前回「#6」では、ガロアは”体K(r)に群Hが対応する”事を主張した。
これは、ガロア理論の中核にある「対応定理」とも言え、”体Kのガロア群をGとすると、拡大体K(V)のガロア群は単位置換{ε}だけとなる。この時、体Kと体K(V)との間に中間体K(r)があれば、それに対応するGの部分群Hが存在し、またGの部分群Hが存在すれば中間体K(r)が存在する”と定義できる。
つまり第4節は、”中間体K(r)が存在すれば、K(r)の元を不変とする部分群Hが存在する”と言える。一方で、第2,3節は”補助方程式の根の添加によりガロア方程式の因数分解が可能になったとする。この時、補助方程式の根をr,r₁,r₂,…とすると、K(r,r₁,r₂,…)のガロア群はKのガロア群の正規部分群である”と言える。
更にガロアは友人への手紙の中で”固有分解こそが正規部分群による剰余類分解である”と書き、正規部分群の定義を簡潔に述べている。
つまり、ガロアは与えられた条件だけを使って正規部分群を発見し、定義まで与えた。勿論、置換の共役を使えば簡単に導き出せるが、所詮は後知恵に過ぎない。ガロアの偉大さはこういう所にも現れている。
そこで今日は、第5節の方程式が解ける為の必要十分条件を探る事にする。この節は2回に分けて長々と紹介しますが(難しくはないけど)理解するには、少し辛抱が必要かもしれません。
第11章〜方程式が解ける時
方程式が(指数が素数となる)単純べき乗根で解けるのはどの様な場合なのか?
”方程式を解くという事は、方程式の群がただ1つの順列しか含まない所まで縮小すべきである事を意味する。何故なら、方程式が解けた場合、あらゆる根の式が置換により変化しても既知となるからである”とガロアは第5節で述べている。
更に続けて、”累乗根の添加により、群がこの様に変化する為には、方程式の群がどの様な条件を満たすのか、を考える必要がある。
そこで、素数次の累乗根を求める演算をそれぞれ異なるものと考え、この解放での可能な演算の順序を見ていく事にする。まず、解の中にある最初の累乗根を方程式に添加せよ。すると、2つの事が起こり得る。
それは、この累乗根の添加により方程式の順列の群が縮小するか?或いは、この累乗根を求める事は単に準備に過ぎず、群は元のままであるか?のどちらかである。だが、累乗根を有限回求める事で群は必ず縮小する。そうでなければ方程式は解けないからだ”
つまり、ガロアは”方程式を解くとは方程式の群を縮小させる事だ”と述べている。
事実、方程式が解ければ、a=…,b=…,c=…,という式が得られるが、これはあらゆる根の置換により変化する。これらが成立する為には、ガロア群が単位元だけの群にまで縮小する必要がある。
”ここで、単純累乗根を求める事で与えられた方程式の群を縮小する方法が複数ある時、単純累乗根の中で可能な最も低次なものだけを考察する必要がある。
pをその最低次にあたる素数とし、p次の累乗根を求める事で方程式の群を縮小できるとする。少なくとも1のp乗根αは既に方程式に添加されてるものと出来る。何故なら、αはpよりも低い次数の累乗根で求める事が出来、αを知る事で方程式の群が影響される事はないからである”
事実、1のp乗根はxᵖ=1という方程式を解けば求まる。これは(x−1)(xᵖ⁻¹+xᵖ⁻²+…1)=0と因数分解されるので、p−1次方程式に帰着する。故に、p以下の次数のべき根を求める事で得られる。
”従って、(第2,3節で述べた)[定理2]と[定理3]より、方程式の群は次の2つの性質を満たすp個の群に分解できる。(1)同じ置換を施す事で1つの群から他の群へ移行できる。(2)どの群も同じ置換を含む。逆に、方程式の群をこの2つの性質を満足するp個の群に分解出来れば、p乗根を求め、それを添加する事で、方程式の群をこれらの部分群の1つに縮小できる”
因みに、”p個の群に分かれる”とは、前回「#6」で使った記号を使えば、rを動かさない置換の群をH、r₁を動かさない置換の群をH₁、r₂を動かさない置換の群をH₂、…との事で、(1)はτ₁⁻¹Hτ₁=H₁,τ₂⁻¹Hτ₂=H₂,…を意味し、(2)はτ⁻¹Hτ=Hを意味する。
”その部分群の置換では不変で、その他の全ての置換では変化する根の有理式をとる。その為には、全ての置換で異なる値をとる有理式を選び、その部分群の置換により得られる異なる値の対称式を選べば十分である”
つまり、式Vが全ての置換で異なる値をとる有理式の例を考えればいい。
そこで、「#3」でガロア群を作った[実例3]を使い、この様な有理式を作ってみる。
x³+3x−2=0の3つの解の全ての置換で作ったガロア群は、ε→V,(23)→V₁,(12)→V₂,(123)→V₃,(132)→V₄,(13)→V₅での6つであった。
ガロアの言う”その部分群”をH={ε,(123),(132)}とすると、”その部分群の置換により得られる異なる値”はV,V₃,V₄である。故に、その対称式として最も簡単な式をθ=V+V₃+V₄とすると、θがHの置換で変化しない事は明らかで、その他の置換では、θ₁=V₁+V₂+V₅とすると、以下の様に全てθ₁変化する。
(23):θ→(23)(V+V₃+V₄)=V₁+V₅+V₂=θ₁、
(12):θ→(12)(V+V₃+V₄)=V₂+V₁+V₅=θ₁、
(13):θ→(13)(V+V₃+V₄)=V₅+V₂+V₁=θ₁、
第12章〜剰余類群と巡回群
”ここで、θをその様な根の有理式とする。
θに、全体の群に含まれているが、その部分群に含まれていない置換を施し、その結果をθ₁とする。更に、θ₁に同じ結果を施し、その結果をθ₂とする。以下同様、pは素数なので、この列はθₚ₋₁で終わる。その後はθₚ=θ₁,θₚ₊₁=θ₁と続く”
θはHで変わらないし、当然Hはθ₁~θₚ₋₁も変えない。そこで、θをθᵢに変える置換をτᵢとする。θᵢにHを作用させる事は、θにτᵢを作用させて更にHを作用させる事と同じである。だが、Hは正規部分群より、τᵢH=Hτᵢなので、θにHを作用させてからτᵢを作用させたのと同じになる。この場合、Hでθは変化せず、τᵢでθはθᵢに変わる。故にθᵢは変わらない。
一方で、Hが正規部分群でない時は、ここが崩れ、θᵢが変化する。故に、τᵢを上の様に定めると、GはG=H+Hτ₁+Hτ₂+⋯+Hτₚ₋₁と右剰余類分解される。
ここで、Hはθを動かさないので、Hτₖに含まれる置換は全てθをθₖに変える。つまり、θを固定(相手に)すれば、Hτₖは全体として1つの置換の様に働く、剰余類群になる。
この剰余類群には、H,Hτ₁,Hτ₂,…,Hτₚ₋₁のp個の元がある。言い換えれば、この剰余類群の位数は素数pである。
ここで”位数が素数である群は巡回群である”との「コーシーの定理1」より、素数p個の要素の置き換えである置換群の位数がpならば、この群は(12…p)の置換を生成元とする巡回群となる。例えば、5個の要素の置換群Gの位数が5ならば、a=(12345)として、G={ε,a,a²,a³,a⁴}となり、巡回群を満たす。
更に、”部分群の位数は全体の群の位数の約数である”との「ラグランジュの定理」より、位数が素数であれば自明な部分群は存在しない。
そこで、少しややこしくなるが、τ₁,τ₂,…,τₚ₋₁の置換の元を1つ1つ調べてみる。
θにτ₁を施すとθ₁となる。更に、θ₁にτ₁を施すと、θにもθ₁にもなり得ない。これは、τ₁がθ₁を変えないと仮定すると、τ₁τ₁⁻¹はθをθ₁に変え、θ₁を変えないので、結局θはθ₁となる。が、τ₁τ₁⁻¹=εより矛盾。故に、τ₁によりθ₁は変化するが、θに戻った時はτ₁²=εとなり、{ε,τ₁}が部分群となるが、pが素数なので矛盾。故に、θ₁はθでもθ₁にもなり得ない。
そこで、これをθ₂とする。以下同様に、τ₁を施す度にθはθ₁,θ₂,θ₃,…,と変わり、p回施せばθに戻る。
故にτ₂=τ₁²とすれば(以下同様にして)、τ₂=τ₁²,τ₃=τ₁³,τ₄=τ₁⁴,…,τₚ₋₁=τ₁ᵖ⁻¹,τ₁ᵖ=εとなり、この群はτ₁Hを累乗していけば、全ての元が出てくる巡回群となる。
また、τ₁はθ→θ₁,θ₁→θ₂,…,θₚ₋₁→θと変化させるので、置換τ₁は(θ,θ₁,θ₂,…,θₚ₋₁)→(θ₁,θ₁,θ₂,…,θ)となる。
”そこで、式(θ+αθ₁+α²θ₂+…+αᵖ⁻¹θₚ₋₁)ᵖは全体の群に含まれる全ての置換で不変であり、従って既知となる”とガロアは書いている。
因みに、()内の式はラグランジュの分解式である。但し、この式のθ,θ₁,θ₂,…をこの順番で回しても式全体の様子は変わらず、αの何乗かが変わるだけだ。
また、αは原始p乗根よりαᵖ=1なので、この式のp乗の値は変わらない。
例えば、この分解式をEとし、Eᵖにτ₁を施してみれば、Eᵖ=(θ+αθ₁+α²θ₂+…+αᵖ⁻¹θₚ₋₁)ᵖ→(θ₁+αθ₂+α²θ₃+…+αᵖ⁻¹θ)ᵖ=((αθ₁+α²θ₂+α³θ₃+…+αᵖθ)/α)ᵖとなる。またαᵖ=1より、=((αθ₁+α²θ₂+α³θ₃+…+θ)/α)ᵖ=(θ+αθ₁+α²θ₂+…+αᵖ⁻¹θₚ₋₁)ᵖとなるので、式Eᵖはτ₁によって変化しない。
従って、τ₁のべき乗で置換しても変化しない。故に、Eᵖは全ての置換で変化しない。
つまり、ガロア群の置換で変化しないのはその体の元だったのだ。故に、この式の値を求める事は可能となる。
ラグランジュ分解式の一世一代の晴れ舞台とは、この事である。
”この式のP乗根を求め、それを方程式に添加すれば、(第4節の)[定理4]により、方程式の群はその部分群以外の置換を含まない。従って、方程式の群が単純累乗根によって縮小される為には、上記の条件が必要かつ十分である。
つまり、累乗根を添加すれば、同じ様に分解していき、最後はただ1つの置換しか含まない群に達するであろう”[定理5]
但し、”上記の条件”とは、”ガロア群に正規部分群が存在し、その剰余類群の位数が素数”という事である。
つまり、上記の様にしてラグランジュの分解式Eを作れば、Eᵖはこの正規部分群で不変。つまり”有理的”であり、求める事が出来る。
故に、そのp乗根とEを元の体に添加すれば、ガロア群は([定理5]の様に)この有理式を不変にする順列以外は含まない様に小さくなる。
こうしてガロア群は、”上記の条件”の如く、その正規部分群にまで縮小する。
第5節の途中ですが、今日はこの辺で終了とします。次回「#7の2」では”上記の条件”を実際に例を挙げて説明し、ガロアの第1論文の締め括りにしたいと思います。
最後に
寄せられたコメントにもある様に、ガロアは元の方程式のガロア群の中に正規部分群を見出し、ガロア群を正規部分群による剰余類分解ができれば、ラグランジュの分解式の値が求まる。基礎体に、この分解式を添加すれば体は拡大し、ガロア群は最小の正規部分群{ε}へと縮小する。
そこで、それぞれの剰余類群の位数が素数の時に限り、方程式はべき根で解ける。これこそが第1論文でのガロアの主張である。
ガロアはアーベルの背中を追い、確実に射程内に捉えていた。第1論文の中にも、ガウスやコーシーやオイラーの名前も出てきますが、アーベルをより意識した言葉が目立つ。
勿論、ポアソンやラグランジュも出てきますが、特にポアソンに関しては”彼は私の(新しい数学の扉を開く筈の)論文を理解できなかった”と批判し、”計算でやれる事は全てオイラーがやった。未来の数学者は計算の上を飛ぶべきだ”と明確に言い放った。
更にガロアは、第1論文の序文にて、”これは数年前にパリの学士院に提出した著作の抜粋だが・・・著作の一部を概括的に記すに留める。世の識者がこの数頁を注意を持って読む事を望む”と書いている。
全く、20歳のガロアの無念がここまで伝わってきそうである。
おかげで
コメントがついていけませんわ
ガロアの論文が最終章に差し迫ったというのに
いきなり長編推理小説を3連発って(?_?)
ガロア群→正規部分群→剰余類群分解に
分解式の添加→体の拡大→最小の正規部分群{ε}への縮小
こうした流れで方程式は解ける
数学って1つ1つ階段を登るようにして理解しないとついていけないのかな(*_*)
なかなか付いてきてますよ
感心関心です。
数学は流れってもんが重要なんですよ。
勿論、階段を登るように1つ1つ着実に理解する必要もあるんですが
流れを掴んで、一気に先まで翔んじゃうって勇気も必要なんですね。
ガロア理論の連載ですが、「ガロアの論文を読んでみた」を忠実に拾ってるので、何処から読んでもそれなりについていけると思います。
第2、3節での”補助方程式の根を添加した場合にガロア方程式がどの様に変化するか”を調べ、正規部分群を発見する所が最大の山場ですが、それ以外は置換さえ理解すれば何とかなります。
次回の「#7-2」で終りですが、ここでまとめを書くので、それだけでも充分だと思います。