第2節の後半ですが、「前半」で述べたガロアの主張(1)を2つに分けて考察し、その後に正規部分群に繋がる、主張(2)を説明します。主張(1)を完璧にマスターすれば、難解とされる主張(2)は意外にも簡単に理解できそうです。
以下、長らくお付き合いください。
(1)の考察
まず、主張(1)を2つの部分に分けて考える。
①K(r)上でガロア方程式が因数分解された場合、群が縮小する。但し、補助方程式はK上の方程式で、補助方程式の係数はもとの方程式の係数体Kの元である。
ここで、素数p次の補助方程式s(y)=0の根rを添加すると、体KはK(r)に拡大する。但し、後の便宜の為に補助方程式の変数を敢えてyとした。
仮に、rの添加でガロア方程式の左辺:g(x)=h(x)p(x)と因数分解できたとすると、K(V)上ではg(x)=(x−V)(x−V₁)(x−V₂)⋯の様に1次式にまで分解されるので、h(x)もp(x)も(x−Vⱼ)を幾つか掛け合わせたものとなる。
そこで、Vが含まれてる方をh(x)とすると、h(x)はK(r)上既約なので、h(x)=xᵏ+t₁xᵏ⁻¹+t₂xᵏ⁻²+⋯+tₖと出来る。
一方で、Kで既約であるg(x)がK(r)で因数分解された事実は、”t₁,t₂,…,tₖはKの元ではないがK(r)の元である”事を意味するので、更に、h(x)に含まれるVの共役をV₁,V₂,V₃,…,Vₖ₋₁とし、V₁=λ₁(V),V₂=λ₂(V),V₃=λ₃(V),…,Vₖ₋₁=λₖ₋₁(V)とする。
この時のh(x)とh(λⱼ(x))の関係は、xにVを代入すれば、h(V)=0、h(λⱼ(V))=h(Vⱼ)=0、(j≤k)となるから、h(x)とh(λⱼ(x))はVという共通根を持ち、かつh(x)は既約なので、[補題1]よりh(λⱼ(x))はh(x)で割り切れる。
因みに、「序章」で述べた[補題1]では”有理多項式と既約多項式が共通根を持てば、有理多項式は既約多項式で割り切れる”事に留意する。
故に、K(r)上の多項式m(x)が存在し、h(λⱼ(x))=h(x)m(x)となり、i≤kに対し、h(λⱼ(Vᵢ))=h(Vⱼ)m(Vᵢ)=0×h(Vⱼ)=0を得る。
ここで、Vᵢ=λᵢ(V)を上式の左辺に代入し、h(λⱼ(λᵢ(V)))=0を得て、これは、h(x)が(x−Vⱼ)を掛け合わせた形になるので、λⱼ(λᵢ(V))がV,V₁,V₂,V₃,…,Vₖ₋₁のどれかに一致する事を意味する。
従って、λⱼ,λᵢはV,V₁,V₂,V₃,…,Vₖ₋₁のある置換を意味し、その結果もまたV,V₁,V₂,V₃,…,Vₖ₋₁になる。つまり、これらの置換は群を成すので、この群をHとする。
分解式の定義より、体K(r)上でのVの最小多項式g(x)は元の方程式のガロア分解式であった。今、体K(r)上でのVの最小多項式はh(x)なので、体K(r)上でのf(x)=0のガロア分解式はh(x)となる。
ここで、体K上のガロア群と、体K(r)上のガロア群Hを並べてみる。Gの位数をmとすれば、
G={(V→V),(V→V₁),(V→V₂),⋯,(V→Vₘ₋₁)}、H={(V→V),(V→V₁),(V→V₂),⋯,(V→Vₖ₋₁)}となり、これを整理すれば、”体K上―ガロア方程式g(x)―ガロア群G”と”体K(r)上―ガロア方程式h(x)―ガロア群H”との関係を得る。
次に、②s(y)=0の根r,r₁,r₂,…の添加によるg(x)の因数分解だが、①と同じ様に、仮に、根rの添加でガロア方程式g(x)がh(x)p(x)に因数分解できたとすると、h(x)もp(x)もxの多項式で、その係数はK(r)の元で、rの多項式でもある。故に、h(x)とp(x)をh(x,r)とp(x,r)で表す。但し、g(x)の係数は体Kの元なのでrは含まれない。
ここで、[補題1]より、F(x,r)=g(x)−h(x,r)p(x,r)=0と展開でき、整理すれば次の様に、K(r)の元を係数とするxの多項式:F(x,r)=uₛ(r)xˢ+uₛ₋₁(r)xˢ⁻¹+uₛ₋₂(r)xˢ⁻²+⋯+u₀(r)xを得る。また、F(x,r)=g(x)−h(x,r)p(x,r)=0より、ここでrを変数と見れば、これはxの恒等式となり、全ての係数が0となる。
従って、uₛ(r)=uₛ₋₁(r)=uₛ₋₂(r)=⋯=u₀(r)=0となり、ここで、rを変数yに入れ替えると、補助方程式s(y)=0とuₛ(y)=0,uₛ₋₁(y)=0,uₛ₋₂(y)=0,…,u₀(y)=0は根rを共有する。s(y)は既約なので、[補題1]より、uₛ(y)=0,uₛ₋₁(y)=0,uₛ₋₂(y)=0,…,u₀(y)=0はs(y)で割り切れる。
すると、体K(r)上の多項式q(x,y)が存在し、F(x,r)=g(x)−h(x,r)p(x,r)=s(y)q(x,y)を得る。従って、s(y)=0の全ての根r,r₁,r₂,…,rₚ₋₁にて、g(x)−h(x,rⱼ)p(x,rⱼ)=0⇒g(x)=h(x,rⱼ)p(x,rⱼ)となり、根rの共役rⱼを添加して生じるg(x)の因子は全てh(x,rⱼ)の形をして、xにても同じ次数となる。
ガロアは”p個の因数に分解できる”とだけ書いてるが、pが既約方程式の次数を表してるなら、重複がありうるのでg(x)がp個の因子に分解されるとは限らない。だが、pが素数であれば、p個の因子に分解される。
事実、原稿には”既約な補助方程式”の所に”素数p次”と書かれ、後にそれを消した跡がある。もし、素数p次という言葉が残ったままなら、ガロアの記述は明快で、補助方程式の次数が素数p次であれば、g(x)=h(x,r)×h(x,r₁)×h(x,r₂)×…と、”同じ次数で同じ形のp個の因数”に分解される。
これで(1)の説明を終える。
(2)の考察
次に、(2)の素数p次の補助方程式s(y)=0の根r,r₁,r₂,…,rᵖ⁻¹の添加によって縮小した群Hと、rᵢによって縮小したHᵢの関係を考察する。
つまり、K(r)のガロア群がHで、K(r₁)のガロア群がH₁、K(r₂)のガロア群がH₂、…という事になるが、ここは簡単にHとH₁の関係を考える。
(1)の①で、h(λⱼ(x))=h(x)m(x)の式を考えたが、h(x)は係数体Kにrを添加した時に生じたガロア方程式g(x)=0の因子で、λⱼ(V)=Vⱼはh(x)=0の根の1つ、m(x)はK(r)上の多項式だった。
そこで②でやった様に、rを強調し、h(λⱼ(x),r)、h(x,r)、m(x,r)と書くと、上式はh(λⱼ(x),r)=h(x,r)m(x,r)となる。
この左辺をE(x,r)とおき、同様に展開すれば、E(x,r)=h(λⱼ(x),r)−h(x,r)m(x,r)=vₜ(r)xᵗ+vₜ₋₁(r)xᵗ⁻¹+vₜ₋₂(r)xᵗ⁻²+…+v₀(r)x=0となり、ここでrを変数と見れば、これはxの恒等式となる。故に、vₜ(r)=vₜ₋₁(r)=vₜ₋₂(r)=…=v₀(r)=0となる。
従って、ここでrを変数yに置き換えると、vₜ(y)=0,vₜ₋₁(y)=0,vₜ₋₂(y)=0,…,v₀(y)=0は補助方程式s(y)=0と共通根を持つ。s(y)=0は既約なので[補題1]より、vₜ(y),vₜ₋₁(y),vₜ₋₂(y),…,v₀(y)はs(y)で割り切れる。
つまり、体K(r)上の多項式n(x,y)が存在し、E(x,y)=h(λⱼ(x),y)−h(x,y)m(x,y)=s(y)n(x,y)となるので、s(y)=0の根r,r₁,r₂,…,rᵖ⁻¹の根について、h(λⱼ(x),rⱼ)−h(x,rⱼ)m(x,rⱼ)=s(rⱼ)n(x,rⱼ)=0を得る。
ガロアが”f(F(V),r)→f(V,r)で割り切れる式”とか”f(F(V’),r’)→f(V’,r’)で割り切れる式”と記してるのはこの事である。そこで、ガロアの表記との対応を以下に示す。
f(F(V),r)のVをxに変えたもの―h(λⱼ(x),r)
f(V,r)のVをxに変えたもの―h(x,r)
f(F(V’),r’)のV’をxに変えたもの―h(λⱼ(x),r₁)
f(V’,r’)のV’をxに変えたもの―h(x,r₁)
これは、h(λⱼ(x),r)はh(x,r)で割り切れ、h(λⱼ(x),r₁)はh(x,r₁)で割り切れる事であり、”h(x,r)=0の根Vに対し、λⱼ(V)もh(x,r)=0の根ならば、h(x,r₁)=0の根Vₖに対し、λⱼ(Vₖ)もh(x,r₁)=0の根である”事―③を意味する。
故に、V→λⱼ(V)がHの置換ならば、Vₖ→λⱼ(Vₖ)がH₁の置換となる。
結局、Hの置換からH₁の置換を作るには、Hの置換(V→λⱼ(V))に対し、(Vₖ→λⱼ(Vₖ))がH₁の置換になるので、Hの置換VをVₖに書き換えればいい。この事をガロアは”順列(F(V))が順列(F(V’))に移行する為には、順列(V)が順列(V’)に移行するのと同じ置換を施す必要がある”と書いた。
そこで、③よりh(x,r)=0の根をV,λ₁(V),λ₂(V),λ₃(V),…とすると、h(x,r₁)=0の根はVₖ,λ₁(Vₖ),λ₂(Vₖ),λ₃(Vₖ),…となる。
故に、Hの置換:(V→λ₁(V)),(V→λ₂(V)),(V→λ₃(V)),…に対し、H₁の置換:(Vₖ→λ₁(Vₖ)),(Vₖ→λ₂(Vₖ)),(Vₖ→λ₃(Vₖ)),…となる。以上より、Hの置換をもとにH₁の置換を作るには、VをVₖに書き換えればいい。
ただ、ガロアが述べてるのはここまでで、置換を作るのに一々”順列(V)が順列(V’)に移行するのと同じ置換を施す”とやってたら普通でなくとも頭が混乱する。
但し今では、この部分は簡潔に記号化され、置換(V→V₁)をσ、置換(V→Vₖ)をτとすると、σ={(1,2,3,…,n)→(σ(1),σ(2),σ(3),…,σ(n))}、τ={(1,2,3,…,n)→(τ(1),τ(2),τ(3),…,τ(n))}として、σに対し”順列(V)が順列(V’)に移行するのと同じ置換を施す”とは、σの左の順列を右の順列にτを施す事を意味し、その結果は{(τ(1),τ(2),τ(3),…,τ(n))→(τ(σ(1)),τ(σ(2)),τ(σ(3)),…,τ(σ(n)))}となる。が、実はこれは、τ⁻¹στと等しくなる。
実際に、τ⁻¹={(τ(1),τ(2),τ(3),…,τ(n))→(1,2,3,…,n)}となり、τ⁻¹στの要素を順に確認すれば、τ(1)→1、1→σ(1)、σ(1)→τ(σ(1)、故にτ(1)→τ(σ(1)。以下、数字の1がそれぞれ2,3,4,…に変わるだけで、上の結果と同じになる事が判る。
これは、Hの置換(V→λ₁(V))を元にH₁の置換(Vₖ→λ₁(Vₖ))を作るには、まずVₖをVに置換(τ⁻¹)し、次にVをλ₁(V)に置換(σ)し、最後にλ₁(V)をλ₁(Vₖ)に置換(τ)すればいい。つまり、Vₖをτ⁻¹στで置換すればλ₁(Vₖ)を得る(上図参照)。
以上より、Hの全ての置換に、τ⁻¹στの操作をすれば、H₁の全ての置換を得る。
この様に、σとτ⁻¹στの関係にある置換を”共役”(又は内部自己同型)というが、共役変換しても不変な部分群となる。
従って、Hの置換とH₁の置換は共役関係にあり、H→H₁に移る順列の1つをτとし、Hの全ての置換σᵢにてτ⁻¹σᵢτを計算すれば、H₁の全ての置換を得る。
一方で、既約方程式の根と根を共役な関係と呼ぶが、ガロア群の置換でも共役の関係は、それ以上に深く結ばれている。
そこで、以下の結論を得る。
補助方程式の根rの添加により生じたガロア方程式g(x)=0の因子h(x.r)を動かさない群H、rの共役r₁の添加により生じた因子h(x.r₁)を動かさない群H₁、r₁の共役r₂の添加により生じた因子h(x.r₂)を動かさない群H₂、…について、つまり、K(r)のガロア群がH、K(r₁)のガロア群がH₁、K(r₂)のガロア群がH₂、…について、次の等号が成立する。但し、h(x.r)=0の根の1つをV、h(x.r₁)=0の根の1つをV₁、h(x.r₂)=0の根の1つをV₂、…とした時、τ₁:(V→Vₖ)、τ₂:(V→V₂ₖ)、…とする。
この時、H₁=τ₁⁻¹Hτ₁、H₂=τ₂⁻¹Hτ₂、…が成立する。
これを現代の記法に直せば、置換τᵢをガロア群の要素とすると、Hはガロア群の正規部分群となる事が判る。
因みに、この第2節はガロアですら混乱した所で、軽く読み流しても構わんです。
というのも、正規部分群の存在さえ解ってれば、大方省略出来る部分ですから、但し、ここを正面突破した17歳のガロアの勇気と覚悟には恐れ入る。
つまり真の天才とは、どんな状況に置かれてもその優れた才能を発揮するもんですが、潰され易いのもこれまた真なりですね。
次回「#5」では、第3節に進み、正規部分群の発見と定義について書きたいと思います。
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