
人工光合成とは太陽光を触媒を使い、水から水素を取りだし、更にCO2と反応させてプラスチックの原料のオレフィンを作ります。
日本は、この水素を産み出す光触媒の研究と技術の進化が凄まじく、光触媒で水素を抽出する太陽エネルギー変換効率は、植物の光合成では0.2~0.3%ですが、人工光合成では既に7%を超えたとされます。目標は10%ですが、太陽光発電の15〜20%に比べても凄い技術です。
また、CO2と水素からオレフィンを作る合成触媒も、その収率は50%以上とかなりのレヴェルにあります。
つまり、人工光合成による”ソーラー水素”の新エネルギー時代が来てるのかもしれません。
核燃料リサイクルは最悪の結果となりましたが、カーボンリサイクルは世界では最も進んでるんでしょうか。
カーボンリサイクルとは、てっきりCO2を電気分解してカーボンと酸素とに分ける事かと思ってました。が、太陽光と化学反応させ、触媒を使って、水素とプラスチックの原料を作り出す新世代の技術に何とか期待が持てそうですね。
ただ問題は、せっかく作り出した水素をどうやって貯蔵するか。
いろんな課題はあるとは思いますが、技術立国ニッポンの底力を世界に見せつけてほしいです。
コメント勉強になりました。
1986年、スエーデンの数学者スヴァンテアレニウスは”CO2の量が等差数列的に増大すると温度はほぼ算術級数的に増大する”と、科学者として初めて大気中のCO2の量の変化が温室効果により地表温度に影響を与えるという考え方を示しました。
これにはフーリエらの影響で、大気中のCO2や水蒸気が赤外線を月がどの程度吸収するかの観測データを使い、シュテファン=ボルツマンの法則を使って、独自の温室効果の法則を定式化したものでした。
ただ、CO2の赤外線吸収率は過大である事が指摘されますが、人類が排出するCO2は再び氷河期が訪れるのを阻止するに十分なほどで、急激に人口が増加しつつある現代では”温暖化の方が食料供給に好都合だ”と記しています。
しかし、1960年代頃までにこの説は学界から信じがたい説として退けられ、氷期と間氷期の周期的繰り返しはミランコビッチの唱えた”地球の軌道変化による”とされていました。
今では、一般に地球の軌道変化が氷期の訪れる時期を決定してるものの、CO2が地球温暖化を加速させると解釈されています。
そのアレニウスですが、CO2が倍増するのに約3000年かかると計算し増したが、今では21世紀中に倍増するとされています。
以上はWikipediaからでしたが、温暖化を好都合としたアレニウスの主張が温暖化の危機に繋がったのも皮肉ですね。
UNICORNさんとpaulさんのコメントはこれだけで記事になりそうです。
因みに、”CO2の量が等差数列的に増大すると温度はほぼ算術級数的に増大する”とは、”温度はCO2の増加量に同じ様に比例して増加する”と言い換えるのでしょうか。
ただ、アレニウスの怪しい所は等差数列的とは算術級数的と同じ事ですが、敢えて(区別し)数学的な言い方をしてます。
一方で、等比級数的と幾何級数的も同じ事ですが・・。
確かに、アレニウスの主張はいい加減な所もありますが、説得力があります。
これは昨今の地球温暖化説と同じかもしれませんね。